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八百万の神々と千年王国の竜  作者: 涼城 鈴那
氷の女王とドラゴンの山

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アウトブレイクの危機

「マサキ兄さん、ビーストマスターだったんです!」

「ガイルの糞野郎を全く相手にせずに、さっさと追っ払ったんですよ!」

「格好良かったー!本当頼れる兄貴って感じで!」

「普段のんびりしてるのにイザって時は格好いいんですよー。」

「いや、あの時ものんびりしてたよ!普段通りって感じで!」


『ヴィルトカッツェ』を訪れたスーを待っていたのはマサキを手放しで称賛する面々の黄色い歓声だった。あの飄々とした男が輩を前に全く動じずに軽くあしらって追い払ってしまったと言うが、現場を見ていないスーには想像すら出来なかった。


当日、『ヴィルトカッツェ』上空に夥しい鳥たちの群れが大挙して竜巻の様に飛び交っていた事は公式に認められた現象ではあったが、それをマサキがやったとは。

・・・・意味が解らん。


ただ『ヴィルトカッツェ』の面々が以前からマサキを「兄さん」と呼んではいたが、あの事件以降の「兄さん」は意味が違って「お兄ちゃん」と慕っている風だ。

それはそうだろう、今まで自分たちを保護してくれる存在が居ず仲間達で肩を寄せ合い助け合っていた所に、全く代価を求めず自分たちを保護すべく現れた存在。

それは自分達が失った「父や兄」と呼べる存在なのだろう。


スーが今まで『ヴィルトカッツェ』の面々を守ってきたのは紛れもない事実だ、それは彼女らにとっては『姉』としてであったのだろう。

この面々のマサキに対する浮かれ方を見るに『兄』の存在と安心感というものは特に「力」という面においては『姉』とは比較にならない程大きいのだろう。


『・・・お兄ちゃん、か。』



────────────────────


「北の跳ね橋が使えなくなって不便ったらありゃしない。」


北の跳ね橋の昇降装置が壊れて修理をすることになったのだが、橋自体も作られて20年が経過する事から橋そのものを作り変える事になった様だ。


建設に携わる職人達が入札から始めて、材料を集め修理に取り掛かるとなると完成までには相応の時間がかかるだろう。問題は今まで北の跳ね橋を渡っていた人の流れが完全に変わり西と東へ流れた為に、北門近くでの商いが滞っている事だ。


『ヴィルトカッツェ』も山へ行くときは北の跳ね橋を使っていたが、多少時間はかかるが西門を使えるし、今後球根の育成が進み山へ行かずに済めば関係もなくなる。

ビャクゴウの球根は順調過ぎる程に成長しているようだ、青々とした茎と葉っぱが伸びて、もうすぐ蕾が付きそうなものも出てきている。


このまま行くと、プラム熱の特効薬の量産化も思ったより早く進みそうだ。

イグニスの街も『ヴィルトカッツェ』の面々にも明るい未来が待っている。


・・・・はずだった。



────────────────────


ある日の早朝、街中を警邏する警備兵数名がいつもの様に定められた順路を確認していると、路上に見慣れぬ物体を発見した。警備兵が灰色のその物体を確認すると。


「グレイハウンドか!?なんでこんなところに!?」

その物体は山に住む犬型の魔物でグレイハウンドと呼ばれるものの死体だった。


「おい!マズイぞ!コイツ確かプラム熱の宿主・・・・!?」

その時、少し離れた場所にいた別の警備兵が叫んだ。


「こっちにもグレイハウンドの死体があるぞ!1体や2体じゃない!」

警備兵の叫びに改めて周囲を見回すと路上の所々に死体らしき物体が点在している。


警備兵たちは直ちに詰め所に戻り、事の次第を報告して街の路地の隅々まで探索が行われた。その結果50体ものグレイハウンドの死体が街全域で発見され、イグニスの街は蜂の巣をつついたような騒動に巻き込まれた。


────────────────────


グレイハウンドの死体が発見された場所周辺の消毒作業が徹底的に行われた。


それと同時に街中で発見されたグレイハウンドの死体がどこから来たのか検証が行われ、侵入経路が工事中の北の跳ね橋である事、夜間に何者かによって跳ね橋が下ろされていたことが原因とされた。


昨日までは修理の為に跳ね橋は封鎖され、周辺も跳ね橋が使用できない所為で人の往来も極端に減り商店や人家も早々に眠りについていた為、深夜は明かりも無く人目が無い状態だった事が判明した。


元々修理予定の為に封鎖されていた為、夜間も警備はせず人目が全く無い状態。

何者かが悪意を持って跳ね橋を下ろし、グレイハウンドを追い込んでプラム熱の感染爆発を引き起こそうとしたのだろうと結論付けられた。


一体何者が?その問いに昨今の王国での虎獣人騒動や、邪神の復活が数年後に迫っている現状を踏まえ、この世界に放たれた邪神の下僕の残り4体の魔の手が王国のみならず此処共和国まで伸びてきたという仮説が一気に現実味を帯びる。


グレイハウンドの死体が発見された付近の住民たちの間で、少しでも体調のすぐれない者がいた場合に備え議会からプラム熱の薬が無償で提供される事に。


体調不良を訴える住民は割と多く400名近くいたが、薬品は在庫が許す限り感染爆発を防ぐ意味でも念の為にその家族、近隣住民にまで提供された。

その甲斐あってプラム熱での死者は奇跡的に0で済み、罹患者も重症者は居らずアウトブレイク(集団発生)を抑え込むことに成功。


グレイハウンドの侵入から数時間で全ての死体を処理できた事が僥倖だった、これが発見するまでに数日かかっていれば病原菌の増殖は壊滅的な被害となっただろう。


これによりプラム熱の特効薬は備蓄の7割を放出してしまった為、今後同様の事が発生すれば被害は甚大になる。これ以上の被害拡大を防ぐ為、以降夜間の警備を厳重にする事でプラム熱対策に充てると発表された。



────────────────────


ハンクの私塾でも生徒の中から軽症ながらも罹患した者が現れ、罹患した者が回復するまで休講する事となった。ハンク邸の関係者でもハウスキーパーのニーナが罹患した可能性がある為、『ヴィルトカッツェ』から代わりとしてナディアが派遣された。


アベルとリンダにとってもナディアは顔なじみであり酒場『ヴィルトカッツェ』で料理も一通りの物が作れる程度に上達しており、ニーナの代わりを無難に勤めていた。


「ニーナさん、大丈夫ですか」

「うん、一寸熱が出たから念の為に休んでるだけだから心配しないで。」

「ナディアお姉ちゃんは大丈夫?」

「病気になってもお薬さえ飲めばなんともないのよ。」

そこのドラゴンの山の頂上に生えてる白いお花の球根があればすぐ治っちゃうの。

街にお薬が無くなっても取りに行けるから心配しなくていいのよ、とナディア。


「ふーん、そんなお花があるんだね。」


何気ないナディアとリンダの会話だったが、この会話がのちにリンダの運命を大きく変えることになろうとはこの時点では誰も予想すらしていなかった。



────────────────────

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