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八百万の神々と千年王国の竜  作者: 涼城 鈴那
氷の女王とドラゴンの山

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「飛翔」発動

無意識の内に男を蹴り飛ばしていた俺は、一瞬で自らの行為を理解した。


魔力を充填中のクリスタルを奪おうとする目の前の男を何とかしなければ、と考えた瞬間に「飛翔」が勝手に発動して男を排除する事に成功していたのだ。


「マサキ!?」

「な、なに!?今の!?」


アレックスとスーが驚愕のあまりその場に立ち止まって叫ぶ、地に伏した男も信じられない物を見たかのように目を見開き体制を立て直そうとする、が、その猶予を与えるほどの余裕はない、即追撃する。


「ぐぁっ!?」

俺は再び一気に加速して距離を詰めて右の肘撃ちを男の顔面にぶち込む。

男は再び大地に転がるが、すぐに立ち上がり手にした石を俺に向かって投げてくる。

が、その軌道も完全に見切れており、軽く体を捩じって最小限の動きで避けつつ男の懐に飛び込み右の蹴りを喰らわせる、男は堪らずに大地に転がる。

俺の後方でも樹木が弾ける音がした、奴の投てきも当たればタダでは済まない。


俺自身、加速装置でも使ったのかと思える程の移動速度だが、巨大結晶の傍で魔力を供給され続けているからこそ出来る事象だとはっきり理解できた。さらに男は俺とは真逆に結晶に近づく程デバフが掛かり動きが鈍る、最悪の相性と言って良いだろう。


交通事故でも時速40km程度でぶつかった場合でも自重の30倍の衝撃が加わるとされている。それ以上の速度なら更に衝撃は増大する。

俺自身、どの程度の速度が出ているか解らないが、相当の威力が出てそうだ。


俺の魔力の放出量が少ないとかで通常だと素早い移動も出来ないが、外部から魔力を注入されたドーピング状態だとここまでの動作が可能になるのか。


突然、男が全く見当違いの方へ石を投げた。一体、どこへ?


『!?』

俺は一気に飛んで追いつきその石をなんとか弾き、立ち竦むリンダの直前で軌道を駆ける事になんとか成功した。

『野郎!リンダを狙いやがった!?』

俺はリンダを抱え上げ、負担にならない程度の速度で飛んでスーに託す。


「リンダを頼む!」

「わ、解った!」


その間に男は大結晶の元へ駆け寄りクリスタルを狙う、アレックスがそれを防ごうと間に割り込んで愛用のグラディウスを横殴りに払い、男の左脇腹を抉る。


「うぐぁ!」

男が脇腹を抑え大地に転がった。

「やったか!?・・・なに!?」」

男は大地に転がるとそのままの勢いで転がり大結晶の元へと辿り着いてしまった。

男がクリスタルを手に取り立ち上がる、傷口は既に治りかけている。


「しまった!敢えて受けたのか!」

男はアレックスに背を向け逃走にかかる、逃げに徹した男にアレックスでは追いつけない、俺が一気に飛んでアレックスを追い抜き男に迫る。


男に向かいつつ体を沈め足元にあった両手剣を拾い、それを構えて男に突き出す。

男は振り向きざまその剣先を己の左掌に貫かせ、後方へ飛んで勢いを受け流しつつその剣を両手で保持して固定し、俺の体を下方から蹴り上げてきた。

それをなんとか右の肘で受けた俺は上方へ飛ばされた、移動速度以外は強化されていない為、攻撃をまともに喰らうのはヤバイ、受けに集中した分「飛翔」で軽くなっていた所為か思いの外高く飛ばされてしまう。


くそ!使い慣れない剣じゃダメか!?しかし蹴りや肘撃ち程度では奴に深刻なダメージは与えられそうもない。飛ばされながらも男の次の行動を確認する。

男は折角保持したクリスタルを何の躊躇いもなく、中空にぶん投げた。


「一体何を!?・・・あ!」


投げられたクリスタルは男の力で遥かな上空へ舞い上がり、そこへ10匹ほどの翼のある者達が群がり奪い去ってしまう。


「こいつ!配下の魔物を用意してたのか!?」

なんと用意周到な奴だ・・・相手が空中では俺が行くしかない。


「二人ともリンダを頼むな。」

「おい!一人で行く気か!?」

「マサキ無茶だ!危険すぎる!」


背中越しに二人に向かって


「ちょっと行ってくる。」

そう言い残し俺は両手剣を引っ提げて小型竜の後を追い、空へと飛んだ。



──────────────────


「二人ともリンダを頼むな。」

「おい!一人で行く気か!?」

アレックスが驚いてそう叫んだ、一人で奴の相手なんて無茶過ぎる!


「マサキ無茶だ!危険すぎる!」

どうしてこの男は危険なことを躊躇いもせずやろうとするのか!?


「ちょっと行ってくる。」

背中越しに笑顔でそう言ったマサキを見て、既視感が蘇る。


私を川に突き落としたあと背中越しに笑顔を見せて剣を片手に走り去った兄。

『お兄ちゃん!置いて行かないで!』

叫びもむなしく、お兄ちゃんはそれきり帰って来ることはなかった。


『マサキもどこかに行っちゃう!?嫌だ!マサキ!』

マサキもお兄ちゃんの所へ行ってしまうの?私を残して?



────────────────────



俺は剣を片手にクリスタルを奪った小型の翼竜の集団を追った。


すぐに追いつきはしたが、こいつ等を止めようにも使い慣れない剣を振り回してもなかなか当たらないし、10匹の内のどいつが隠してるのかも分からない。


翼竜を相手に手間取っているうちに、下方から何やら異様な感覚が迫ってきた。


そいつは悠々と翼をはためかせながら、俺と同じ高さまで舞い上がり小型の翼竜の一匹に近づくなりその翼竜を真っ二つに切り裂いた。

そして其の体内から零れ落ちたクリスタルを右脚に掴むと、勝ち誇ったかのように翼をはためかせながら俺に戦利品を見せつける。


「愚か者が、ここまで離れれば先ほどの速度は出せまい?」


目の前の怪物は所謂ワイバーンと呼ばれる翼竜の姿をしていた、この翼竜が先ほどの男の正体なのは疑いようのない事実だ。


こいつが街にグレイハウンドの死体をばらまき、街をアウトブレイクで混乱させようとした張本人、異界からこの世界に飛び散った5体のうちの一匹なのは間違いない。

S級冒険者チームで歯が立たなかった虎獣人と同等の力を持つのだろう。


5m程の長さの尾と合わせて全長は10m位か、前足は蝙蝠と同じように翼に進化している。こいつも虎獣人と同じように魔法を使うのであろうが、このドラゴンの山中では使えないのはアカツキ様と同じだろう、となると攻撃方法はあの長い尻尾か?


それに対峙する俺は速度だけは奴に勝っていたが、それも大結晶から離れたこの場所では格段に落ちるだろう。持ってきた剣も不得手、はっきり言って不利だ。


しかし、俺は不利なこの空中に居ながら何故か不安は感じていなかった。

本来俺は高所恐怖症だったハズなのだが、この高度に全く恐怖を感じていない。

それどころかどこか懐かしい感じさえある、空中に居る事が当たり前な感覚だ。


改めて先ほどの男との戦いを振り返ると、全くの戦闘経験もその能力もない俺にしては、何故かその場に応じた冷静な行動を取れていた事実に違和感を感じていた。


そして今、足元に大地がない感覚、26年間大地に足を付けて生きて来た身からすればこれ程不安な要素も無いはずなのだが、これこそが自分自身の本来居るべき場所なのだという妙な感覚が沸きあがって来ていた。


それどころか、この目の前の「翼で羽ばたかなければ空を舞う事も出来ない」生物に対する哀れみすら感じ始めていた。


『なんなんだろう?この感覚は?』

俺自身の心境の変化に戸惑っているのを勘違いしたのか翼竜が言う。


「下等なヒトの身でありながら。空に上がった事を後悔しながら死ぬがよい。」

奴は一旦距離を置き、力を貯める素振りを見せると一気に距離を詰めて来た。


俺の方は先ほどの速度は出せないが奴の動きはしっかりと追えている、剣を振る技量はない為に剣ごと体当たりする形で攻撃するしかない。


こうして空中で翼竜人とのたった一人での戦いが始まった。




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