街へ
リンダがドラゴン直々に「雷竜召喚士」の使命を授けられたあと、俺はドラゴンに
「サンダードラゴン!一刻も早く花を街まで届けたいが構わないか!?」
と問うた、するとドラゴンは
『構わぬ、そこに居る白狼たちを使うがよい。』
と、グレートウルフ達に俺の指示に従うよう命令した。
早速俺達は俺とリンダの持っていたバッグにビャクゴウの球根を詰め込んだ。
アカツキ様はドラゴンと話があるようだし、リンダにもドラゴンから「召喚士」について話して聞かせる事があるとの事で、ここは俺一人で街へ戻る事になった。
「マサキ!一人で大丈夫か!?」
「俺は大丈夫だ!リンダとスーに付いてやっててくれ!」
『解った!』との言葉を背に白狼に乗り、グレートウルフを付き従え走り出す。
普通ならグレートウルフの群れが街の外に現れた時点で警備兵に警戒され、説明に無駄な時間がかかってしまう、だが今は時間との闘いだ。
その点、ビーストマスターが連れた魔物なら説明は不要だ、ここは俺の出番だ。
白狼を先頭にグレートウルフが20体、山の木々の間を風のように駆け抜ける。
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北の跳ね橋の警備なんて退屈で暇な仕事なんだが、今は怪しい者が街に入らぬ様に、プラム熱をこれ以上蔓延させてはならない様にと最重要な仕事でもある。
『ワイズマン邸へ行け!金は俺が出す!』
冒険者ギルドでビーストマスターのマサキさんが切った啖呵に共感した俺達しがない冒険者は各々が出来る事をやるだけだと思い立ち、ここにこうして在る。
大勢のか弱い女が涙を流して縋ろうとして伸ばしたそのか弱い手を、力と勇気が無いばかりに誰も取れなかった事を、俺達は内心激しく葛藤していた。
取れば確実に死を迎える、絶対に取ってはならないその手は藁をも掴もうとするかのように差し出されたまま時間だけが過ぎて行った。
その地獄のような時間に救いの神が派手に現れた。
『マサキさん』だ。彼はギルドに入って来るなり俺達に『警護の任務に就け!』と、地獄での責め苦から救ってくれる神の如き命令を与えてくれた上、救いを求める女達の手を何の躊躇いもなく取り恐れもせずに死の山へと突き進んで行った。
マサキさんの行動はあの場に居た全ての者の救いとなったのは間違いない。
彼が彼にしか出来ない事をする為に突き進んでいるんだ、俺達が出来る事をしなくてどうする?
それがあの場に居た冒険者達の総意だ、退屈な任務とか言っていられねぇ。
今は警備兵も病で数が足りないらしく、10人で守るはずのこの場所もそのうち5人が
俺達冒険者だ。警護に出た奴らが戻ってこれない事態にでもなったら、この街は崩壊する、それを防ぐ為全員が一丸となってやるべきことをやらねば。
そんな事を考えていたら跳ね橋の向こうの道から何かが恐ろしい速度で此方へ来る?
「あれは!・・・グレートウルフの群れだ!」
「おい!ヤバいぞ!この付近で最強の魔物の群れだ!」
「野郎!街から漂う死臭でも嗅ぎつけて来たか!?」
皆、口では威勢の良い事を言っているが内心は死を覚悟していた。
グレートウルフが20頭程も居るのに警備は僅か10人。1頭に対し10人なら何とかなるだろうが、この数の差は確実な死を意味していた。
「・・・いや、待て!あれは!?」
「おい!あの背に乗る人は・・・マサキさん!」
「ビーストマスターとその使い魔か!?」
冒険者達がマサキさんを見つけたその瞬間、狼の群れは最強の援軍と変化した。
「ビャクゴウの球根を持ってきた!通るぞ!」
マサキさんが跳ね橋の手前でその速度を少し緩めて通行を宣言する。
「待て!とまれ!一旦荷物をあらため・・・」
「マサキさん!そのまま行ってください!
「ここは俺達に任せて下さい!」
「おい!お前ら!何を勝手に・・・!?」
喚く警備兵を冒険者全員で押さえつけマサキさんの進路を空ける。
「助かる!」
そう言い残し、マサキさんはグレートウルフの群れを街中へと導いた。
ドラゴンの山から生還し、球根まで持って帰るとはアンタって人は全く・・・。
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ワイズマン邸ではフリッツとウォルターが街内の情報を集計し、各方面へ指示を出し、慌ただしくも深刻な状況に頭を抱えていた。
「今夜中に薬品が1200人分は必要になるな・・・。」
「明日の朝までは持ちそうにない重篤者がそれ程居るんですか・・・。」
「・・・それも現段階でだよ、軽い症状の者も明日にはどうなっているやら。」
近隣の街へ薬品を取りに向かった者達はいつ帰還するのか目途すら立っていない。
魔物の襲撃が無ければ問題は無いが、今は通常より多くの魔物が周囲を徘徊しているらしい。これも奴らの仕業なのだろう、なんとも嫌な手を打ってくる奴らだ。
と、突然エントランスで騒ぎが起こった様だ、悲鳴を上げているメイドも居る様だ。
「フリッツ!居るか!?」
マサキの声か、いつも唐突に表れる面白い男だが、今日は何時になく真剣だ。
「どうしたんだい、マサキ・・・!?」
フリッツは目の前のグレートウルフの群れに驚愕する、が、何しろマサキだ、早速グレートウルフの群れを手懐けた事にはすぐ納得した。
「ビャクゴウの球根を持ってきた!あとどれ位必要だ!?」
「なんだって!?球根を手に入れたのかい!?」
マサキが肩に掛けていたバッグから100個近い球根を出して見せた。
「確かにビャクゴウの球根だ・・・、一体・・いやそれはどうでもいい。」
フリッツは素早く必要な数を計算して
「今夜中にあと1400、いや1600は必要かな?」
「解った、1600だな、一応2000位用意しよう。」
そう言うや否や、マサキはグレートウルフの群れを引き連れ夜の街へと走り去った。
「まったく、本当に面白い人だね、君は・・・。」
フリッツは、マサキが言うのならこれで安心だ。と肩の荷が軽くなった気がした。
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「デルマ!居るか!?」
『ヴィルトカッツェ』の表のドアを開けるなり、マサキが飛び込んできた。
「マサキ!?え?リンダはどうなったの!?」
デルマはマサキに問うた。マサキが山に向かって約3時間、普通なら山の頂上に着けるかすら怪しい時間しか経っていない。
『リンダ含めて全員無事だ』の声に『ヴィルトカッツェ』の面々は安堵した。
「今から球根を取りに山に登る、手の空いてるものはバッグを持って表に出ろ!」
え?今から山に行くって無理だよ兄さん!との声が上がるがマサキは構わず
「表の狼に乗れば安全に往復できる、急げ!」
マサキの言葉に『表に狼なんて・・・』とナディアが確認に向かうと
「きゃぁぁぁぁぁぁ!狼の群れが居る!」
「時間が無い!何度か往復してビャクゴウの球根を2000個集めるぞ!」
マサキが宣言すると店内はあわただしくその準備を始めた。




