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八百万の神々と千年王国の竜  作者: 涼城 鈴那
氷の女王とドラゴンの山

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ビャクゴウの球根

俺は『ヴィルトカッツェ』の面々に声を掛けて、ワイズマン邸へ来て貰う事にした。

『ヴィルトカッツェ』の手の空いてる者デルマ含む5名と、『氷の女王』ことスーの計6名がワイズマン邸の入り口で館を見上げ固まっていた。


「まさかとは思ったけどワイズマン議長の屋敷の事だったのかい。」

デルマが言う、ビャクゴウの球根の収集の依頼を受ける事はあっても、向こうが『ヴィルトカッツェ』に出向く事で依頼が為されるため、ワイズマン邸へ来るのは初めてだったらしい。


俺も客人扱いだし大きな顔はできないが、用事があって呼び出したのは俺だ、俺が彼女らを案内する。相変わらずナディアが横にくっついてくるが気にしない、今や『ヴィルトカッツェ』内でも俺の妹扱いとなってるらしい。


目的地に着く、フリッツとアレックスが花壇の傍で俺たちを待っていた。

実は彼らにも詳しい要件は話していない、『ヴィルトカッツェ』とプラム熱の問題が解決するかもしれないとだけ言ってある。


「さぁ、これが問題を解決してくれる事になるかもしれないモノです。」

俺はそう言って花壇の生えている小さな葉っぱを掘り起こした。



「・・・はぁぁぁ?」

「え?ちょっとそれまさか?」

「それって小さいけどビャクゴウの球根?」

「ええぇ?なんでこんなところに?」

一番最初の変な声は俺のものだ、実際俺が一番驚いていた。

何しろ数日前までは小指の爪程の大きさの球根だったものが、掘り起こしてみればチューリップの球根並みの大きさに育っていたのだから。それも一株に5個も。


アカツキ様を横目で見ると神様は知らん顔して毛繕いをしていた、これは相当この地の神様に無理をさせたのではないか、心の中で地の神様に感謝と謝罪を捧げた。

そして『ヴィルトカッツェ』の面々と球根を丁寧に掘り起こした結果全部で100個、それらを全て彼女らに「委託」という形で預けることにした。


「これをデルマさんたちで育ててください、増やし方も説明します。」

あくまで委託としたのはこのビャクゴウで何らかのトラブルに巻き込まれた時に俺が前面に出てトラブルを解決し易くするためだ。これらは彼女らが危険な山に行かなくて済む貴重な財源なのだ念には念を入れよう。



「こんなに沢山の球根・・・。買えば金貨200枚にはなるだろうに。」

「お金はまた稼げます、これで助かる命が増えた方が良いです。」

『ヴィルトカッツェ』の面々は多くがプラム熱で肉親を失った者が多い、ここに居る彼女らも皆そうだ、ナディアはすでに涙ぐんでいる。


「マサキ、ビャクゴウが増やせるなんて今まで聞いた事が無かったよ。」

フリッツが感心したように言う、球根を丸ごと植えて分球させる方法は知られていたようだが、時間がかかって効率が悪い。鱗片を剥がして一枚ずつ植えるなんて球根が一つ金貨10枚で売ってる事を考えたら恐ろしくて試せないだろう。


ともあれこれでプラム熱の対策が進むことになるだろう、俺達は『ヴィルトカッツェ」へと戻り、店の裏庭に球根を植えなおす事にした。

裏庭の土地は球根が好む水はけの良い土だったが、良すぎると思えたので雑貨屋で調達した牛糞を深く耕した土に混ぜ込み、培土を作り球根を一つ一つ植えていく。


一旦植えてしまえば後は植えっぱなしでも問題ないが、たまに肥料は与えた方が良いのと一番肝心なこの土地の神様に感謝の念を捧げておく。傍らでアカツキ様が何故か畑を睨みつけていたのが少々気になったが・・・・。


後は蕾が出れば切り取って球根を太らせつつ、切った蕾を薬に出来るしプラム熱の特効薬の量産も現実味を帯びてきた。


「マサキ、ありがとう。これでプラム熱の被害者も激減するよ。」

フリッツにそう言われた、そういえばこの街の議長の息子だったなコイツ。


デルマからお祝いにちょっとした宴を開こうと提案された。

もちろん断る理由もないし『ヴィルトカッツェ』の新しい未来を記念する宴だ、喜んで参加させてもらおう。

『ヴィルトカッツェ』は臨時休業、関係者だけだが賑やかな宴が開かれた。


「ほら兄さん、もっと飲んで。」

「ナディア、あんたマサキ兄さんにくっ付き過ぎ!」

「スー姐さん、これ美味しいですよ食べます?」

「はーい、料理の追加だよー。食べたいもんあったら言ってねー。」


流石に本来は酒場なだけあって色んな料理が振舞われる、王国では見た事も無い料理もありどれもこれも絶品だ。今まで色んな店でいろいろな料理を食べてきたが、はっきり言って此処の料理が一番だろうと思える。


「しかし、ここの料理って今まで食べた中でも一番おいしいですね、」

デルマに素直な感想を述べると、『嬉しい事言ってくれるねぇ。』と上機嫌になった。


「ウチはミアが調理担当だけど、ミアの料理があったからこそ酒場を始めたんだ。」

「へぇ、そうなんですか?」


『ヴィルトカッツェ』の本来の業務は、人材派遣のような仕事だったと言う。

5~6年前にミアが『ヴィルトカッツェ』に拾われた際、彼女の作った料理が絶品だった為、ミアの料理を売りに酒場を始めるとこれが大成功を収める事になった。


ミアは未だスーと同じ位の年齢なのにこれだけの腕前を持つことを皆不思議に思うが、訳アリな者が集まる『ヴィルトカッツェ』なので誰も詮索はしないらしい。


「あら、兄さん何の話で盛り上がってるの?」

当のミアが追加の料理を卓に置いて話に加わって来た。


「いや、ミアの料理は絶品だ、って言ってたんだ。」

「いやだ、兄さん気に入ったのならお嫁に貰ってくれる?」

「ミア、あんたが嫁に行ったらウチは潰れちまうよ!」


『いやねマム、半分冗談よ』『残りの半分はどうなんだい?』と笑いに包まれる。

良い雰囲気だ、皆が将来に希望を抱いている証拠だ。この笑顔を守らなければ。

『ヴィルトカッツェ』の宴はまだまだ始まったばかりだった。



────────────────────



「マサキ兄さん、球根の増やし方なんてよく知ってましたよね。」

「つーかあの人、一般常識知らなかったり、変わってるよね。」

「そうそう、変な人ついでに『飛翔』持ちなんだってね。」


『ヴィルトカッツェ』の裏庭ではビャクゴウの畑の手入れが行われていた。

そんなに頻繁に手入れが必要なほど成長は早くないのだが、それでも何故か雑草の伸びも早くその処理は毎日欠かさず行われている、その作業の間手を動かしながら彼女達の話題は球根の提供者マサキの話だった。


彼女らの間でマサキは、ナディアを買わずに街まで送り届けたうえ当面の費用として惜しげもなく金貨を手渡し、スーの美貌にも興味を示さないという実績のある『変わり者』だ。もしかして女に興味が無いのでは?そういえば一緒につるんでる二人もイイ男だしやっぱりそう言う事では?と、盛り上がる話題となっていた。


マサキが男と女のどちらが好きでも、彼女らの共通認識は『ああいう兄貴がいたらなぁ』というものだ、理想の男ではなく、理想の兄貴なのだ。


そんな楽しい話題でお喋りをしていたのに、それをぶち壊す声が表で響いた。


「デルマ!居ねぇのか!?デルマ!」


『また来やがったよ、あの野郎。』

皆で作業の手を休め表へ向かうと、そこに居たのはでっぷりと肥えた趣味の悪い衣装に包まれた下品な中年男とその取り巻きの冒険者計5名だった。


「そんな大きい声出さなくても聞こえてますよガイルさん。」

ガイルと呼ばれた趣味の悪い男は下品な笑みを浮かべたまま、彼女らを睨め回す。


「デルマは居ねえのか、せっかく仕事を持ってきてやったのによう。」

このガイルという男、『ヴィルトカッツェ』にビャクゴウの収集を依頼する元締めでもあり、デルマを己の妾にしようと企む嫌われ者でもある。


「あー、ビャクゴウの球根なら自分たちで育てますから間に合ってます。」

「はぁ?育てるったって、時間ばっかかかって割に合わねぇだろうが?」

「最近この街に来た兄さんが球根育てる方法教えてくれたんでね。」

彼女らはマサキが金品を一切受け取らず、全くの厚意でプラム熱の被害者を救う為に球根の育て方を惜しまず教えてくれた事を、ガイルに伝え


「もうアンタに良いように使われなくて良くなったんだ、さぁ帰った帰った。」

「・・・そんな胡散臭いやつの言う事なんか聞いても後悔するだけだぞ。」


もうアタシらは危険を冒して山に行きたくないんだ、とガイルに宣言した。


「・・・チッ、また来る。」

「来なくていいよ。」


ガイルは後ろに控える取り巻きにアゴをしゃくると、その場から立ち去って行った。

『ヴィルトカッツェ』の面々はその姿を見送りながら


「・・・もうアイツのいう事なんて聞かなくて良いんだね。」

「ホント、それが一番大きいよね。」

「マサキ兄さん様様だよね、感謝してもしきれないよ。」

いつの間にか作業中に交わしていたお喋りが彼女らの間で復活していた。



・・・そして事件が発覚したのは次の朝だった。

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