冒険者アキラ
共和国から戻った翌朝、冒険者ギルドの俺専用部屋で目覚めた。
久々の自室なのだが、そんなに長く住んでるわけでもないからか、懐かしいとかの感覚に乏しい。なんなら2ケ月近く過ごした共和国でのワイズマン邸に慣れ過ぎた。
「やっと起きたか、暁様はすでにお出かけだぞ。」
ソファに座っているアキラにそう言われた、その言葉には若干のトゲがある。
コイツの目には暁様に対する俺の態度が馴れ馴れしく感じ気に入らないらしい。
俺としては敬っているつもりだし、暁様本人からはもっと「使い魔として扱え」と言われ困惑すらしている。
『他人の前では「様」を付けるな、否、普段からそうしろ。』
神様ご本人からそう指示されればせざるを得ないのだが、結構辛いのだよ俺も。
顔を洗って身なりを整え支度が出来たのでアキラを連れてロビーへと降りる。
ロビーにはギルドの職員数名とテーブルに冒険者が数組座っていた。
俺達に気付くと、驚いた風な者、軽く会釈をする者反応はそれぞれだったが、変な反応は無かった様に思う。
「あの、コイツの冒険者登録をしたいんだけど。」
カウンターの職員に声を掛ける、今日はアキラを冒険者に登録する事から始める。
職員から用紙を貰って必要事項を俺が記入していく。
名前「アキラ、と」出身地「共和国イグニス、だな。」年齢「・・・25位でいいか。」
本当の年齢は3桁以上行ってそうだが、そんな事を書くわけにも行かない。
適当でいいのだが、俺に対する扱いが軽いのが気に食わないので年下にしておく。
職業「ファイター。で良いんだよな?」この内容で用紙を受付に出した。
「アキラ様ですね。・・・え?ファイター??」
職員がアキラの容姿と手元の用紙に何度か視線を行き来させて困惑しつつも
『少々お待ちください。』と言い残し一旦裏へ引っ込んだ。
まぁローブに杖のアキラはどう見ても魔法職だし、困惑は当然だろう。
少しして戻ってきた職員の手のトレーに乗った、E級冒険者のプレートがあった。
流石につけ方が解らないだろうし、俺がアキラの首につけてやる事に。
「お前の物と少し違うな?」
「俺とお揃いも嫌だろうから気にするな。」
『おぉ、無事手続きは済んだようじゃの。』
その時丁度ギルド内に入ってきた暁様に後ろから声を掛けられた。
「これは、アカツキさ・・・」
『阿保!止めよ!』
アキラが暁様に跪き声を掛けようとした途端、暁様に制止される。
人前で使い魔に対し敬意を表す馬鹿がどこにいるか、と普段から暁様にさんざん言われているが、アキラにとってはサンダードラゴンの御前同様に条件反射のレベルまで本能に染みついている為、なかなか治らない。
暁様の前で片膝をついて一瞬固まった状態から、アキラの右手は暁様の頭を撫でる仕草へと続く。傍から見たら犬を可愛がっているごく普通の仕草ではある。
が、当のアキラ本人からしたら恐れ多くも至尊の存在に対し、その頭を撫でる事を強要されるなど神罰に等しい行為である。
その証拠にアキラの乏しい表情の中にも苦悶の要素が見え隠れしている。
他人から見たら苦悶の表情を浮かべながら犬を撫でる変質者である。
アキラは立ち上がり、目を瞑ってブツブツ言う、神に対する不敬の行いに懺悔しているようだが、傍から見れば触った犬の感触を反芻している変質者にしか見えない。
『それはそうと、これの処分を頼む。』
暁様が自らの脇腹辺りを探るとそこから幾つかの魔石を取り出し俺の前に置いた。
先日、暁様が若干の進化をしたようだが、その時にこの「収納場所」の存在に気付いたそうだ。
暁様から貰った管狐の竹筒もこの収納場所内にもともとあった物だそうだ。
「おい、またあの犬、魔石拾ってきてるぞ。」
「羨ましいよな、一体どう躾けたらあんな事出来るんだか。」
冒険者たちがこちらを見て羨んでいる。彼らの眼前で魔石のやり取りする事で俺自身の名声を上げる一助になる、との理由であえてそうすると暁様に言われている。
「アカツキ、また拾ってきてくれたのか偉いぞ。」
暁様にそう言って頭を撫でる様子を他人に見せるよう指示されているのだが、アキラはその姿をいちいち睨んでくる。『至尊の存在に対しその扱いは何だ!?』との意味が込められているが、傍から見たら嫉妬の炎を燃やす変質者にしか見えない。
その時、暁様の耳が一瞬動き、アキラが入り口の方を睨んだ。
「おお、マサキさんお帰りでしたか。遠征お疲れ様です。」
「お疲れ様ですマサキ兄さん、ご無沙汰してます。」
マルクスとマリウスのビーストテイマー兄弟がギルドへやって来るなり、俺に挨拶してきた。当然使い魔のエルサスとエムザスも一緒だ、彼らも俺に尻尾を振る。
そう言えばコイツら見た目はゴツイが、二人とも俺より年下だったことが判明した為それ以降は俺の事を「兄貴」と呼んでいる。苦労してるんだよな二人とも。
エルサスとエムザスが頭を垂れて暁様へ近づこうとした瞬間、不穏なオーラが辺りを包み、驚いた二匹は脱兎の如くギルド外へ駆け出し、釣られた兄弟はそのまま表へ引き摺られて行った。
『どうしたぁぁエルサスぅぅぅぅ』『止まれぇぇぇエムザスぅぅぅぅ』
の声が遠く響いている。
不穏なオーラの元凶であるアキラが二匹の行く末を見届けてギルド内へ戻ってくる。
『おい、お主は何をやっておる?』
『は、下賤な者が恐れ多くも御身に近づこうとしました故・・・』
『奴らは我に挨拶をしようとしただけじゃ、早まるな。』
『!も、申し訳ありません。』
再び暁様へ跪こうとして注意されるアキラ、またもや中途半端な姿勢から暁様の頭を撫でる苦行が繰り返される。使い魔の二匹を追い払ってまで暁様に執着してるようにしか見えないって・・・。変質者の姿が板につきつつあるなコイツ。
今日はアレックスとフリッツの二人と合流して、イグニスの街での疑問「王国内で肥料の存在が知られていない事実」の確認にとある村へ出向くことになっている。
待ち合わせ時間には少々早いがギルド内のアキラを見る目が痛かったので待ち合わせ場所へ向かう事にした。




