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八百万の神々と千年王国の竜  作者: 涼城 鈴那
鉱山都市と管狐の三姉妹

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酒場の女将さんと武器

夕方、待ち合わせ場所に決めていた酒場へ全員が集合した。


時間的には鉱山で働くドワーフ達が仕事終わりに立ち寄りそうな時刻なのだが、席は三分の一程しか埋まっていない。やはりイマイチ活気に乏しいようだ。


俺達は注文した料理を食べつつ、それぞれの知り得た情報を交換していた。


アレックスは武器屋を回った様だが、やはり客足が明らかに少ないと言う。

立ち寄った大きめの武器屋では丁度王国からの正式武器の注文が入ったようで、騎士団の使う両手剣が幾つも作られていたそうだ。

しかしアレックスが遠目ながら見たところ、品質はイマイチの様だ。

王国側の予算が削られたのか、店主が手を抜いたのかは分からないが、ドワーフに限って武器の制作に手を抜くことは考え辛いそうで、予算不足が考えられるとか。


俺が例のホイッスルの一件を報告したところ、新たな『お守り』のお陰で鉱夫達の不安材料が減り、復旧作業が捗るのではないかと場が明るくなった。


「え?マサキの首飾りのそれ、彫金で作ったの?」

フリッツが見せてくれと言うので、外して見せると手に取って注意深く観察し


「へぇ、金属でここまで木材の質感が出せるなんて凄いな。」

と一頻り感心して戻してくれた。そしてフリッツはこう続ける。


「マサキの笛のお陰で復旧作業が捗りそうだけど、もう一つ懸念材料があるんだ。」

懸念材料?なんだろうと身構えるとフリッツが説明を続けた。


「2年ほど前に出来たカジノにハマった者が借金に苦しんでるそうなんだ。」

ある者は借金のカタに娘を差し出したりすることもあったと言う。そう言えばナディアも父親の借金が原因で離婚した母親と共和国の知り合いを訪ねたのだったな。


借金を残したまま万一の事があれば、残された子供たちが借金のカタに強制的に働かされてしまう事もあり得るという事で、危険な作業に二の足を踏んでいるそうだ。

復旧作業もその影響を強く受けて作業が進んでいないと言う。


余りにギャンブルの借金持ちが多いので、何とかならないかこの街の首長に掛け合ってみるとフリッツは言う。徳政令とまではいかないが無法な利子を取ってないかとか、借金の返済に猶予を貰えないかとか、行政に話を持ち込むと言う。


そんな話をしていると入り口から数人のドワーフ達が入って来た。


「女将さん居るかの?」

「はーい、いらっしゃい、どうかしたの?」

酒場の女将さんが厨房から出て来た。その姿にドワーフ達が申し訳なさそうに


「すまんがこれで飯を食わせてもらえんかのう?」

その手にはなかなかに立派な片手剣があり、どうやら現金が無いために現物で支払いに充てたいという事の様だ。女将は片手剣を確認した後。


「うん、いいよ。夜の飲み代一か月ってとこでどうだい?」

「おお、ありがたい!すまんがそれでよろしく頼む。」

ドワーフ達は各々手にした武器や防具を女将に見せ、それぞれの代価とした。

女将は受け取った武器を店の壁面にある収納ラックに立てかけ見栄えがするように並べ始めた。この店はもしかして武器の売買もしているのか?


フリッツはそのやりとりを見ていたが、その目が面白そうに輝いた。


「へぇ、面白い商売のやり方があったものだなぁ。」

と一頻り感心し始めた。


フリッツが言うには、商売をするには元手となる現金が必要になるもので、仕入れようにも現金が無ければ仕入れが出来ず、仕入れが出来なければ売り物が無くて現金が手に入らない。当然と言えば当然すぎる話だ。


しかし、この女将さんのやり方だと現金が無くても、将来の食事代と言う形の支払いで済ませる事ができ、所謂『割符』払いとなる。しかも代金は『食事代』の形で計算されているが実際には『食事代』の原料費で済むことになり、かなり安く商品が仕入れられると言う、非常に旨味のあるやり方なのだそうだ。


そう説明されると、なるほど賢い商売の仕方だと感心してしまった。中々にここの女将さんはやり手の様だ。


「中々に良い商売の仕方を思いつきましたね。」

フリッツが傍を通りかかった女将さんに感心したようにそう言うと


「あらやだ、別にそんな事考えてないよ。あの武器も売るつもりも無いんだし。」

あっけらかんとそう言う女将さんに『えーそうなんですか?』と驚くフリッツ。


どうやらフリッツの先走り過ぎた考えだったらしい、なんかフリッツが女将さんにやり込められたように感じられて、ちょっと可笑しくなった。


『えーそうなんだ、武器屋に卸すだけでも儲かるのになぁ。』とブツブツ言うフリッツの姿が珍しくてアレックスと顔を見合わせ思わず笑ってしまった。



「もう!どうすんのよ!ギャンブルなんてするから大変な事になったじゃない!」

隣のテーブルの冒険者チームと思しき5人組がそのうちのリーダーっぽい男を糾弾している声がここまで聞こえて来た。


どうやらこのリーダーは無類のギャンブル好きで、熱中するあまり金を使い込んでしまい愛用の武器を売り払い損失に当てたことが仲間にバレてしまった様だ。

まぁ武器が無くなっていれば絶対バレるに決まっているが・・・。


「すまん、とりあえず安い武器を手に入れて金を貯めてから買い戻すから・・・。」

「あの剣幾らで手に入れたか覚えてるの?あんな金額おいそれと稼げないわよ?」

ギャンブルで身を持ち崩す者がこんなところにもいるなんて、というか武器を売るなんて一体いくら負けたんだろう?


そんな事を考えてると女将さんが陳列していた剣の中から物色して、立派な剣を一本選んでこちらに近づいて来た。


「ほら、アンタ、これなんかどうだい?」

「え?」

女将さんが卓に置いた剣に視線が集中する、かなりの業物の様に見える。


「いや、俺達はそんな金を持ってないんだ。」

恥ずかしそうにリーダーが断ろうとすると、女将さんは笑って

「出世払いで良いよ、武器がなくちゃ稼げないだろう?」

冒険者チームは信じられない物を見たかのように困惑したあと、我に返り


「ありがとうございます!このご恩は必ず利子をつけてお返しします!」

女将さんに口々に礼を言うと、『こうしちゃいられない!腹ごしらえしてしっかり稼がなくちゃ!』と言うや料理を追加で注文し始める冒険者達。


「そうそう、しっかり食べてしっかり働かなきゃね。」よい笑顔をする女将さんだ。


どうやら、代わりの武器を手に入れる為に食費も節約していたらしい冒険者達。

何度も女将さんに礼を言いながら、凄い勢いで食物を胃袋に詰め込んでいる。

明日は早速あの森の討伐依頼を受けてがっつり稼ごう!そんな話をしながらも料理に喰らい付く彼ら、その表情は希望に満ちていた。


俺は港町から続くギャンブルの債務者達の数の多さに、改めて驚いていた。

この街の活気の無さもギャンブルが原因の一つと言う事も聞いていたし、明日はこの問題のカジノって一体どんなところなのか見てみようと思い立った。




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