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八百万の神々と千年王国の竜  作者: 涼城 鈴那
鉱山都市と管狐の三姉妹

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新たなお守り

俺の依頼を引き受けてくれたティムは、早速ギルドの作業場で作業に入った。


俺の座る位置からは間のカウンターでティムの手元は見えないが、軽やかに工具を操り金属を加工して行く様が見て取れる。手持無沙汰な俺はティムの仕事の支障にならない程度にこの街の現状を聞いてみた。


最近、何か所か坑道が崩れた為、何人もの鉱夫がその犠牲となってしまった。

無事生還した者も狭く埋もれた暗闇の中、助けを求める声も届いているか解らない状況が長時間続いた事で閉所恐怖症になる者まで現れたそうだ。身動きが取れない闇の中、死と隣り合わせの状況でひたすら助けを待つだけの恐怖は如何程のものか。


「それまでは安全祈願の『女神の首飾り』が鉱夫の必需品だったんですが・・・。」

ティムがちらりとカウンターに飾られた首飾りを見た。それは8㎝程の大きさの女神を模した首飾りで『安全祈願』の文様が記されていた。

崩落現場から発見された時にこれと同じ物をしっかりと握りしめた遺体が幾つもあり、死の寸前まで女神に祈り続けてもそれが届く事が無かった証明にもなってしまった。以降はこの首飾りの売れ行きはぱったりと止まってしまったという。


『農産物の不作で女神教に不満が出るのは解るが、これは言い掛かりに近いな。』


「流石に女神様の所為ではないんですが、遺族の気持ちも解りますよね。」

闇の中、自分では何も出来ない状況で他に縋る物が無く、無念の死を迎えた被害者たちの事を考えると居た堪れない気持ちになってしまう。


『暗闇の中、自分で出来る事なんて・・・あ。』

そうだ、元の世界から持ってきた防災セットの中にあった『あれ』、たしか今バッグの中に・・・・あった。

俺がバッグから取り出したのは『緊急用ホイッスル』これがあれば・・・。


「はい、出来ましたよ。」

ティムがそう言って完成した首飾りのレプリカを見せてくれた。


「うわ、なにこれ凄い!」

手渡されたレプリカは想像を超えた完成度で、木材の切り口のささくれ具合や表皮の擦り切れ具合まで完璧に再現されたものだった。これを一時間足らずで作るとは流石は本場の彫金士ギルドの彫金士としか言いようが無い。


普段はこれを首にかけてオリジナルは無くさない様にバッグに入れておこう。

俺はティムに代金として金貨1枚を手渡した。


「え?材料代込みで銀貨3枚で良いですよ?」

「いや、これはこの仕事に対する俺の評価だ、受け取ってくれ。」


基本自分で出来ない事をその道のプロに頼む場合、俺は値切ったりはしない。

それはプロの仕事にケチをつける事になるし、思い浮かべていた物より完成品が良ければそれだけの評価をしなければいけないと思っている。


「あ、ありがとうございます。金額よりそう言って頂けた事が凄く嬉しいです。」

ティムは俺の思いと金貨をしっかり受け取ってくれた。


「それと、これを作ってここで売ってみてくれないか?」

「なんです?これは?」

「これは、こうして・・・」

俺は緊急ホイッスルを口に咥え、軽く鳴らした。


『ピィーーーーーーーーーーーー』


思った以上に大きな音が出てしまった、ギルド中に響き渡ったその音に驚いた人々が何事かと集まって来た。


「なんだ!?今の音は!?」

「何か起きたのか?」

「ギルドの中から何か大きな音がしたが何だったんだ!?」


どうやら表まで音が聞こえたようで思った以上の人が集まって来た。


「あーすいません、この緊急ホイッスルの音なんです。」

俺は再びホイッスルにほんの少し息を吹き込んだ。


『ピィーーー』


先程よりは小さな音だが、かなりはっきりとした音がそこら中に響く。

もし瓦礫の下に埋もれたり、深い穴に落ちたりした時に大声で助けを呼ぶのは体力的に難しい事という事、それに対しこのホイッスルなら軽く息を吹き込むだけ、何なら呼吸のついでに大きな音が出るので救助を要請する事が容易になる事を説明した。


「なるほど、これなら叫ばずとも助けが呼べるわけか!」

「これだけ大きな音なら落盤事故に巻き込まれても音が届くという事か!」

「これがあれば鉱夫達も安心して作業が出来るな!」


ティムはホイッスルを眺めていたが、すぐに作業台に戻り手を動かし始めた。

そしてほんの数分後、銅製のパイプを加工したホイッスルが完成した。

ティムが完成したそれに息を吹き込むと先程の音と遜色ない音がギルドに響く。


「おお、流石ティム。あっという間に同じものを作りおったわ!」

「これを大量に作れば、女神像などよりも心強いお守りになるぞ!」

「早速制作に入って鉱夫達に知らせるんだ!」


彫金ギルド中が緊急ホイッスルの有効性に沸き、手の空いた者全員で作業に取り掛かる。職員の一人がギルドの表で試作品の音を吹き鳴らし、道行く人々に緊急ホイッスルの効能と有効性を知らしめると、興味を持ったドワーフ達がギルドになだれ込む。


「おい!ホイッスルを一つ呉れ!」

「わしも一つ、いや仲間の分も4つ呉れ!」

「暗闇の中で叫ぶ事の難しさを知ってる身としてはなんと有難い。」


流石は手先が器用なドワーフ達の中でも、更に優れた者が集まる彫金士ギルドだ。

彫金士達はパイプを切る者、穴を空ける者、吹き口を加工する者に分業し、大量生産の体制に突入する。

作った端から飛ぶように売れていく、嬉しい悲鳴でギルド内が満たされる。

それだけではない、死と隣り合わせの危険な仕事から恐怖心を和らげる本当の「お守り」を自分たちの手で作っているのだという自負。

その自負で彫金士達の手は更に早く、正確に、精密に動き、鉱夫達の新たな命綱が次々に紡ぎ出されて行く。


俺はこの光景を見て、これで少しは復旧作業が速くなれば良いなと思っていた。


「マサキさん、良いものを教えていただいて有難うございました。」

ティムが礼を言う、そしてその手に持つ一番最初に作ったホイッスルを手渡され


「これは記念にマサキさんに差し上げます。」

俺にはオリジナルのものが有るんだがな、と受け取りつつそれを見ると


「あ、これは・・・」

なんとホイッスルの裏面には「マサキ」の文字が彫られていた。


「この品名に『マサキ』さんの名前を使わせてもらいました。」

え?もしかしてホイッスル全てに俺の名前が?と困惑してると


「これでこの国でマサキさんの偉業が代々伝わって行く事になりますよ。」

ティムが悪戯っぽく微笑みながらそう言った。



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