管狐三姉妹
俺達はフェルネ村から帰還すると冒険者ギルドへ顔を出した。
クリスタルに魔力を注入する為に向かう次の国の情報を集める為だ。
残る大結晶のある国はあと二つ、ドワーフ達の国家「ツヴェルグ同盟国」と、北の大国「シュタール帝国」だ。
「ツヴェルグ同盟国」の方は王国とも国交があり。騎士団の制式武器の発注先でもある為、今から出向いても特別何の問題も無い。
「シュタール帝国」は王国との国境の問題を抱えており、決して良い関係とは言えない。それどころか開戦に向けて軍備を拡張しているという噂すらある。
ただ、それは国同士の関係であり民間レベルでは特に問題があるわけではない。
それどころか「力こそ全て」が国是なので力ある者は歓迎される傾向にある。
ギルドで最新情報を調べていると、現在「同盟国」の炎の大結晶に辿り着くルートが落盤事故で通れなくなっていると言う事が判明した。
炎の大結晶はドワーフの住まう鉱山都市の山の中深くにあり、そこへ繋がる唯一の坑道が埋まってしまっていると言うのだ。
復旧作業も遅々として進まず、クリスタルに魔力を注入する目的の者は「帝国」か俺達が登頂に成功した「共和国」へと向かっているらしい。
坑道が通れないのなら仕方ない「帝国」へ行くのだろう?とフリッツに聞くと
「いや、坑道を掘る事に掛けてはドワーフの右に出る者は居ない。」
その彼らでもこんなに復旧に時間が掛かるという事は、何か別の問題が有るはずだ。
その問題さえ解決すれば坑道の一本や二本、すぐに開通するに違いない。
「その問題を探りに行こう。」とのフリッツの一言で目的地が決定した。
「ツヴェルグ同盟国」へ向かう、俺達はその準備をすることとなった。
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準備と言っても俺は特に用意するものは無い、フリッツとアレックスは「同盟国」にツテのある人物に会って情報を仕入れたり、狭い坑道内で使いやすい武器を物色したりと多少時間が掛かるようだ。
最近の暁様は外出の際にはアキラを連れて出かける事が多くなってきた。
魔石の収集が一番の目的なのだが、アキラと言う運搬係が出来て以前にも増して魔石の収集量が増えてきていた。そのままアキラが換金までして呉れたら手間がかからなくていいのだが、人間を見下す傾向にあるアキラには任せられない。
俺は魔石の換金がてら街をうろついていた、最近考えている事があって気分転換にそうしているのだ。その考え事と言うのが「管狐」の命名だったりする。
元々ゲームとかのキャラメイクに時間が掛かってしまう俺だ、暁様の時も悩んだが、今回の名づけは「3姉妹」分であり、全部が雌という条件が普段より悩ましい。
「女の子の名前」で、「姉妹らしい名前」なかなか難しい。
『アインス、ツヴァイ、ドライ』・・・どっかのMSだな。
『3人組のアイドルの名前』なら・・・なんか呼ぶの恥ずかしいな、却下。
『茶々、初、江』・・・浅井三姉妹かよ。
『暁』の後で『朝、昼、夜』・・・なんか煮詰まって来たな。
考え事をしながらふらふら歩いていたら、花屋の前に出た。
あ、花の名前なんかは女の子っぽいな、良いかも。花の名前で考えてみるか。
花屋の店頭の花を見てみる、ユリ、ヒヤシンス、アネモネ、フリージア、どれも元の世界の欧州に多い花だな、気候が似てるからそれも当然なのか。
花を見ていてふと気づいた、『みんな球根で育つ花ばかりで花木が無い?』
日本なら「サクラ、モモ、ウメ、ツバキ、ツツジ、ボタン」とか花木は幾つも思いつくが、欧州産だとすぐに思いつかない。気候の所為で花木が少ないのだろうか?
そう言えばこの「管狐」達、俺が暁様の依り代に『九尾の狐』を思いついてしまったが為に、強制的にこの異世界に連れてこられた、もしくは転生させられたのではないだろうか?もしそうなら悪い事をしてしまったのかも。
そう考えたら、せめて名前は元の世界との繋がりを感じられる物にした方が良いのではないか?と思えて来た。
更に漢字一文字なら暁様とも繋がりが持てそうだ。女の子っぽい花木の名前。
そう考えたらスッと「桜、椿、桃」が出て来た。「梅」でも良いがなんか高齢の印象が強いし、松竹梅の「下」のイメージもどうかと思えた、「椿」がいいか。
「よし、桜・椿・桃にするか!」
ようやく「管狐」3姉妹の名前が決定した。
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『名前はそれぞれ、桜、椿、桃、にしました。』
『ほう、花の名前にしたのか。なかなか風流じゃな。』
アキラと共に戻って来た暁様に「管狐」の名前を決めた事を報告した。
決めたは良いがそれからどうすれば良いのか暁様に尋ねてみたところ、竹筒一つ一つに念を込めて名前を呼んでやると、その竹筒から「管狐」が目覚めるとの事だ。
早速言われた通りに試してみる、竹筒に指を当て、『桜』と呼び掛けてみる。
「桜」、花言葉は「精神の美」「優美な女性」だったな。
竹筒が光ったように見え、中から一匹の白い体毛を持つ生物が現れた。
狐と言うよりはイタチのような細長い体に長い尻尾を持つ生き物、これが「管狐」か。全長は30cm程、体と尻尾の長さが半々位だ、どう見ても竹筒に入るような大きさではないが、おそらく実体ではないのだろう。
俺の生まれ故郷の信州にも「管狐」の伝承がある為か違和感はほとんどない。
ちなみに東北地方では「イズナ」と呼ばれるらしいが、俺の苗字も「飯綱」だ、何かしらの縁があるように感じた。
暁様に『お前と相性が良さそうだ』と言われたが其の辺りの所為かも知れないな。
続けて2匹目に取り掛かる、二番目の竹筒に『椿』と念を込め呼びかける。
『椿』、花言葉は『控えめな美しさ』『誇り』だったか。
二匹目も同様に目覚める、『桜』と一緒に周りを不思議そうに見まわしている。
そして三匹目だ、最期の竹筒に改めて『桃』と念を込める。
『桃』、花言葉は『私はあなたのとりこ』、『天下無敵』だ。
花言葉で「天下無敵」ってのも何か凄いよな。
そして3姉妹全員が揃った、「管狐」達は俺が「使い主」であるのが解るようで、俺に纏わりついてじゃれてくる。なかなか可愛らしい子らだ。
「これからよろしくな。」
「管狐」3姉妹にそう言うと、彼女らは嬉しそうに「きぃ」と鳴いた。




