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八百万の神々と千年王国の竜  作者: 涼城 鈴那
氷の女王とドラゴンの山

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兄と妹・3

ハンク邸では幼い兄妹がたった二人で夕食を摂っていた。


ハンクはいつも明日の授業の準備に追われ、食事を摂るのは大体夜9時頃だった為、二人なのは毎度の事ではあるのだが、今日はアベルの食が進まないようだ。


「ん?お兄ちゃん、お腹減ってないの?」

「うん、ちょっと熱っぽくて風邪引いちゃったかもしれない。」

「えー、じゃあ暖かくして寝てなきゃダメよ。」


いつもはニーナの代わりのナディアが給仕をするのだが、プラム熱騒動で一旦酒場に戻っており後でまた食器の片付けなどにやって来るようだ。


『今、お薬が店にも売ってなくて山に取りにいかないといけないかも。』

『ヴィルトカッツェ』の関係者も数人罹患者が出ており、先日のグレイハウンド騒動で薬を使い切ってしまった為、山に入る準備をしているらしい、


「ほら、お兄ちゃん、寝床にいこう。ね。」

「うん、ゴメンちょっと先に休んでるよ。」

ふらつく兄を支えてリンダは兄を自室へと連れて行く、兄の額に手を当ててみると確かに熱い、タオルを水に濡らして当てないと。


ダイニングの隅の水がめから手桶に水を汲み、タオルを浸して部屋へと戻る。

傍らのテーブルに手桶を置いて、濡れたタオルを良く絞り兄の額へと当てる。

何時の間にか寝息を立て始めた兄を起こさない様、そっとドアを開けてダイニングへ戻ると、ナディアの仕事を増やさない様に食器を片付けた。


────────────────────


「・・・これは、いけない。プラム熱・・・か?」

ハンクは自宅の書斎で書き物をしていた時、悪寒を覚えて椅子から立ち上がろうとした際に足に力が入らず膝からその場に崩れ落ちた。


時間は夜8時位か、仕事に没頭してしまっていた様だ。

今日はハウスキーパーは夕食を作った後に一旦酒場へ戻ると言っていたか、もう少しで帰ってくるだろうそれまで安静にしていなければ・・・・。


ドアがノックされる、ハウスキーパーか?いや、叩き方が・・・違うな。


「先生!大丈夫!?」

リンダが物音を聞きつけて部屋まで来たようだ、リンダは無事か。感染しなければいいが、・・・・熱で頭が回らない。ドアが開いた、リンダが入ってきたようだ。


「先生!先生も具合悪いの?」

大丈夫だ、・・・少しベッドで横になっていれば・・・。


「先生!待っててね、お水持ってくるね!」

・・・・・。

「先生、ひどい熱、頭冷やすね。」

・・・・。


「先生、お兄ちゃんも熱がひどいの、でもお薬売ってないって。」

・・・・薬・・か。プラム熱の・・・薬・・・使ってしまって・・いたな・


「先生!あのね、お山にお薬の花が生えてるって。」

・・・・ビャクゴウの・・・花・・・。


「あたし、お山に行ってくる、お花とって来るね!」

!・・・・リンダ・・・それは・・ダメだ・・・。


・・・リンダ・・・・。



────────────────────


「旦那様!大丈夫ですか?旦那様?」

ナディアがハンク邸に戻った時、アベルは熱にうなされており、リンダがいない。

ハンクも自室のベッドで額に濡れたタオルを当てられた状態でナディアが発見した


「リンダが・・・・薬を・・・」

ハンクは苦し気に息を吐きながら途切れ途切れに口を開く。


「旦那様?リンダが薬を?」

「・・・摂りに・・・・山へ・・・。」

山って?ドラゴンの山に!?ナディアは我が耳を疑ったが、そう言えば以前リンダにプラム熱の特効薬の白い花が山に生えていると言った事を思い出した。


「わ、私の所為だ、リンダが花を取りに山へ・・・・。」


ナディアはハンクの額のタオルを取り換えると『ヴィルトカッツェ』へと走った。



────────────────────


「リンダが山に!?本当なのナディア!?」

ナディアの報告を受けた『ヴィルトカッツェ』の面々は事態の深刻さに絶望した。


「夜の山なんて魔物の活動時間だよ、腹をすかせた奴らが獲物を探す地獄だ!」

「間違いじゃないの!?ナディア?」

「それが・・・。」


ナディアはもしかしたらリンダが外に出る前に追いつけるかもしれないと、北の跳ね橋へと向かうと降りたままの跳ね橋を警備していた警備兵に、ここに女の子が来なかったかと問うた。すると、しばらく前に女の子が出ていくのを見たと言う。


「はぁ!?なんで停めないんだソイツ!?」

「女の子が一人で出ていくなんておかしいと思わなかったのかよ!」


ナディアが警備兵を非難すると、プラム熱の消毒作業で使えなくなった井戸が幾つもあり、代わりに水を確保する手段として各城門が開けられ水路から水を組むことが許可されていると言う。

警備兵が野生動物が街中に入らぬ様警備しているが、夜でも水を汲みに来る者が普通に居る為、女の子はあまりに自然に出て行ったので他の水汲みの連れだと思い気にしなかったという。


「外に出たのは間違いないのか・・・。」

「ナディアがそのまま山に行かず戻ったのは正解だったね。」

「今なら冒険者を雇って追いかければなんとか深入りせずに追いつけるか?」


よし、冒険者ギルドに向かおうと皆が準備した時にスーが慌ててやってきた。


「リンダが山に向かったというのは本当か!?」



────────────────────


少し前の出来事。


リンダは水を入れた革袋と夕食用だったパンを入れたトートバッグを肩に掛け、山へ花を取りに行く準備をした。

兄と先生の額のタオルを改めて冷たい水で濡らして額にかけ直す。


『あとはマサキお兄ちゃんが言ってた様にしないと・・・』


『ヴィルトカッツェ』で過ごした日、何かと兄弟を気にかけて二人を街に連れ出して元気づけようとしていたマサキは、事あるごとに何かに手を合わせていた。


不思議に思ったリンダが『マサキお兄ちゃん何してるの?』と聞くと

何か失敗したくない事をするときは、神様に今から頑張るから見守って下さいって祈ってると困った事が起こった時に神様が力を貸してくれる事があるんだ。と言った。


その時は軽く聞き流していたが、今がその失敗したくない時だ、と思い至った。

今から山に行くのは少し怖いけど、神様に見守って貰えば大丈夫。と考え

『そうだ、山に行くまでにいろんな神様に見守って貰おう。』


ハンク邸を出る前に家の中の神様に『見守っていて下さい。』と祈り、道に出て通りの角の雑貨屋の店先のなんとも知れない像に向かって『見守っていて下さい。』、

北の跳ね橋に向かう途中の広場の噴水に向かっても同様に祈る。


『いろんなたくさんの神様にお祈りしたからもう大丈夫よね?』

北の跳ね橋の少し手前でリンダはやり残した事がないか、落ち着いて考える。


うん、お祈りは大切だってマサキお兄ちゃんが言ってたし、いつもマサキお兄ちゃんのそばにいる白い小さな神様が見守ってくれるって言ってたから大丈夫!


リンダは白い小さな神様の姿を思い浮かべ、ドラゴンの棲む山へと駆け出した。




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