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八百万の神々と千年王国の竜  作者: 涼城 鈴那
鉱山都市と管狐の三姉妹

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ねがい

ここからは俺の独壇場となった。


掛け金にオレンジチップ10枚を賭け、確実に勝てる際にはそれまでの勝ち分を全てつぎ込みチップを倍々に増やしていき、負ける手札の時はしっかり降りて掛け金の半分5枚のみを取られると言う事を繰り返して行った。


その結果6ゲームを数えた頃には俺の手元のオレンジチップは1600枚を超えた。

ただオレンジチップが1600枚だと扱い辛い為、普通はまず使用されないオレンジの上位チップ「シルバー」が俺の為に用意された。


オレンジチップの10倍の価値を持つ「シルバー」に替え、チップは160枚となった。

顔面が蒼白となったディーラーと支配人らしき男が顔を突き合わせてなにやら相談している。何しろ金貨1枚の貨幣価値は日本円だと2~3万円位だ、それが16000枚となれば約3億円をはるかに超える額だ。


相談している彼らの表情や仕草からすると、ディーラーと支配人との上下関係は同程度で幾らかディーラーの方が立場が上の様な感じだ。このカジノの系列は共和国含め数店舗あり、かなりの売り上げがあるようだが個人に金貨16000枚分も負けてしまっては経営に深刻な影響が出るのは確実だろう。


ディーラーとの相談を終えた支配人が腰を低くして俺に提案をしてきた。


「あの、お客様、誠にお恥ずかしい話なのですが・・・。」

そう前置きして支配人は続けた。なんでも現在このカジノに準備してある金貨を全てかき集めてやっと俺の勝ち分に届く程度なのだとか。肝心のディーラーがそこまで負けてしまった責任を感じて体調を崩してしまい、カードゲームの継続が不可能になったそうだ。


「それで次のゲームに大きく勝つ事の出来るダイスなどはいかかでしょうか?」


カードでは勝ち目が無い所為で、負けを取り戻す為に別のゲームを提案か。

一体どんなゲームなのか聞いてみると、1~6までの数字の書かれた6面体のダイスを3個振って出た目で勝負を決める単純なゲームだと言う。


当然大きな目を出した方が勝ちだが、三つの目の組み合わせで役があり、それぞれの難易度に合った倍率で額が大きくなるとの事だ。カードでは掛けた金額と同額を受け取るだけだったが、ダイスの場合だと最高の役『1の目が3つ』揃えば掛け金は100倍になり、一気に稼ぐことが出来ると説明された。


そのダイスゲーム用のテーブルを見てみるとダイスとカップが用意されており、どうやら3つのダイスを入れたカップを台に伏せた後にカップを開けて目を確認する様だ。チンチロリンの様にダイスを振って出た目で勝負するのではなく、カップを伏せている状態では結果が見えないと言う所が怪しい。


桜をテーブル下に探らせると、やはり内部にヒトが潜む空間があり、すぐ脇の壁の向こうから出入りできる構造になっている様だ。下から針を刺して出目を調整するイカサマが可能というわけか。「1の目が3つ」で100倍というのも高倍率過ぎる、普通なら5倍とかが相場だろうに、絶対出さない自信があるとしか思えない。


本来なら絶対に勝ち目がないゲームではあるが、俺は少し考えてある可能性に気付いた。上手くいけば俺に有利になるかもしれない、いや周りの野次馬を味方に付ければ行けるのではないだろうか。


「いいだろう、一発勝負と行こうか。」

「え?一発勝負ですか?」

「俺はチップをこの一回に全部賭ける、それで終わりだ。」


その言葉に周囲がどよめく、金貨にして16000枚以上が一度で動く一発勝負だ。

こんな賭けはいままで見たことが無かっただろう事は想像に難くない。

たちまちカジノ中の客と関係者がダイスの台に群がり始めた。


「シルバーチップなんて初めて見たぜ。」

「金貨16000枚の一発勝負なんて滅多に見れるもんじゃない。」

「一世一代の大勝負って凄ぇな。」


「変則的な勝負だ、まずはアンタから振ってくれるか?」

俺がそう言うと新ディーラーは即了承してダイスを手に取り準備に取り掛かる。

カップを右手に持ちダイスを3個カップに入れ、軽く振ったカップを台に伏せる。

そうして少し勿体ぶってカップを開けると出た目が「5-4-6」だった。


流石にゾロ目や役目が出たらイカサマを疑われる状況で、そんなあからさまな事はしなかったか。なにしろ奴らは俺の目をそれ以下にすれば勝てる訳だから無理する必要が無いのだ。そしてドワーフが一人台の下で待機しているのが確認できた。


「さあ、お客様の番ですよ。」

ディーラーが余裕の表情でこちらがダイスを振るよう促してくる。

俺はおもむろにカップにダイスを入れ、カップを振りそのまま台に伏せた。


周囲の野次馬は固唾を飲んで勝負の行方を見守り、場内は静寂に包まれた。


「さあ、カップを開けてください。」

「まぁ、待て。一つ確認だ。」

「確認?何でしょう?」


俺の言葉に訝しげにディーラーが問い返す、俺は続けた。


「これで俺が1を3個出せば100倍になるが、その金貨は用意できるのか?」

「・・・もしそうなった場合は少々お時間を頂いてご用意させて頂きます。」


まぁ、勝たせる積りは微塵もないから、用意なんてする積りもないだろう。

俺は『もしそうなった場合、払い戻しは要らない。その代わり・・・』


「このカジノに借金してる人たちの借金をチャラにしてくれないか?」

と提案した。ディーラーが返事をする前に周囲の野次馬が騒ぎ出した。


「おい!何だと!あんたが勝てば俺達の借金が無くなるのか!?」

「ちょっと待て!なんで俺らの借金を肩代わりしてくれるんだ!?」

「おい!見ず知らずのアンタに何の得が有るってんだ!?」


ダイスの勝負の行方は一旦忘れ去って周囲の債務者たちが降って湧いた借金帳消しの話の真偽をしつこい位に訪ねてくる。


「俺がこの国に来た目的は『炎の大結晶』の元に行く為だ。」

現在、大結晶の元に繋がる坑道が塞がっており、復旧作業も遅々として進んでいない事、その理由の一つに借金の所為で危険な作業に二の足を踏んでいる者が多いと云う事、その不安を解消する為に俺が借金を帳消しにしてやる、と宣言した。


「もし借金が帳消しになるなら坑道掘る位幾らでもやるぞ!」

「おう!借金さえなければ恐れる物は何も無いわい!」

「借金の為に幾ら働いても暮らしは楽にならんのだ、借金さえなければ!」

「あんたの勝利に全てを賭けるぞ!俺達は!」


どうやらここに居る者のほとんどは何かしらの借金を抱えている様だ。

女店員も借金のカタで働いているようで、この勝負の行方を真剣に見守っている。

客とカジノの従業員の期待と不安を一身に背負い勝負は3つのダイスに委ねられた。


「皆!勝利の女神に届くよう俺の勝利を願ってくれ!」

そう言う俺に、ギャラリー達の『勝利の願い』が場内に木霊する。


「女神様!どうかこの兄さんに主のご加護を!」

「女神様お願い!病気のお母さんが苦しんでいるんです!彼に勝利を!」

「女神様!以後は悔い改めます!この青年に勝利をお与えください!」

「このまま一生を借金に追われて暮らすのはいやじゃあああ!」


「よし、カウントダウンだ!『10』!」

俺の言葉に周囲が一体となり、カウントダウンが開始される。

「9!」


「8!」


ディーラーは周囲の声に圧倒されながらも、絶対負ける訳が無い勝負を確信していた。ダイスの目はこちらで自由自在なのだ。


「7!」


『ダイスの目は俺のより少なければ良いんだ、間違うなよソムチャイ!』


「6!」


『いいか!5-4-6以下なら何でもいいんだ!間違うなよ!』

ディーラーは周囲の声援のあまりの大きさに戸惑いながらも台の中にいるドワーフに確認する為、台の下を軽く前もって決められた回数で叩く。


「5!」


『?おい!ソムチャイ!返事の合図をしねぇか!』


「4!」


『ソムチャイ!おい!』返らぬ合図に焦るディーラー。


「3!」


『ソムチャイ!おい!まさかお前・・・・』


「2!」


ディーラーはここに至り重要な事実を見逃していた事に気付き愕然とした。

『ソムチャイ・・・お前も店に借金が・・・・あったな・・・』


「1!」


ディーラーはマサキのダイスの目を確認する前にその場に崩れ落ちた。


「0!」

その言葉と同時にカップはゆっくりと開けられた。

静まり返る場内、誰もが台上のダイスに集中する。


借金に苦しんでいた彼らの「ねがい」が勝利の女神に届いたかどうかは定かではないが、台の下のドワーフの心には確実に届いた様だ。


そこには3個揃った1の目がしっかりと存在を主張していた。


「・・・出おった・・・」

「・・・これは・・・夢か・・・」

「・・・・間違いない、1-1-1だ・・・・。」


瞬間、カジノ内で大歓声が爆発した。折角出たダイスの目を消し飛ばしそうな勢いで勝利の雄たけびが響き渡り、その雄たけびはカジノの外まで響き周囲の耳目を集める騒ぎにまで発展した。


「間違いなく兄さんの勝利だ!わしらが証人だ!」

「女神様に願いが届いたぞーーーーーー!」

「ありがとう!お兄さーーーーん!」

「これで晴れて自由の身だぁぁぁぁあ!」


マサキの周りにはギャラリーが群がり、露出の高い服装も全く気にせず美しきものが侍る、抱き着く、もみくちゃにされる。店内のギャラリーのほとんどが大なり小なり借金に苦しんでいた様でゲームどころではなくなり、カジノの機能が完全に停止してしまった。


この日からマサキの名は「THE GAMBLER」として響き渡る事になった。



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