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八百万の神々と千年王国の竜  作者: 涼城 鈴那
氷の女王とドラゴンの山

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アウトブレイク

グレイハウンドの死体が発見された場所を中心に消毒薬や、石灰といった殺菌効果のある粉末を大量に使用することで、今回のアウトブレイクは何とか抑えられた。


錬金術ギルドや雑貨屋に至るまでの在庫や使えるものは全て消毒に回した為、在庫が僅少になったものは至急他国から輸入する事となった。プラム熱には氷も有効とされる為、ドラゴン山とは別の山にある氷室から氷を調達する事も検討される。


今後同じような状況になっては今度こそアウトブレイクが防げないため、今後は城壁の周囲や街中の路地に至るまで厳重な警戒態勢が敷かれることとなる。



────────────────────


ワイズマン邸のフリッツは今回の件にどこか引っ掛かるものを感じていた。


『跳ね橋を下ろしたのは誰かという問題もあるけど、問題はグレイハウンドか。』


本来グレイハウンドは山の中で群れで暮らす性質を持っており、跳ね橋が下りてるからと言って街中に入ってくるような好奇心旺盛な魔物ではないはず。

山から街までそれなりに距離はあるし、その間に身を隠す様な植栽も少ない。

わざわざ危険を冒して街に入ってくる理由が無いのだ。


それが街に入って群れで行動するでなく、バラバラに個別に行動して町全体で死体が見つかるような状況、どう考えても不自然極まりない。


『何者かに追い立てられた説が有力みたいだが、しかし・・・。』


追い立てられたなら群れる性質から考えてバラバラに逃げる事も考え難い。

追って来る者からは一団となって逃げるはず、今回の状況は何かおかしい。


邸内を当てもなくウロウロしながら考えを纏めようとするが、何か情報が足りない、何か見落としてる事は無いのだろうか・・・。考えるうちに庭に出てマサキのいる花壇へと来てしまった。


マサキは相変わらず花壇で何かやっている、今回はビャクゴウではなくメロンを育てると言っていたな。なんでもとんでもなく甘くておいしいメロンなのだとか。


マサキの傍らの白い犬が上空を見上げる、マサキもつられて上を見る。


「お、鳥の知らせが来たみたいだ。」


マサキの情報網の一つ鳥達が何やら報告に来たらしい。本当に変わってるよなマサキって、空から降りてくる鳥を見ていて、ある事に気付いた。


「・・・・空・・・?」



────────────────────


「マサキ、ちょっとお願いがあるんだけど、頼まれてくれないかい?」

「なんだフリッツ?改まって?」

「ちょっと『飛翔』で屋根の上見て欲しいんだ。」


屋根?まぁ別に構わないけど、俺のは『浮遊』だ、と卑下したくなる。

『ヴィルトカッツェ』の子らに『飛翔』持ちだとバレてから皆の俺を見る目が違ってる、なんか凄い尊敬の眼差しなんだけどその視線が俺には非常に痛い。


『飛翔』と言ったってこんな風にふわっと浮いて移動出来るってだけなのに・・・。

とか思いながらワイズマン邸の屋根の上に上がってみたのだが・・・!?

なんだこりゃ!?


「おい!フリッツ!屋根の上でグレイハウンドが死んでる!?」

「やっぱりか!マサキ!触っちゃダメだよ!近くの屋根も見てくれるかい!?」


フリッツに言われて周りの家の屋根を見渡すと、やはり所々にグレイハウンドの死体らしきものが有るのが確認できた。なんで屋根の上に?


地上に降りる頃にはフリッツが屋敷の執事たちに指示を出していた。


「どうもおかしいと思ったんだ・・・・」

グレイハウンドは門から入ったんじゃない!空から落とされたんだ!とフリッツ。

彼曰く群れる性質のグレイハウンドがあちこちで死んでるのを見て不審に思ったが、何者かが空から町中に落としたんだよ、それもわざと路上と屋根に分けて。


「わざと?路上と屋根に分けた?なんでそんな事を?」


フリッツの考えはこうだ。跳ね橋を下ろしたり、犬系のグレイハウンドを獲物に選んだのは注意を路上に引き付けて、屋根の上に注意を向けさせない為だ。


猫科の魔物だと塀や屋根に上がる事が出来る為、あえてグレイハウンドを選んだ。

路上の死体の消毒を優先させて安心させつつ、実際は屋根の上でプラム熱の病原菌を蔓延させる為の時間稼ぎをしてたんだ。相手は凄く頭の切れる奴だ。


今、ウォルターに事情を伝えて屋根の上の死体の処理を手配させてるけど、路上の消毒に薬品を使ってしまってるから、残った消毒薬でどこまで消毒できるか・・・。


「あと、マズイのは前回の騒動でプラム熱の薬をほぼ使ってしまってるんだ。」

「じゃ、ドラゴンの山に大至急取りに行かないと!?」

「いや、ドラゴンにとって今回の事情は関係ない、一度に何人が入れるやら。」


さらに道中の途中で出くわす魔物達も一度に大勢の人間が行動すれば流石に気付く、山に入った人間が全滅の可能性すらある。

山に入れるのは『ヴィルトカッツェ』の数名だけで、一度に収集できるのはせいぜい数十個から多くて200個程度だろう、数によってはドラゴンが見逃すのかどうか。


「薬、どの位必要なんだ!?」

「解らない、前回だけで備蓄の7割使って残りも1000個は切ってるだろう。」

「前回以上の被害が出るかもしれないのか?」

「・・・ずっと屋根の上は放置してたからね、確実に数倍の被害があるだろう。」


とにかく中央や近隣の街から特効薬をかき集めて間に合わせるしかないな。

どれだけ数が集まるかは解らないが、その手配はウォルターに依頼してある。


既に街中からプラム熱の特効薬は姿を消していたが、家族に病人を抱える者は藁をもつかむ思いで錬金術ギルド、雑貨店、食料品店に至るまで駆けずり回って薬を探し求める者が続出していた。さらにその駆けずり回る者の中からも罹患者が出て来ると言う最悪な状況に陥っていた。



────────────────────


日が落ちて辺りが暗くなるころにはようやく街中の屋根の上の死体の処理が終わり、すべてのグレイハウンドの死体の焼却処分が行われている最中だ。

街の外で焼却処分が行われているが、城壁の中にまでその嫌な臭いは届いてくる。


フリッツと関係者数名とワイズマン邸で各方面からの情報を集めて今後の方針を探っている最中に、玄関先から早馬で街の外の情報が届いた。


「街道上に普段より多くの魔物が現れて、他の街に向かう荷馬車が通れません!」

これも奴らの仕業なのだろう、いちいちこちらの嫌がる事を的確にやってくる奴だ。


「なら、待機してる冒険者を護衛に着けよう!俺がギルドに掛け合う!」


俺はフリッツにそう言い残し、アカツキ様と共に冒険者ギルドへと走った。

ギルドマスターが渋ろうが俺が許す。なんなら金を出して正式に依頼すればいい。

今まで溜まってる金をカウンター人叩きつけて冒険者全員雇ってやる!!


ギルドに向かう途中の路上でも倒れる者に呼びかける者、意識の無い者を医者に診せようと抱えて彷徨う者、どんどん被害が拡大している。


現状で比較的安全なのは、前回消毒した路上ならまだ消毒薬の効果が残っている為、家屋の中よりはマシだろうと路上で一塊になる者たちも増えてきていた。



この時、ハンク邸でプラム熱の罹患者が出た事を誰もまだ知らなかった。



────────────────────



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