グレートウルフ
「本当に!・・限が!・・・無いな!!」
アレックスが絶え間なく襲ってくる野獣に対し苛立ちをぶつけるかの様に、愛用のグラディウスを絶え間なく振るって野獣の攻撃をかわす。
「こいつ!いい加減に!しろ!」
スーもアレックス同様に野獣を捌くだけで手が塞がっている。
一体なら急所を狙って倒す事も出来ようが、周りから声も上げずに飛び掛かられては剣や盾で捌くのが精いっぱいで振り回すような余裕もない。
おまけに闇の中に潜んでる奴が野獣の回復をするとあっては圧倒的に不利だ。
白狐も相手を殺さぬようにしているが、その慈悲の心を無視して野獣は襲ってくる。
『ええい!マサキしばし耐えておれ!先に奴を片付ける!』
白狐はしびれを切らし、闇の中の術者目掛けて飛び掛かって行った。
術者はそれを予想していたのか、距離を詰めさせぬ様木々を盾に逃げを打つ。
これはマサキたちと白狐を引き離す為の策かも知れないと考えると、一瞬白狐の足が止まる。それを見越したかのように術者も逃げ足を緩め、誘う様に動きを止める。
白狐は術者目掛けて跳躍すると、術者は木々の枝を足場に垂直に逃げる。
『愚か者が!上へ行けば逃げ場は無いぞ!』
白狐はその後を追い、垂直に跳んだ。
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マサキは野獣の姿を確認してある事に気づく。
『こいつ等、猫科だよな!?』なら水は苦手なはずだ、アレックスに叫ぶ。
「こいつ等水が苦手なはずだ!二人とも泉に飛び込め!」
「え!?ちょっ・・・」
「解った!」
スーが何か言いかけたが、アレックスに抱きかかえられ二人共泉へと飛ぶ。
俺は「飛翔」で泉の上へ移動し、二人の手を引き岸から距離を取った。
「マサキ!奴ら泳いでくるぞ!」
アレックスが叫ぶ、岸を見ると野獣は静かに泉に入り、そのまま無言で泳いでくる。
そう言えば、猫科でもジャガーとか泳げるのも居たか?それともこいつらは操られてるから無意識に水に入ってるのか?泳ぎ方から見ると前者っぽいかな。
野獣全部が水に入りワニの様に水面から顔だけを出してゆっくりとこちらに向かってくるのを確認した俺は、奴らのその行動に逆に勝利を確信した。
アレックスとスーの手を放し、「飛翔」で移動し奴らの頭上を取る。
これでこいつらの武器の牙と爪は水の中で俺に対し攻撃の術はない。そして・・・。
「そら!これでも喰らえ!」
俺は盛大に奴らの顔面に水をぶっかける、
「ギャァン」「ガァッ」「ガフッ」
自由の利かない水中で呼吸を遮られては流石に野獣達も窒息の苦しみから逃れられず、断末魔の如き叫びをあげて暴れながら我先に岸に這い上がり、こちらを見ずに木々の闇の中へと逃げ去った。
闇の中から苦しそうにせき込む音が幾つも聞こえたが。それも遠ざかって行った。
「・・・上手くいったな、アレックス?」
俺は一安心してアレックスに呼びかけた。
「マサキ!スーが沈んだ!」
「はぁ!?」
スーの奴泳げなかったのか!?と言うか甲冑のままじゃ浮くのも厳しかったか!?
甲冑のまま浮いてるアレックスが異常なのか?
『すまん!スー!』俺はスーの姿を求めて泉の中へと飛び込んだ。
泉はそれなりの深さがあり、普通なら夜の泉の底に沈んだ人間など探すのが困難だったろうが、夜目が利く事とスーの白いマントと装備のお陰ですぐに発見できた。
ぐったりしたスーの体を抱くか脇に抱えるか迷ったが背負う事にした。
すぐに水上まで上昇し、水面に浮いていたアレックスの手を引き岸へと上陸する。
アレックスに周囲の警戒を頼み、スーを地面に横たえ意識を確認するが反応は無い。
確かこういう場合はまず気道確保だ。
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闇の中から姿を現したのは山中最強格とされる「グレートウルフ」の群れだった。
その灰色の体躯は通常の狼より二回りほども大きく、骨格と筋肉量も比ぶべくもなく「グレートウルフ」単体で熊すら倒すとされている。
その野獣が20頭程の群れでリンダを囲み、その包囲の輪を徐々に縮めてくる。
目の前のあまりにも小さな人の子に別段唸り声を上げるでもなく、警戒する必要も感じずに人の子の反応を見ながらか、ゆっくりと距離を詰めてくる。
「ぁ・・・・あ・・・・。」
リンダの足は震え、全く動くことが出来ない。
運の悪い事に狩りを終えてねぐらに帰って来たグレートウルフと遭遇してしまった。が、運の良い事に狩りの後で彼らの腹が満たされ、すぐに襲われる事は無かった。
腹が膨れていた彼らから見ると、『食べ応えのない何か小さいのが居るな?』位の関心しかなく今すぐどうにかしようとも思わなかったようだ。
しかしリンダの周囲の彼らはゆっくりと彼女の反応を見ながら距離を詰める。
「・・・・神様・・・・」
リンダが神に助けを求めようとしたとき、いきなり後ろから突き飛ばされた。
「あ!」
リンダは派手によろけて地面に突っ伏した、背後の狼が面白がって軽く突いたようだが、その対格差はあまりに大きく突かれた方からすれば堪ったものではない。
突いた狼はそのよろける姿が面白かったのか、地面に倒れたリンダをさらに鼻先で突いて転がして遊ぶ。
「や、やめ・・・」
さらに別の狼も加わって起き上がれないリンダを小突いてひっくり返し、倒れた彼女の襟首を咥え地面に投げ転がる様子に、楽しいおもちゃが手に入った事を喜ぶ。
「お兄ちゃん、ごめんなさい、お薬、持って、帰れない。」
リンダはもう街に帰れないんだと絶望し、熱にうなされる兄に心の中で詫びた。
頭を抱え、身を守ろうとその小さな体を更に小さく丸めて縮こまるリンダ。
その時周囲で「ガゥ」、「ギャン」、「クゥン」狼の鳴き声が聞こえ、リンダを弄んでいた狼は以降彼女に対し何の行動も取らなかった。
「・・・・?」
何が起きたのか?リンダは恐る恐る目を開け様子を伺うと、星明りの下青白い光に照らされて、銀色に輝く体毛で覆われた一頭の巨大な狼が彼女を見下ろしていた。




