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八百万の神々と千年王国の竜  作者: 涼城 鈴那
暁の邂逅

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村の子供たち

翌朝も川で顔を洗い身支度を整えるとハンナさんの母屋へ行き、自作スポーツドリンクを作ってテーブルに用意した後に本日の農作業へと向かった。

すっかり顔なじみとなった村人達へ挨拶をし、一緒に作業前の朝食を摂る。


「昨日作業がだいぶ捗ったから今日は二人分働かなくていいわよ。」

「あまり張り切り過ぎるとアンタが倒れるぞ。」


確かに昨日は俺が働こうとするあまり作業を急かしてしまった面もあるのだろう、元々俺が作業を手伝いだした事でそれまでよりも作業は効率が良くなっていた為そこまで働かなくて良い、少しは手を抜けと笑われた。

この村に来てまだ3日目だがかなり信用されているようだ。かと言ってそれに甘えて作業をサボると言う事も性分として出来ない為やる事はしっかりさせて貰おう。

今日もいつもの作業が始まった。


いつもと同じ作業をしていると段々と村の子供たちが集まって手伝いをし始めた。

その中に見慣れた女の子がいる、カチュアだ。彼女は俺を見ると嬉しそうに微笑んで近づいてきて


「今日ね、ママ具合がいいからお兄ちゃんのお手伝いしてきなさいって。」


そう言った。昨日からのスポーツドリンクが早速効いてきたのだろう、ハンナさんはカチュアが家に一人寂しく過ごしているのを見かねてそうした様だ。

カチュアは友達と一緒に簡単なお手伝いをしているがそれだけでも嬉しそうだ、こんな小さな村では娯楽と呼べるものはほとんどないのだろう。

昨日の寝る前の他愛ない「おはなし」に目を輝かせていたカチュアが思い出される、なんとかしてあげたいな。

そう考えながら作業をしていると作業は一旦休止、昼食の時間となった。


昼食の時、カチュアを中心に子供たちが集まって楽しそうに話をしていた。村の子供は全部で12人、男の子が6人女の子が6人か、一番上はカチュアより年上の男の子で14歳位か、一番下は4歳位の女の子のようだ。


改めてこの村の事を訊ねると、村人は全部で30世帯程、働き盛りの村人は街に出稼ぎに行っていて、ほとんど帰ってこないらしい。

その為、村に居るのは子供を育てている世代の母親と子供、子育ての終わった老夫婦ばかりらしい。

この村には学校がなく。町に行けばちゃんとした学校はあるのだが街まで徒歩で2~3時間。馬車でも1時間はかかる為、時間的にも経済的にも通うのは難しいという。


この世界では15歳から一人前と言われ、その頃から働きに出る事になるのだが文字が読めなかったりすると仕事は限られており、一般的には冒険者と呼ばれる何でも屋に職を求める事になるそうだ。

この村でも昨年15歳になった男の子が街で冒険者となり働きだしたという。


「冒険者」か、俺もいずれこの村を離れる際には冒険者を目指すことになるのだろうか。俺の場合はこちらの世界の文字が読めない事はない、不思議な事に文字を見るとその横にルビをふっているかのように日本語が見えるのだ。言葉が通じる事と共にこれは非常にありがたい。

俺がなぜこの世界に来たのかはまだ解らないがなにか理由があるのだろう、そしてそれは多分この世界の片隅でじっとしているだけでは見つからないモノなのだと思う。

おそらくそれを自ら探さなくてはならないのだろう。


昼食後作業が再開された。俺もようやくこの仕事に慣れコツも掴んだ、今まで我武者羅に働いてきたのをペース配分を考え無理をしない様心がける。かと言ってもどこかで作業が滞る処があればフォローできる様動くことも考えて働く。そうして今日も14:00頃の鐘の音と共に作業が終了した。


帰ろうとカチュアを探すと、彼女が友達数人と一緒にこちらへやって来た。


「マサキお兄ちゃん、あのね皆が『モモタロー』と『カグヤヒメ』のお話し聞きたいんだって、ダメ?」


ああ、昼食時に皆で楽しそうにしていたのは彼女が「おはなし」を皆にしていたんだ、と納得した。俺も戻って家の仕事があるが子供らの期待に応えても上げたい。


「じゃあ、俺も戻って仕事があるからそれが終わってなら良いよ。」と言うと

「やったー!」

「おはなしだー!」


と、子供たちの歓声があがる。


「じゃあ、皆も次の鐘が鳴るまでの時間、おうちの手伝いをする事、いいね?」


『うん!わかったー!』と子供たちは口々に応え、なにか仕事を手伝わせろと各々の親の元に駆け寄って行った。お手伝い後はうちに集合だ。


「よし、じゃあカチュアも家に帰ろうか。」

おれは彼女に声をかけ一緒に家に帰った。


家に戻った俺はハンナさんが手入れしていた畑の手伝いをすることにした。

この村では自宅の傍らの畑で作物を育てている様なので、それを俺が代わりにするのだが・・・正直言ってあまり手入れはされていない様だ。

葉っぱからするとトマト(?)は脇芽を摘んでないし、メロン(?)は親づるが伸びっぱなしの状態だ。

今からでも間に合うので手入れをする、トマトは脇芽を処理しないと身に行くはずの養分が葉っぱに取られて実の質が落ちるので脇芽を取っていく。


メロンも本場が5枚位着いた状態で弦の先を切って、これ以上伸びないようにし子つるを伸ばす様にする。切った蔓を捨てるのも勿体なく感じたので駄目元で挿し木にしてみる、何本かでも発根したら儲けものだ。


作業を続けているうちに鐘の音がなり、子供たちがおいおい集まり出した。

皆「おはなし」が聞けるという期待で一杯な笑顔だ、これは期待を裏切れないな。

全員が集まったところで早速始めよう。皆を適当に座らせて、その前に俺が座る。


「むかーし、むかしある処にお母さんと女の子が住んでいました。」


と、カチュアに話したのと同じように話し始める、昨夜と違うのは昨日はハンナさんが隣に寝ていた為に小声で話していたのだが、今日は昼間だしお構いなしに身振り手振りを加えて大げさに物語りを紡いでいく。

子供たちの反応を見ながら桃太郎の話にアレンジを加えていく、男の子が居る分カチュアに話して聞かせたストーリーより壮大なモノとなってしまう。

子供たちはまさに手に汗握る思いで食い入るように聞き入って呉れている、良し。

「モモタロー」が魔王を打ち倒し村に帰ってくるときには皆で拍手で迎えられた。


続いて姫を巡る一大戦史「カグヤヒメ」のストーリーが終わっても時間が余ったのでおまけにもう一話、日本昔話はローカライズが酷過ぎると思えたので「白雪姫」の話をしてみた。

たしか元の話がドイツ辺りだったはずなのでそんなに話を変えなくても良いかと思ったのだが、子供たちの反応を見ながら話を進めていくと結局最後には、白雪姫と悪の女王が剣と魔法を駆使して決着を付ける物語になってしまった、がコレも大受けした。

そして丁度「白雪姫と魔法の剣」の話が終了する頃に陽が傾き始め、子供たちの保護者がお迎えに来た。


『じゃあ、また明日ねー。』と嬉しそうに帰っていく子供らを見送っていると、隣で目を輝かせたカチュアが


「マサキお兄ちゃん、今日もすっごく面白かったよ!」と言ってくれた。


よし、じゃあ夕飯にしようかと彼女を促し家に戻って料理を振舞った、と言っても黒パンに炙ったチーズを乗せた「ハイジのチーズパン」とヤギの乳だが。

それでもジャガイモばかりだったカチュアの生活からしたら栄養価も高いごちそうとして喜んで食べてくれた。



────── 数日後 共同作業終了後 ──────



「かあちゃん!今日のお手伝いは何!?」


ケンツが家に戻ってくるなり母親に慌てて尋ねる。


「ちょっと待ってな、こっちだって段取りってものがあるんだから。」


早くー、お手伝いー、と騒ぐ男児に母親が呆れたように云う。


「あんた、普段お手伝いさせようとしてもどっかに逃げるくせに・・・。」

「だってマサキ兄ちゃんとお手伝いするって約束してるし、約束を破ったり悪い事したらバチが当たるって『おはなし』でも言われてるんだぞ。」


『大体が母ちゃんのお手伝いっていつまで経っても終わらないし、マサキ兄ちゃんとの約束のお手伝いは鐘がなるまでって決まってるからやりがいがあるんだよ!』とのケンツの言い分にも『成程、それもそうか。』と思い直す。


最近手伝ってくれるのはいいけど、手伝う事ってそんなに・・・あ、思いついた。


「あんた、マサキ兄ちゃんの手伝いをしてきな。」

「え、兄ちゃんの手伝い?いいの?それで?」

「そっちの方が兄ちゃんも助かるだろうし、毎日世話にもなってんだし。」

「やったー!行ってくるー!」


喜び勇んで出ていこうとするケンツを慌てて呼び止める。


「なんだよ、家の手伝いなんかしてる暇ないぞ。」

「ほらクッキー焼いたから持って行きな、こっちはカチュアと兄ちゃんの分、こっちは皆で食べる分だから間違えないでよ。」

「かあちゃん!気が利くー、ありがとー!」


両手にクッキーの入った袋を抱えてケンツが飛び出していく。


「まったく、あんなに嬉しそうにしちゃってまぁ、」

クッキー程度のお礼じゃ心苦しいねぇ、と駆けていく行くケンツの姿を見送った。


母親と一緒に畑で農作業をしていたシャロンが嬉しそうに駆けていくケンツを目敏く見つけた、集合時間にはまだ早いと云うのに!


「ちょっとケンツ!お手伝いサボってどこに行く気!?」


サボリ魔のケンツが堂々と往来を駆けていくのを非難する。


「へへーんだ、俺、今から兄ちゃんのとこに『手伝い』しに行くんだw」

「はぁぁぁぁぁ!?そんな羨ましいお手伝いとか良いの!?」


シャロンが母親とケンツを交互に見て不当を訴えかける、それを見た母親は


「はぁ、良いよアンタも行ってきな。マサキさんには世話になってんだから。」


え?いいの?と目を輝かせるシャロン、ケンツに向かって


「ほら!行くわよケンツ!急がないと置いてくからね!」

「ちょ!俺、両手に荷物持ってるんだけど!?っておい!待てって!」


結局、この日から子供たちの「お手伝い」はマサキの元で行われる事となった。


お手伝いの後は「おはなし」の時間となるのだが、「おはなし」だけでは飽きもくるだろうし、男の子等は体も動かしたいだろうから、ある日には「フットサル」を教えたりもした。流石にサッカーボール等は存在しないのでそこら辺にあった枯れた蔓を丸めて紐で結んだモノをボール代わりにしてみたら上手くいった。


年かさの男子と活動的な女の子には大好評だが小さな子は体力的にも一寸難しい。

フットサルで遊んでる子らは放っておいても大丈夫なので小さな子たちとボールを蹴って的に当てる遊びを教えてみたりと色々工夫をする。


ある日には木の板に升目を描き、丸棒を適当な厚さに切った物を使って「オセロ」を教えてみた。

これは子供たちに大好評のみならず、ルールが簡単で遊び易いのでいつの間にか村中の大人にまで広まり村一番の娯楽にまで発展した。

女神の教えにある7日に一度の安息日には村の老若男女が集まり、8×8の升目の盤上で熱戦が繰り広げられる事になるのだが、一番強いのはクレアだった。彼女は元から地頭が良いのだろう、たちまちコツを掴んだらしく俺と対戦しても6対4位で俺が負ける事が多くなった、ヤバイ。


村の子供たちが作業を手伝だって呉れる様になってからは、この作業自体が子供たちにとっての楽しい集団生活の様になっていった。山に焚き木を拾いに向かう行きと帰りには皆で歌を歌ったり、魚を捕まえてはお礼に石像に手を合わせたり。鳥の糞を畑の肥料にする為に村で鶏を飼っている家にお邪魔しては糞を集めるついでに庭の掃除をしたりと様々な事が子供たちにとって楽しい行事と変化する。


麦刈りの集団作業が無くなる頃には、午前中に各々の家の仕事を手伝った後に昼食を食べた後マサキの元へ集合するのが子供たちの日常になっていった。


娯楽の少ない貧しい村で子供たちが明るく元気に過ごせるようになり、その謝礼として各家庭から食料やヤギの乳、鶏の卵等がマサキの元に届けられ、それは子供達が世話になる家庭のみに限らず、村の全世帯が彼に捧げる感謝の印となっていく。


この一連の出来事とマサキの行いはこの村における「学校」と言っても良いものとなりつつあった。



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