兄と妹・1
足に怪我を負い蹲る男の子と、その傍に寄りそう女の子、二人は兄妹だった。
男の子の怪我はアカツキ様がすぐに治療魔法を掛けて治癒し問題はない。
「君たち大丈夫かい?」
俺は直ぐに背中のバッグから水を取り出し二人に与える、渇きは癒されたが二人とも衰弱している様だ。もしかしたらしばらく何も食べていないのかもしれない。
俺は二人を抱え上げようとするが子供とは言え、流石に二人一緒は難しい。
どうしようかと考えていたらアレックスとヴィルトカッツェの面々が俺達に追いついて来た。集団から飛び出し真っ先に駆けつけたのは意外な事に『氷の女王』だった。
「大丈夫か!?二人ともしっかりしろ!」
冷静沈着なイメージだったが幼い兄弟を前に心底心配している様子だ。
そう言えば、依頼も女性、子供が絡むものばかり受けていると言っていたな、弱い者を放っておけない性分なのだろう。
「とりあえず、ウチに連れて行くよ。」
デルマの声に俺が兄を、アレックスが妹を抱き上げて街へと帰還した。
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デルマの酒場『ヴィルトカッツェ』に幼い兄妹を連れて戻った。
『ヴィルトカッツェ』って酒場の屋号だったのかと、看板を見て今更気付いた。
普段は酒場を切り盛りしながら他の仕事もするが、あくまで中心はこの酒場なのだろう、言い換えれば酒場だけではやっていけないという事だ。身寄りのない子らの面倒を見るのは大変な事だと再確認する。
店内でデルマの出した料理を頬張る兄妹、兄はアベル12歳、妹はリンダ10歳。
傍らには『氷の女王』こと「スー」が寄り添い見守っている。
以前彼女の黒髪を見て妹の「鈴香」通称「すぅ」を思い出したが名前まで似てるとはなんという偶然だろう、まぁ妹の方は可愛い系の中位でこんな美人じゃないが。
兄妹と一緒に食事をしている処を見て気付いたが、彼女、テーブルマナーや立ち居振る舞いが他の人間と明らかに違う。マナーに疎い俺から見ても非常に洗練されているように見える、フリッツが言っていたように元は良い所のお嬢様だったのではないだろうか?
「スー姉さん、これ着替えです。」
「ああ、すまないな。食べ終えたら着替えさせよう。」
スーが子供らの面倒を見るのを引き受けているのは、他の女の子は酒場の仕込みや掃除とか店の仕事があるし、彼女は一応冒険者の立場なので自由が利くのもあるだろうが、彼女の性格的なものが大きいようだ。
この子らが何故あんな所にいたのか、両親は何処にいるのか等聞きたい事は山ほど有るがそれを聞くのは当人たちが落ち着いてからだ、負担を掛けてはいけない。
俺としてもこの子らと村の子供らが被って見えてしまう、決して他人事ではない。
子供らが料理を食べ終わり、汚れていた服を着替え落ち着いた頃にアベルがぽつりぽつりと身の上を話し出した。
別の街の役所に勤めていた父と母の家族4人で暮らしていたが、詳しい事情は聞かされないまま父の実家へ戻る事となり、そのイグニスの街に向かう途中盗賊に襲われ家族がバラバラになってしまったという。
アベルは母親から「後で必ずイグニスの街で合流するから。」妹を連れて逃げるよう言われ、食べる物もほとんどない状況でひたすら言いつけ通り街を目指して二日間歩き続け、街の近くまで来た時に空腹と疲労で足がもつれ河原に落ちた際に怪我をし、動けなくなってしまっていたそうだ。
その話を聞いたアレックスは即ワイズマン邸に走り、事の顛末をウォルターに告げ、盗賊と彼らの両親の捜索を依頼した。この件は冒険者の出る幕ではなく公権力に任せる案件だ、問題は彼らの今後の身の振り方だ。
アベル曰く父の実家があるという事なので、身内の元へ連れて行くのが最優先だ。
この件もウォルターに依頼し彼らの身内を探して貰う事にして、見つかるまではデルマが預かる事となった。が、スーがいつも付きっ切りとなっている。
俺もアカツキ様が発見した手前もあるのと村の子供たちと被る上、両親が行方不明というのが気になりすぎて、『ヴィルトカッツェ』に入り浸りとなっている。
アカツキ様は街の内外の様子を見て回っている為、だいたい不在だ。
街の外で集めた魔石が一定量貯まると、俺に回収するよう指示が来て俺が回収処分するという日常を送っている。その為、金は結構貯まる。教会のカード必要ないな。
貯まった金の使い道も無い為、子供らの生活費や各種費用は俺が出している。
デルマは要らないと言っていたが、「ヴィルトカッツェ」が酒場だけではやっていけていないのを知ってる以上、彼女らの負担も軽減してやりたい。
村の子供たちが学校で不自由している事などまるで気付かなかった事は大いに反省している。この子らも最低限不自由しない程度には支援してやりたい。
そこで内部の事情も段々と解ってきた。ビャクゴウの収集はそこそこのお金にはなるが、全く危険が無い訳ではないので出来ればやりたく無い女の子が多いそうだ。
しかし世話になっているデルマの為に力になりたいし、ビャクゴウはプラム熱の特効薬だからプラム熱で肉親を失った身からすれば、これ以上プラム熱の被害者を出したくない、でも危険、との葛藤が大きいという。
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アベルとリンダを保護して3日目、この街での彼らの父の弟という人物が判明したとの知らせがウォルターから届いた。父の実家とされていたが父親の両親はすでにこの世になく、後を弟が継いでおり兄妹の身内はこの人物しかいないそうだ。
彼らの叔父に当たるというハンクというこの男、この街では割と知られた学習塾を経営しており、丁度この兄妹達と同じ年頃の子供に教育を施して難関高等学校への進学率も高いと評判の塾で入塾希望者が後を絶たないらしい。
ハンクに彼の兄家族に起きた事件の詳細が伝わると、最初は多忙を理由に断ろうとしていたようだが、結局は兄達の消息が判明するまでは預かる事になったようだ。
デルマがこの件を兄妹に伝えると「ヴィルトカッツェ」にようやく慣れてきた彼らは、最初はまだ見ぬ叔父の元へ行く事に不安そうにしていたが優しい父の弟であるという事で二人して彼に引き取られる運びとなった。
数日後、ハンクが「ヴィルトカッツェ」に兄妹を迎えにやってきた。
「この度はこちらの身内がお世話になりまして・・・。」
痩せぎすの少し神経質そうな男は初めて会う甥と姪に対し、特別な感情も見せず只事務的な態度で事務的にデルマに挨拶をした。
「君たちがアベルとリンダだね。私はハンク、君達の父親の弟に当たる者だ。」
事務的に子供らに声を掛けて兄妹を引き取ると、子供らに後をついてこさせて自分は普通に足を進めていく、子供らより少し速度が速いが気にもしていないようだ。
「なにか困った事があれば、また此処を訪ねてこい。」
スーは最後まで彼らの事を気にかけて別れ際も彼らに言葉をかけ、たまにこちらを振り返り手を振る子供らを見送る際も、その姿が見えなくなるまでその場に立ち尽くしていた。
「あの子らは身内が居るだけまだマシさ、他人を気に掛ける余裕なんてないしね。」
デルマがスーの背中に語り掛ける、スーにもその言葉は届いたがスーの表情は晴れなかった。
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