マサキVS翼竜人
こちらに突っ込んできた翼竜は剣の届かない距離を置いて、すれ違いざまにその長い尻尾で攻撃を仕掛けて来た。
尻尾の動きも見えて追える、両手に構えた剣でその攻撃を受け流す。
奴は俺の後方に回り込んだところで急降下し、再び落下し様の尻尾の攻撃が俺の背中目掛けて襲い掛かる。その攻撃は前方に飛んで躱す。
そのまま奴の頭上を取った俺は上から剣を突き立てようとするも、奴はひらりと躱して再び距離をとる。大結晶から離れた今、やはりあからさまに速度が落ちている。奴の方が若干速い可能性すらある。
奴も魔法を使えない以上物理攻撃に頼るしかない、どうしても近接戦闘にならざるを得ない、俺も大結晶の助力が有った時ほど早くは動けないが奴が近づいてくればチャンスはあるはずだ。
奴は翼で羽ばたいて飛んでいる限り小回りは効かないだろう、それに対し全方向にそのまま移動できる俺の方が小回りが利く。なんとか隙を見つけて懐に飛び込む、奴を倒すのが目的ではない、奴の左脚のクリスタルを落下させればそれで良い。
第一、今俺が手に持っているのは荒れた大地に何十年、何百年と放置されていた両手剣だ。切れ味なんて期待できたもんじゃない、それでも大結晶の近くにあった所為か、朽ちずに強度を保ってるだけでも上等だ、剣の形のこん棒と思えばいい。
これで何とか左脚を叩いてクリスタルを放させる、それだけを狙う。
その意図に気付いたのか、翼竜は一旦距離を置きこちらを見据え飛び込んできた。
真っ直ぐ突っ込んできた!尻尾での攻撃じゃない、剣の届く距離、奴のスピード、軌道は見える、このままこちらも剣を構えたまま飛び込めば剣を突き立てられる!
相手の向かってくるタイミングに合わせこちらも飛び込む、尻尾の攻撃はない、上手くいけば剣で奴にダメージが与えられる最大のチャンス!
・・・・のはずだったが速度が出ない!?何故!?
その瞬間、俺は背後の異変に気付いた。
あのクリスタルを此処まで運んだ小型翼竜の群れが、更に数を増して俺の背後で大結晶からの光を遮っていたのである。
『こいつ等こんな頭脳プレーを!?』
魔力が宿る光が届かない所為で速度が出なくなった俺の目の前で翼竜は停止し、俺の眼前でその口を大きく開ける、その瞬間に漂ってきたメタンガスのような匂い
『まさかコイツ!炎を吐くつもりか!?』
魔法が使えなければ近接戦闘しかないと勝手に思い込んでいたが、こいつは敢えて一度も炎を吐く所を見せずに、絶対避けようのない瞬間まで隠していたとは!?
そういえばフリッツが言っていた、グレイハウンドの死体を時間差で病原菌が拡散する様路上と屋根とで分けたり、わざわざ跳ね橋を下ろして侵入経路を誤認させるなど『頭の切れる奴』だと、まさか此処でもしてやられるとは、万事休すか。
奴は自らの勝利を確信しその目が笑ったかのように見えたその瞬間。
俺の体が薄緑色の、どこまでも優しく、しかし力強い光に包まれた。
『ぐあぁぁぁぁっ!?』
その光は俺だけではなく眼前の翼竜まで包み込み、翼竜は堪らず苦悶の表情を浮かべる。その光の出どころは見なくても理解できた、風の大結晶から俺目掛けてサーチライトの様に光が放たれていたからだ。
この光は大結晶の傍に居たときよりも遥かに強く巨大な魔力を秘めており、俺の思考速度も五感も完全に覚醒した。
この場の全ての環境、情報、高度何もかもが手に取るように解る。
光を遮っていた小型翼竜は光に晒され硬直したまま大地に落下し、眼前の翼竜も何とか落下せずに足掻く事だけは出来る様だ。
これで俺が攻撃魔法でも使えれば、外部から供給された有り余る魔力でこの翼竜を吹き飛ばすことも出来ようが、生憎と俺には『飛翔』だけしかない。
現在の高度が山の表面からは154m、海抜ならば776m、俺が使用できる最大の力は「位置エネルギー」と「運動エネルギー」のみ、そして大結晶から送られてくる無尽蔵の魔力なら出来る唯一の方法。
『神罰』を応用した技。
俺は剣を構え一気に空を駆ける、思考も極限にまで早くなり全ての行動がゆっくりに見え、翼竜の心臓を確実に貫く為に剣先の位置を微調整しながら一気に繰り出し、刀身はゆっくりとその全身を翼竜人の胸骨を砕きながら心臓に滑り込ませた。
『ぐぁぁぁっぁぁぁぁぁ!!』
翼竜は凄まじい絶叫を上げながらも絶命はせず光に晒されたまま身動きも取れない。
俺は上空に向かって翼竜の体を一気に押し上げ、加速する。
大結晶からの魔力供給を受けた凄まじい加速は十数秒間続く。
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満天の星空に包まれる中、俺は眼下の光景に目を奪われていた。
大地や山や森、街や海に至るまで全てが眼下に広がっていた、俺と同じ高度には何物も無い。高度は地上から4376m、付近の山脈すらこの俺の世界には届かない
小さくもがく翼竜を右手に掲げた剣で貫いたまま、この高さでも大結晶の光は俺を照らしてくれている。この世界の人間が初めて到達した世界であろうことは間違いないが、何故か懐かしい感じがしていつまでもここに居たいとすら感じていた。
大結晶の光に触れた所為なのか、俺の中で何かが変化した気がする。
それがどういったものなのかは解らないが、悪い結果にはならない事だけは理解できた。・・・・さぁそろそろ決着を付けようか、翼竜人。
「行くぞ、『神罰』!」
俺は体の位置を入れ替え翼竜を下に、眼下の大地に向かって加速する。
高度・・・4000・・・3600・・・3000・・・2200・・・1000・・・。
確実に高度も解る、高度100mまで加速して翼竜を大地に叩きつけてやる。
『高度・・・100!』
俺は一気にその場に停止、翼竜はそのままの勢いで大地に叩きつけられその衝撃はあたりの地面と大気を揺るがし、多くの樹木がなぎ倒され瓦礫が辺りに散乱した。
辺りを包んだ土煙が収まると、大地に穿たれたクレーターの中心に微動だにしない翼竜の姿があった、流石に死んだのだろうか?警戒しながら地表へと降りる。
翼竜が死んでいるのか確かめる為に、胸を貫く両手剣を抜き取ってみる。
動かない、その左脚元を見るとクリスタルは淡い光を放ちながら傷一つない状態で大地に転がっていた、それを拾いポケットに入れた。
奴の顔を見るとかすかに口元が震えているのが見えた。まだ生きている、しかし瀕死の状態だ、今の俺にはこいつに止めを刺す術はない、また上空に上がって「神罰」を食らわせれば良いのかもしれないが目的はクリスタルの奪回だ、目的は果たした。
大結晶の光は木々に遮られて此処まで届かないが、大結晶の元まで戻るのに速度は要らないゆっくり戻ろう。俺は空に向かって飛んだ。
『・・・ぁぁぁ・・・』
飛んだあと、翼竜から小さなうめき声が聞こえた。まだ動けるのか・・・。
コイツに以前の脅威はない、念のために両手剣も持ったままだ、いざとなれば「神罰」で止めを刺す事も出来る、俺は警戒しつつ空に上がり再び大結晶の光を浴びる。
「き・・さま・・だけは・・許さ・・・ん・・・」
翼竜が最後の力を振り絞り、頭上の俺を睨みつける。その頸は小刻みに震えており、俺に対する憎しみのみでその生を繋いでいる。その眼前に魔法陣が現れる。
魔法を撃つ気か、しかし今の俺なら難なく躱すことも可能だ。
翼竜から高度を取り100m程離れる、躱して剣を落下させれば止めになるだろう。
翼竜の眼前の魔法陣が一際輝いた直後、『避けろ』の声に従い一気に後方へ飛ぶ、その瞬間辺りに凄まじい光の柱が屹立しその中心にいた翼竜は跡形もなく消え去った。
抉れていた大地はさらに深く穿たれ、イオン化された空気の成分がここまで漂って来るかのようだった。
王国の虎獣人を消し飛ばしたアカツキ様の魔法よりも規模が大きく感じた。
これがドラゴンの放った雷撃なのは間違いない、アカツキ様が警戒するはずだ。
散々この国を荒らした翼竜は最後に山の主の怒りを買い、この世から消滅した。
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戦いを終えた俺は空を飛び、大結晶の元へと戻ってきた。
中空から降りていくと大きく手を振るリンダと、俺の姿を見て安堵したらしいスーとアレックスの二人も確認できた。
「マサキ!」
そう言い駆け寄るスーを追い越して、リンダが全速力で飛びついてきた。
「マサキお兄ちゃん!お帰り!」
「うわっ!?」
着地寸前に足に向かって飛び付かれた為、俺の体は勢いよく2回転してリンダを抱きかかえたまま大地に背中から落ちた、リンダは何が起きたか解らずキョトンとして俺の腹に乗っかっている。
「マサキお兄ちゃん大丈夫!?」
「・・・さっきの翼竜の攻撃より効いたかも。」
「流石、ドラゴンの召喚士だ、ビーストマスターを一撃で倒すなんて。」
アレックスが茶化すとつられてスーも噴き出す、心から安堵しているようだ。
「・・・『氷の女王』もいい笑顔で笑うんだな。」
俺がそう言った途端に、スーは慌てて真顔になり
「マサキ!どれだけ心配したのか解ってるのか!」
烈火のごとく今までの行いも含めた分怒られてしまった。
なんとかスーを宥めて煽てて彼女の機嫌を元に戻そうとしている時、元の世界でもこんなご機嫌取りをやってたな、と妹の鈴香を思い出した。




