兄と弟・1
馬車がエントランスに着くと数名の男性使用人とメイド達が出迎えてくれた。
「お帰りなさいませフリードリヒ様」
「少しお世話になるね。」
フリッツはただいまと言わなかった、あくまで自分は出奔した身でここは実家ととらえていないとの意思表示なのだろう。
フリッツに続きアレックス、俺、アカツキ様と続く、アカツキ様の扱いはどうなるのだろうと一瞬考えたが、皆丁重に扱ってくれているようだ。
そのまま応接室へと通された。
応接室も立派な作りだった、応接セットや調度品等も一級品を代々使っているのだろう、かなり年季の入ったアンティークの様に見える品々ばかりだ。
俺たちの座るテーブルにティーカップが用意されている、このお茶も高級品なのだろうが、俺にはその辺りは判別がつかないし飲めれば良し。
多分美味しいのであろうお茶を堪能している時に奥の扉が開いた。
「兄さん、帰ってきてくれたんだね。」
俺たちより4~5歳位若い男性が入ってくるなりフリッツに声をかけた。
「やぁウォルター、お邪魔してるよ。」
「こちらは僕の友達のアレックスとマサキだ。」
ウォルターに向けて紹介された俺たちはそれぞれ改めて彼に名乗った。
「初めまして、ウォルターです。兄さんがお世話になってます。」
「で、ワイズマン家の後継者だよ。」
「兄さん!本来兄さんが継ぐべきなんだよ!」
「僕にはそういうの堅苦しくて向いてないんだよ、ところで父さんは?」
父親は議会に参加していて当分戻ってこれないらしい、父の秘書みたいな仕事をしているウォルターが兄が戻ってきたと聞いてすっ飛んできたと言う。
「例の件でちょっと世話になるから二人に部屋を用意してくれるかい?」
「もちろん用意はさせてるよ、あの件は今、問い合わせしてるから少し待って。」
『例の件』、ドラゴンの山の道案内の件だろう。返事が来るまでこの屋敷に滞在する事になるそうだ。
ビャクゴウ収集の集団名は「ヴィルトカッツェ」と言うそうだが、彼らは現在少々ごたついていて依頼を受けるかどうかの返事もまだ来ていないらしい。
ウォルターが執事たちに色々指示をした後、彼は再び議会へと戻るという。
「お二人とも何か御用があれば家の者に何なりとお申し付けください。」
ウォルターはそう言い残し足早に部屋を出て行った。
「弟さん、随分と忙しそうだね。」
議会開催中は何時もこうさ、それより返事が来るまではしばらくかかりそうだから街中でも散策してきたらどう?部屋の中とか退屈だろう?とフリッツに勧められた。
確かにフリッツじゃないけどこんな邸宅の中は肩が凝りそうだ。
アレックスも室内に居るのは息が詰まるようで、二人して街へと繰り出した。
アカツキ様も一緒に出たがドラゴンの山に興味があって山まで行くとのことだった。
街へ出たは良いが、ナディアにお金を渡したこともあって懐が少々厳しいのを思い出した、そう言えば今回の必要経費は王国持ちだというがどう清算するんだろう?
「ん?マサキ、ノルマールのギルドを出るときカード貰っただろう?」
「あー、そういえば何か教団のシンボルが入ったの貰ったっけ。」
アレックスが言うにはそのカードを各国の大き目の街に存在する「教団」の支部に持っていけば、必要な額を渡してくれる手はずになっているという。
通常ならギルドに預けた金はどこのギルドでも引き出すことが出来るのだが、一応敵勢力に気取られないよう秘密裏に行動している為、極力ギルドにも寄らない方がいいという事でそのお金の引き出しが出来ない。
それをカバーするのがどこの町にでもある「教団支部」になるらしい、王国とは敵対関係にある帝国にも「教団支部」は存在するので、帝国に行った際も利用できる。
「なるほど、そう言う事か。」
アレックスに事情を説明し早速「教団支部」に行ってみる、と彼と別行動をとった。
イグニスの教団支部はフリッツの実家程ではないが、かなり立派な建物だった。
なんで宗教関連の建築物ってこう立派なものが多いのだろう?寄付とかお布施だけでやっていけるのが不思議でたまらない。元の世界みたいになにか別に事業をしてて、それは非課税で結構な収入になるとかだろうか?
そんなことを考えながら支部の中にいた修道士に訪れた目的を話してみた。
「それはそれはお勤めご苦労様です。」
修道士はそう言って別棟の受付のようなところへ案内してくれた。
受付嬢と言うよりも「修道女」な見たまんまの女性が笑顔で受け入れてくれた。
なんかそこらの街の女性より明らかに容姿端麗だ、教会ってそういう女性だけ選別してたりしてないよな?と罰当たりな事を考えてしまった。
「お幾ら程ご用立ていたしましょうか?」
そう聞かれ、ちょっと厚かましいかな?と思いつつ
「金貨50枚ほどお願いできますか?」
「少々お待ちください。」と言い、彼女はすぐ後ろのドアに消えたと思えば、間もなく金貨と用紙の乗ったトレーを手に現れた。
「金貨50枚、お確かめください。」
と金貨を渡され、枚数に間違いが無いことを確認し用紙にサインをした。
手続きはそれで完了した。随分あっさりかつ簡単な手続きだ。やっぱり何か別の金儲けになる事をしてるんだろうなと失礼なことを考えつつ教団支部を後にした。
アレックスはいつもの武器屋巡りだが、俺は俺で先日手に入れたビャクゴウの球根で試したいことがあるので、道具屋か雑貨屋を探しついでに街を散策する。
大通りを歩いているとそろそろお昼の時間になるのに気が付いた。
『昼食はまだ良いとしても喉乾いたな』
この街の気温は結構高い、近くにあった酒場に入ることにした。
店は3割位の席が埋まる程度の客入りで、俺は適当な席を取りラガーを注文した。
近くのゴロツキ3人の会話が耳に入る。上機嫌で自慢話でもしているようだ。
内容は数日前にこの街に着いたばかりの彼らが通りすがりの女性に道案内に声をかけたところ、警戒して無言で立ち去られたのを逆恨みして女性に暴行した等、聞くに堪えない事をさも自慢するかのように語っていた。
改めて元の世界と治安面が全く違うのだと思い知らされた、この世界にはこんな奴らがザラに居るのだ。
内心お灸を据えてやろうかと思ったが生憎アカツキ様が居ない状況では手が出せない。とりあえずコイツ等の情報を探ろうと聞き耳を立てていた時
「おい、お前ら。この街で下手に女に手を出したら死ぬぞ?」
別の卓に着いていた冒険者がゴロツキ達に声をかけた。
「はぁ?なんでその程度で死ぬことになるんだ?」
ゴロツキ共は不思議そうに聞き返す。
「特に首に赤い布を巻いてる女にゃ絶対手を出すんじゃないぞ。」
「あ?そういえばあの女も赤い布つけてたな?」
ゴロツキがそう言った途端に、店内がざわついた。
「・・・コイツ死んだな。腕の1本で済んでも・・・普通に生きて行けまい。」
「・・・・ご愁傷様だな。」
周りの冒険者達の哀れな者を見る目に不安を覚えたのか、ゴロツキ達が声を上げる。
「おい!俺達が何したってんだよ!?」
冒険者はそれに答えず、女給に酒を注文しその酒をゴロツキの卓に置いた。
「これは俺達からのオゴリだ飲んでくれ。」
「お?おう、悪ぃな、頂くぜ。」
ゴロツキ達は奢られた酒に手を伸ばし杯を傾ける。
「・・・・末期の酒だ、味わって飲めよ?」
「!?何だと!!」
「どういう意味だ!おい!?」
「そのままの意味だ、運が良ければ死なんで済むかもな?」
店の外の声の主、そこには白い軽装の甲冑に白いマントの女剣士が立っていた。




