フェルネ村の討伐依頼
俺とアキラ、アレックスとフリッツの4人は馬車に揺られ北へと向かっていた。
暁様は何時もの通り屋根の上に鎮座されている。アキラは俺達の会話に加わる事はなく、常に暁様の様子に変わりがないかだけに集中している
此れから向かうのは王国北方のヴォルケン山脈の麓に位置する「フェルネ村」、俺の居た「アンファング村」より少し規模が大きい村と言う事らしい。
ここも帝国との国境の山脈沿いという事は、以前の帝国領だった場所だ。
「アンファング村」同様に人口が多くない為駅馬車の定期便という物がなく、この馬車もフリッツがチャーターしたものだ。客は俺達だけなので気楽ではある。
ここはアレックス達S級チーム「天空の審判者」の所縁のある村で、盾役のフォルカーの生まれ故郷でもあり、アレックスの出身地として登録された村らしい。
「出身地として登録された村」という表現に少し引っかかった。俺自身が余所者で最初に辿り着いた村を出身地として登録した経緯があるからだ。まぁ、人其々事情があるものだし、俺も特に詮索された事もないしする積りも無いが。
王都から片道約2時間の道中にフリッツから聞いた話だと、この村で作られている作物は「ジャガイモ」「小麦」「ウリ」「トマト」等、アンファング村と大して変わらないが特産品として「花」を栽培しているそうだ。
「お、そろそろ到着だね。」
フリッツが窓の外を見て村が近い事を告げる、釣られて俺も窓の外を見るが、やはりここの村もぱっと見は代り映えがしない普通の村と言った感じだった。
木材で作られた高さ2m程の柵に囲われた村で、周りは小麦畑が広がっている。
入り口から少し入った所で俺達は馬車を降りた。目隠しされてここへ連れられてきてこの風景を見せられたら、一瞬アンファング村と勘違いしそうな位よくある風景だ。
ただ一点違うのは、村の北側に高さ50m程の丘があり其の頂上に石造りの古い建造物が見える事だ。城と言うほど大きくなく敢えて言うなら地方領主の邸宅と言った所か。それでもワイズマン邸よりも大分小さい。まぁアレと比べるだけ野暮か。
村の中を横断する路を進むと大きめの家に辿り着く、割と立派な作りは村長宅といった佇まいだった。フリッツが扉の前に立ち、ドアをノックする。
「こんにちわー、村長。フリッツです。」
少しして家の中で気配が動いて、ドアが開いて年配の女性が出てきた。
「まぁフリッツいらっしゃい、アレックスとお客様かい?」
「うん今日は友人を連れて来たんだ。」
フリッツに紹介されて俺は名乗って挨拶をする、がアキラは無言だ。
『おい、頭を下げろ。』
暁様に言われ、急に勢いよく頭を下げたアキラはどう見ても変な奴だ。
「フィーネは仕事ですか?」
「ああ、今は芋の植え付けの準備してるよ、裏の畑だよ。」
ああ、そうか手伝いに来たんだね。と村長婦人は納得したようだった。
じゃあ、会ってきますと挨拶して村長宅を辞去した。
歩いて5分ほどの所に「フィーネ」の住む家があった、カチュアの家より少し大きい位の小さな家だ。フリッツとアレックスは玄関には回らずそのまま裏手の方に行く。
「やぁ、フィーネ手伝いに来たよ。」
「フィーネ、元気だったかい?」
フリッツ、アレックスが裏手に居た女性に声を掛けた。年のころは20歳前後と言ったところか、ショートカットの栗色の髪の可愛らしい感じの女性は洒落っ気のない農作業に適した格好で種芋の選別をしていたようだ。
「あら、アレックス、フリッツいらっしゃい。と、お客様?」
「あ、こっちはマサキ。農作業に詳しい頼れる奴だよ。」
フリッツに紹介されて俺も挨拶を返す。
「マサキです、フリッツより農作業に詳しい程度ですが。」
「まぁ、フリッツより詳しいなんて凄い方なんですね。」
何故かフリッツはどこでも、どんな時でも、誰からも評価が高い。貴公子然とした佇まいも相まって、というか本物の御曹司ではあるのだが。羨ましい限りだ。
「それとそっちの彼はアキラ・・・」
「力仕事専門です、なにか用があればこき使ってください。」
フリッツの紹介にかぶせて俺が説明する、今回は言われる前に頭を下げたアキラ。
「そっちの白いワンちゃんがマサキの使い魔、凄く賢いんだよ。」
「まぁお利巧さんなのね、よろしくワンちゃん。」
フィーネの言葉に頷く暁様、『あら、言葉が解るのね凄い。』と感心するフィーネ。
早速、作業を手伝わせてもらう。ジャガイモの植え付けをするようだが、やはり種芋をそのまま植える様だ。割と大きな芋なのでこのまま植えては勿体ない。
「あの、フィーネさん。種芋切って植えようと思うんですが、いいですか?」
「え?種芋って切ってもいいのマサキ?」
「ああ、切り口を乾かせば問題ないし、これじゃ勿体ないよ。」
フィーネは植え付けの事が良く解らないまま、村の人と同じ様に見よう見まねでやってたので、問題なければ大丈夫です、と許可を呉れた。
俺は芋の大きさを確認して大きさに応じ、芽が出る部分が均等になるようそれぞれ2~4個に切り分けていった。畑に10m位の畝が5本あったのでひと畝に35個も種芋が有ればいいだろうと、多めに200個ほどに切り分けた。
結果、種芋用に用意してあった芋は3分の1しか使わず、大量に余る事になった。
「こんなに余るなんて・・・当分食料の心配せずに済みそうです。」
フィーネは芋が余った事を殊の外喜んでくれた、ただこれで終わりではない。
これから2日程かけて切り口を乾燥させてから植え付けなければならないのだ。
その間、植え付け作業は休止となる。
その間する事が無い訳ではなく、農作業とは別にやらねばならない依頼がある。
「この村付近に出没する狂暴な魔物の討伐」と言うものだ。
本来の目的は肥料の使われ方と農作業の方法の調査が主なのだが、ギルドでこの村から討伐依頼が出ているのを知ったフリッツの提案でこの村に来たのだ。
魔物に農作物が荒らされて困るのはもちろん、人を襲う事も有るという事だが、問題は生息数が多くて一度や二度の討伐では追いつかないという点だ。
「じゃあ、ちょっと行ってくる。」
と言って、俺とアキラ、暁様で村の外に向かう。もうすぐ夕刻だが丁度良い。
村から少し離れて山の方へ向かい暁様が一声遠吠えを上げる。
間もなく山から遠吠えがいくつか帰ってくると、しばらく待つ間に山から狼の群れが走ってきた。こいつらはアンファング村のとは別の群れだ。
群れの数は60頭ほどで、暁様と彼らの意思の疎通が開始された。
この村付近の問題の魔物は「フィールドレア」と呼ばれる大型の2足歩行の鳥類で、鋭い爪を持ち脚力が強く殺傷能力の高いヤツだという。
生息数が多い事も有り根絶やしにするわけにもいかない為、この狼達にこの村の周囲を警戒させ村に近づいた「フィールドレア」を狩って、それを村に持ってくるようにと暁様が指示を出した。村に近づけば狼に狩られる事を学習させるとの事だ。
神様からの命を受けた狼の群れは広大な農地に散って、その役目を担う事となった。
これでこの問題は解決に向かうだろう、俺たちは村へと戻った。
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この村にはアレックスが出身とするだけあって、アレックスの家が存在した。
大きな家ではないがそれでもチーム6人が寝泊まりできるようベッドは6台あり、俺達4人と1柱が泊まる分には何も問題がない。滞在中はここに世話になる事となる。
食事は村長の方で用意してくれていた。討伐依頼の件も元々アレックスも報酬をもらう気など無く、滞在中の食事だけ用意してくれれば良いと話が着いていた様だ。
食事を終えてアレックスの家に戻り、明日に備え早めに休むことになった。
・・・・翌朝は朝一番から村が大騒ぎになった。
村の入り口にフィールドレアの死体が10頭も山積みになっていたのである。




