表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
八百万の神々と千年王国の竜  作者: 涼城 鈴那
暁の邂逅

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/213

小さな事件と王国の由来

俺が街から帰って来た翌日、村ではちょっとした事件が起こった。

村の数件の家の畑でマスクメロンらしき果実が実りつつあるという。

量はそんなに多くは無く、一つの畑で1~4個の収穫が見込める程度らしい。

マスクメロンの取れそうな畑の持ち主は大喜びしているが、そうでない畑の持ち主はなぜ収穫できないのか、どうすれば収穫できるのか思い悩んでいるらしい。

村長からこの現象に何か心当たりがないかと相談を受ける事になった。


ハンナさんの畑では俺が試行錯誤しながら手入れをしたし、俺が独自に耕した畑では山から掘ってきた腐葉土を土に混ぜたり、発酵した鶏糞を与えてみたりと色々やったからメロンの成長が良くなったのは理解できる。

しかし今マスクメロンらしきものが育っている畑と言うのは、俺は全く関与していない。それどころか近くに寄ったことも無い畑も多い。

一体これはどうした事だろう?相談を受けた午前中に問題の畑を見て回ったが、これといった共通点は見当たらない。

基本、どの畑も蔓が伸び放題で絡み合いどの茎にどの実がなっているのかも解りづらい。陽当たり。土のやせ具合、土の水分など色々見てみるがどの畑もまちまちだ。

結局何も解らないまま午後になり、子供達との集合場所に向かった。


「うわぁ、いいなぁ綺麗なお洋服。」

「街で買って貰ったんだって?いいなぁ。」


集合した子供たちの話題の中心となったのは新しい洋服に身を包んだカチュアだった。改めて子供たちを見てみればほとんどの子らは男の子はホワイトシャツとズボン、女の子はブラウスにスカートといった服装でワンピース1枚だったのはカチュアだけだった。

表には出さなかったのだが今までは自分の服装に相当引け目を感じていたのではないだろうか。


「でもさ、畑のアミメメロンが増えればみんな生活が楽になるよね。」

そう言ったのはクレア、14歳の優しい女の子だ。


「そうだな、カチュアのところみたいに多くはないけどウチも2つ取れそうだし。」

こいつはバーツ、背伸びしたがる14歳の男の子。


「俺の家でも3つ位育ってるから楽しみだな。」

ロディ、バーツと一緒に行動する事が多い面倒見の良い14歳。


「あたしんちは上手くいけば4つ採れそうだよ。」

マキ、ボーイッシュな女の子でスカートではなくズボンを着用している12歳。


『4つは凄いな。』『俺んちは1個も無いぞ。』子供たちの様々な感想が並ぶ。

こうして聞いているとここに居る12人の子供の家でも採れたり獲れなかったりしている様だ、一体何が関係しているんだろう・・・。

ん?あれ?確か30軒の村のうち5~6軒でしか育ってないって話なのに、この子らの家に集中してないか?


「この中でアミメメロンが取れそうなところ、手を挙げてみて?」


先ほど話していた4人と更に3人が手を挙げる、ペンチ10歳女子。フレッド11歳、ジミー7歳村長の孫男子の計7人。ロディとフレッドは兄弟だから実質6軒。

『6軒!?全部この子らのうちの畑って事か!?』


子供ら全員にもしかして家のメロンを手入れしたのか尋ねてみる。

最年少の4歳のマルロ、ルチーナは兎も角としてそれ以外の全員がハンナさんの畑を手伝ったやり方で自分の家のメロンの手入れをしていたらしい。

ただ、親に黙って畑の苗全部をという訳にもいかず、1~2本で試したらしい。まぁそうだよな、せっかく伸びた蔓を思い切って切り詰めるなんて、上手くいく確信が無ければそうそう出来る事では無い。

ただ、ケンツ9歳男子と、シャロン11歳女子は手入れをしていたのに上手くいかなかった様だ。この二人は非常にマイペースなところがあり悪く言うといい加減なところもある二人だ。なにか見えてきた気がする。


続けて皆に質問する。まず手入れの内容だが、ハンナさんと俺の畑でやった事を次の日に真似してやったのは同じらしい、作業内容は問題ないか。成功している子らは比較的真面目で手のかからない子供らってのが共通してるし、あとの二人はそうじゃないのが共通点と言えば共通点だ。


「なぁ。ケンツ、ホントにちゃんと教えた通りにやったのか?」

「あー、兄ちゃん何疑ってんだよ!ちゃんとやってるに決まってるだろ!?」


確かにやるべき事はそんなに難しい事じゃない、間違える方が難しいかもしれない。


「なんで皆は上手くいって俺とコイツだけ上手くいかないんだよ!?」


ケンツがシャロンを指さして訴えかける。

シャロンも「そうだ、そうだ!」と一緒におかしいじゃん!?なんでなの!?と喚く。


「毎日神様に『立派な実にしてください。』ってお願いだってしてるんだぞ!」

「そーだそーだ、毎日お願いしてたんだ。」

それを聞いてクレアが叫ぶ。


「その『お願い』が間違ってるんじゃない!?」

「あ!本当だ!兄ちゃんが言ってるは『感謝』だぞ!」

バーツも何かに気付いたようだ。


「いい?マサキ兄さんは『大地に感謝しろ』っていつも言ってるのよ?」

「そうだぞ、神様にお願いするんじゃなくて『大地に感謝』なんだ。」


どう違うんだ?とよく解っていない二人に改めてクレアが俺の教えを説明する、

神様に「何かを要求する」のは駄目で、あくまで目標に向かって努力するのは自分自身であって、そして何事もなく目標に向いつつあることを作物を育ててくれている大地に感謝する事が大事なのだと、クレアが説明してくれた。


クレアの説明を聞いていて改めてマスクメロンが上手く育ったのは大地に感謝していたからではないのかと思い至った。メロンを育てるのに大事なのは水やりだと言って過言ではない。その大事な水分調整を大地が丁度良いように調整してくれたのではないか?

自分自身で出来る事は惜しまずにやって日々感謝していた為、自分だけではどうしようもない事柄に少しだけ力を貸して貰えたのかもしれない。


以前、ハンナさんが倒れた時に渓流の石像にハンナさんの病気が良くなるように願った時も、俺がハンナさんの負担を無くそうと二人分の仕事をこなして家事を手伝い、魚を獲って走り回っていたが、それでも足りないところ、「彼女を助ける」為にあの魔石を落としてくれたのではないか。


俺の周りに妙な出来事が起こっている原因ははこの「祈り、感謝」ではないのか?


この世界では女神様を唯一の神とする一神教が信仰されており、何事においても女神さまに祈りを捧げる。おそらくこの世界では他に神様などいないとされているのだろう。少なくとも俺は村人が女神以外に祈りを捧げている所を見た事は、ない。


しかし、この世界に来てから幾つかの「石像」を見てきた。

以前はこれらの「石像」が各々祈りを捧げられていたのだろう。

しかし何時の頃からか一神教の信仰に押され永い間放置されていた「神様」が、神様の存在を信じて「祈り」を捧げた俺達に対し恩恵を与えてくれた、それが真相なのではないか。


ここまで考えて一つの疑問が湧いてきた。

どういった理由で「一神教」の女神はそれまで信仰されていた神々を忘却の彼方へ追いやる程の勢いを得る事になったんだろう?

そういえばこちらの「一神教」の事は何も知らないな。あとで村長に今回の報告を兼ねて尋ねてみる事にしよう。


──── 村長宅 ────


「なるほど、そんな理由があったのですか・・・。」


村長に今回の事の次第を「可能性の段階だが」と断ったうえで報告した。

村長宅で飼われているヤギの糞を肥料にする作業をする為に年かさの子供らも一緒に来ている、村長の奥さんにお茶とクッキーを振舞われ皆食べるのに忙しそうだ。


「そう言えば街道の近くや山の中で古い石造りの建造物や祠のようなものを見かけますが、それが一神教以前に信仰されていたものだったとは・・・。」


村長が生まれる以前から一神教の神様だけが信仰されており、「他の神様」の存在など教えられていないのなら、そんな反応になるのも仕方ないのか。

村長にも色々と思い当たる節があるようで、しきりに考えていた。


「一神教」の教えでは作物を育てる際も、あまり手をかけずに全ては女神様に祈りを捧げて上手く育つようにお願いするのが当たり前らしい。その結果。作物が上手く育たないのは信仰心が足りないからなのだと結論付けられ、さらなる信仰に励むのが普通なのだと云う。


俺は「一神教」の神様を否定するという意図は無く、ただ幾ら全能の神様とは言え一柱の神様が大勢の願いを全て聞き入れるのは大変な事であり、女神様の負担を減らすためにも身近な願いは身近な精霊に願うという考え方もあるのではないかと説明する。


実際、子供らが俺の真似をして苗の手入れをし、大地に感謝の意を伝える事で、立派なメロンという結果に結びついている。

女神様に任せっきりにするのではなく、自分たちで出来る事は惜しまずやる、という考えに村長は同意してくれた。


「そうですな、これからはこの子らを見習ってやってみる事にしましょう。」

「それにしてもマサキさん、子供たちに色々な事を教えて下さっているんですね。マサキさんはまるで学校の先生みたい。」


村長の奥さんが言った言葉に子供たちが反応した。


「そうだよ、マサキ兄ちゃんは色々教えてくれるんだ。」

「遊びに、作物の育て方、魚の取り方とかね。」

「色々教えてくれるのが先生なら、マサキ兄ちゃんは俺たちの先生だよな!」


ロディの言葉に他の子供達も同意する。


「そうだ、マサキ先生だ!兄ちゃんなんて言うのは失礼だ!」

「そうね、これからは感謝を込めて先生って呼ばなくちゃ!」

「これからも色々教えてくれよな、マサキ先生!」

「こら!教えて下さいでしょう?早速失礼してるじゃない!?」


俺が先生と呼ばれて困惑していると、村長と奥さんからも


「これからも村の子供らをお願いします、先生。」

「私たちも出来る事は協力しますわ。マサキ先生。」


先生などと言われて面映ゆいが決して悪い気はしない、俺がこの世界に来たのはこの為だったのではないかと思ってしまう程だった。

この世界に来た当初にはここまで歓迎され様とは思いも寄らなかった。


そしてしばらく会話を続けた後で、村長にここへ来たもう一つの目的「一神教」についての質問を投げかけてみた。


俺はここで初めてこの「王国」、「ジギスムント王国」の成り立ちと、「勇者」と「ドラグーン」と呼ばれる英雄の伝説に触れる事になった。

 




この世界では世界を滅ぼすべく「邪神」と呼ばれる存在が度々出現しており。その都度「勇者」と「ドラグーン」と呼ばれる二人の英雄が「邪神」を打ち負かして封印し、「勇者」が新たな王国を建てるという歴史を繰り返していると言う。


前回のこの戦い、この「勇者」「ドラグーン」に加え後に「女神」と呼ばれる事になる女性の「術者アンネリーゼ」という存在があった。

この3人は元々同じパーティーを組んでいた仲間であり、そのパーティーメンバーのいずれもが高い技量を誇る「邪神」に対する人類の切り札的存在だった。


邪神との戦いは激しく「勇者」が瀕死の重傷、「ドラグーン」も深手を負い王城に退却を迫られた際に、後の「女神」が「完全防御魔法」を使用して王城に障壁を創り出し、英雄たちの回復までの三日三晩の時間を稼いだと云う。

この「完全防御魔法」は「邪神」の攻撃さえも寄せ付けないものだが、術者の生命力を根こそぎ奪い確実に死に至らしめるものであり、これを使い命と引き換えに百年の平和をもたらせたアンネリーゼを人々は「救国の女神」と称えたという。


そして辛うじて邪神を封印したものの「ドラグーン」と「術者」の二人の仲間を失った「勇者」は嘆き悲しみ、二人を称え「女神教」を国教とした宗教国家を建国した、と言うのがこの国の建国の伝承だ。

「邪神」が封印される際に『100年後に力を取り戻して再び現れる』事を宣言しており、この為この王国は別名「百年王国」とも称される事になったらしい。



それ以前の神々と呼ばれる存在は邪神との戦いにおいて人々に救済の手を差し伸べる事はなく、命を捨ててまで王国を守った術者の偉業を人々が称えるのは当然か。

ジギスムント王国の建国とともに「一神教」が始まり、これ以降それまでの信仰が全て「救国の女神」に集約される様になったのは当時の生き残った人々にしてみれば至極当たり前の事だったのだろう。


それと「邪神」の遺した宣言の「100年後の復活」があと数年後に迫っているという事実、そのタイミングで俺がこちらへ「転移」してきて周りに変化を与えていると言う事実は無関係であるとは思えない。


この世界で様々な事が大きく動き始めている事を実感する。


そして、それはある日突然に起こった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ