竜の加護
スーの機嫌をなんとか元通りにした頃、大結晶の元へ新たな人物が現れた。
人物・・・ではなく狼だったな、大きな銀色の狼と白い狼の二頭。
その二頭が目の前に並んで座り背に乗れと言っているかのようだ。
「ドラゴンさんの所に連れて行ってくれるって。」
リンダが言う、狼と意思の疎通が出来るのか、凄いな。
スーとリンダが一緒に白い狼の背に乗ろうとした時、アレックスが言った。
「スー、俺とマサキじゃ重量が重いかもしれん。俺とリンダで乗るよ。」
「あ?ああ、そうだな、狼も辛いだろう仕方ないなマサキと乗ろう。」
スーはリンダをアレックスに任せ、マサキの居る銀狼の方へ向かっていく。
「じゃあ、あたし前が見える方が良いから前ー。」
リンダが嬉しそうに白狼に乗り、アレックスがリンダの後ろに乗った。
「スーも前が良いか?」
「前など見なくていい、・・・後ろで良い。」
俺が先に前に乗りスーがその後ろに乗った。
「落ちると困るから抱き着くからな・・・勘違いするなよ?」
「・・・・あれ?これ俺は何処に掴まればいいんだ?」
4人を乗せた2頭の狼はドラゴンの元へとそのまま勢いよく走りだした。
『・・・戻って来た・・・マサキは確かに私の腕の中に在る。』
スーは振り落とされない様にする為以上の力を込めてマサキを抱きしめた。
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サンダードラゴンの元に辿り着いた俺達は、彼に改めて礼を言う。
『早速、加護が役に立ったようだな。』
ドラゴンにそう言われた俺たちは驚いてお互いの顔を見合わせた。
何と己の危険を顧みずにリンダを救出にこの山に分け入りここまで来たことに対し、ドラゴンがその行動をいたく気に入り、竜の加護を付与していたのだという。
「そうか、だからあの時・・・。」
「道理であんなに周りの状況が理解できたのか・・・。」
翼竜人との戦いにおいて、アレックスとスーの二人の連携が見事だったのは、その「竜の加護」のお陰だったようだ。なるほど、それで俺も性格が変化したように感じたのもそのお陰だったわけか。
『否、お主には別の加護が着いていたからな、我の加護ではない。』
サンダードラゴンに即否定されてしまった、じゃあ一体何の加護が・・・と思ったら、俺の傍らには一番身近な白い神様が居たことを思い出した。
『ここの花は小さき勇者に所有を認める。』
花が欲しい際はこの二人を頼れと、ドラゴンがそう言うと白狼と銀狼が頭を下げ、たちまち人の姿を取った。
「あ、あの男。」
男はワーウルフという事で人の姿は知っていたが、この銀狼がそうだったとは。
白狼の方も人の姿を取った、こちらは金髪のワイルドな風貌の美女だ。
今後この二人はイグニスの街、『ヴィルトカッツェ』の所属となり、ビャクゴウの球根が必要な時はこの二人に言えば良いという。
そして俺たちは狼の背に乗りイグニスの街目指して山を降る事になった。
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街へ戻る途中に球根輸送中の『ヴィルトカッツェ』の騎乗する狼の集団と合流した。
と言うか、こちらが山から下りる事を感知したグレートウルフの群れの方がこちらへ合流したと言うのが正しいか。狼の上からお互いの無事を確認して歓声が上がる。
「リンダ!無事だったー?」
「なんか困った事があったらあたしらを頼れって言ってたでしょう!?」
「ごめんなさい、お姉ちゃんたち。」
リンダを心配していた彼女らにリンダは白狼の上から素直にあやまる。
「あたしらが頼りなくてもマサキ兄さんが居るんだから、先ずは相談ね?」
「うん、解ったー。」
「皆!球根はどの位集まったんだ!?」
街目掛けて疾走する銀狼の上からマサキが皆に問いかける。
「兄さん!これで2000個以上あるから今日のところは終了ー!」
「そうか、ご苦労様!」
皆、何往復かして目標の2000個をクリアしたようだ、マサキも安堵した。
そして銀狼に乗るマサキの後ろにスーがしっかりしがみ付いているのを確認した彼女らは、短く口笛を吹いたり、しきりとスーに話しかける。
「姐さん!大丈夫でしたか!?」
「もっとしっかり抱き着かないと落っこちますよ!?」
『おい、俺は背に乗った者を落とすようなヘマはせんぞ!』
いきなりマサキの頭の中に銀狼の声が響く、その事実に気を取られてスーと彼女らのやり取りはほとんど頭に入らなかった。
『もしかして、手を放しても落ちないとか?』
『当たり前だ、例え背で寝ていようと落とす事はあり得ぬ。』
『へぇ、凄いな。疲れてるし寝てていい?』
『ただし、気に入らぬ者だけ振り落とす事も出来るからその積りでな。』
『こわ!・・・・普通に乗ってます。』
そうこうするうちにもう直ぐ麓に出る頃となった。
「あー!一晩中走りっぱなしで喉乾いたー!」
「帰ったらエールで一杯やるかい?」
「すきっ腹で飲んだら悪酔いしそうー、ジュースでいいかな?」
そう言えば泉で水分補給してから何も口にしてない事にマサキも気づく。
『疲れてるときはスポーツドリンクだな、カチュアたちに振舞った俺特製の。』
「よーし、じゃあ帰ったら俺が美味しい飲み物作ってやるから楽しみにしてな?」
「えー?兄さんそんな事も出来るんだ?」
「期待してますよ!兄さん!」
そんなやり取りをしていると、街の北の跳ね橋に辿り着いた。
何か入り口の所に多くの人が集まっている様だ、速度を落として人々の邪魔にならぬ様、一列に並んで進む。
そこに居る人々から歓声を持って暖かく迎えられた。
「おーい!ビーストマスターのお帰りだー!」
「グレートウルフを引き連れての英雄の帰還だー!」
「マサキさんお疲れさまでした!他の街からの物資も続々届いてます!」
「あんたらのお陰で死者は無かった!姐さんらもありがとうな!」
大勢の街人に迎えられた『ヴィルトカッツェ』の面々はその対応に驚き、戸惑い、グレートウルフの背の上で居住まいを正して、歓喜の言葉に応える。
病魔の為に身寄りを失い天涯孤独となった彼女らが、肩を寄せ合い慎ましい日々の生活に追われていた昨日までとは、完全に世界が変化したと再確認した瞬間だった。
マサキの乗る銀狼を先頭に、すぐ後ろに白狼、其の後を灰色のグレートウルフが列を為して街の大通りを粛々と進む。街を守ったビーストマスターの率いる狼達の隊列に自分たちが加わっている、その事実と声援に生まれ変わったような気さえしてくる。
その周りには家族や大切な人をプラム熱の魔の手から救われた人々が集まり、巨大な狼の群れと『ヴィルトカッツェ』の彼女らに歓喜の声援を送り続ける。
今後はもうガイルのようなならず者の介入のない、街の人々を救うための球根の採集に安全に専念できるのだ。そう、この街全体が新しく生まれ変わったのだ。
本日が『ヴィルトカッツェ』の新生の記念日となった。
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『ヴィルトカッツェ』の店前まで来ると留守番のデルマと数名がマサキ達を迎えてくれていた。
「おかえり、みんな無事そうだし、球根も集まった様だね、」
「ただいま戻りました。」
マサキが答え銀狼から降りると、スーに手を差し出して降りる補助をする。
デルマはそれを見ると小さく口笛を吹いて、スーに笑いかける。
スーはなんと表現していいのか解らない微妙な表情をして戸惑っている。
他の面々もグレートウルフから降りると騎乗で疲れたのか、大きく背伸びをしていた。アレックスに下ろされたリンダがデルマに駆け寄る。
「デルマさん!勝手に山に行って御免なさい!」
デルマはしゃがんでリンダと視線を合わせて優しく微笑む。
『無事に帰って来れたんならそれでいいさ、今度からは相談するんだよ?」
「うん!」
全員が地上に降り立つと、グレートウルフの役目は一旦終了となった。
今後、球根を取りに行くときは「銀狼」か「白狼」にそういえば山から迎えに降りてくることになっている、彼らは元来た通りを一列に並んで粛々と山に戻っていった。
「あー喉乾いたー!」
「兄さん約束の飲み物まだー?」
ああ、そうだったな。とマサキはデルマに断って厨房に入っていった。
厨房のミアに手伝ってもらって、特製スポーツドリンクを大量に用意した。
「ほら、疲れてるときはこれが一番だ、さあ飲んだ飲んだ。」
卓に用意した大量の杯を皆に配り、早速飲んでもらう。
アカツキ様は「酒だ、酒」と言ってワインを要求し特製ドリンクには興味なしだ。
「んー?ちょっと味薄くない?・・・でも何か体に染みる感じがする?」
「あ、これ、塩が入ってるんだ、ジュースに塩なんて考えもしなかったよ。」
「でも甘さと酸味と少しの塩味が癖になりそう。」
流石に喉が渇いていたのかスーは杯の中身を一気に半分ほども開けてしまう。
半分残った杯を軽く回しながら、一息空いて言う。
「マサキはこんな物も作れるんだな。」
「あー、戦闘とかからきしだけど、こういうのは得意だったりするんだ。」
「何を言う、あの翼竜を一人で倒してしまった癖に。」
スーに言われて、改めて自分が翼竜を倒したという事実を思い出した。
あの時は無我夢中と言うよりも、何故か冷静沈着で翼竜相手に全く恐怖も感じずに翼竜を倒してしまっていた。普段の俺では考えられない、誰か別の人格に変わってしまったようなそんな感じがしていた。
あれは何だったんだろう?「飛翔」が最大限発揮された結果なのか、それとも俺に付与されていたという「加護」のせいなのだろうか?
アカツキ様の本来の神としての姿と関係あるんだろうか?この白い狐の体を持った神様の正体、俺はそれが気になり始めていた。
アカツキ様はそんな俺の思いを知ってか知らずか、呑気にワインを嗜んでいた。




