「神罰」とドラゴン
冒険者ギルドでの唯一無二の存在「ビーストマスター」となったマサキは、それまでと立場が変化したからと言って特に何かが変わったと実感できず、普段と変わらぬ日常を送っていた。
マサキの一日はギルド3階に割り当てられた他の部屋と明らかに違う豪華な部屋から始まる、他の部屋の倍はある広さの部屋にはダブルベッドは勿論、書き物の出来る立派な机や来客に対応できる応接セット、挙句には専用のバスルームまであった。
何より風呂はありがたい、魔石を利用しているそうだが何時でもお湯が使えるのは便利この上ない。衣類も専用のバスケットに入れて置けば洗濯までしてくれる。
あとは私物を置いといて良いのは地味に助かる、大荷物は無いにしても普段持ち歩く必需品はなるべく少なくして身軽に動けるようにしておきたい。
一応この部屋で食事は摂れるそうだ、1階のロビーで飲み物や軽食を出しているのは知っていたが食事も出来たのか、と思ったが隣の酒場からの出前らしい。
ただ部屋で食べるのも味気ないので、いつも食事は酒場へ出向くことにしている。
見知った冒険者と食べる方が情報交換になって良いと思うんだが、フリッツとアレックス以外からは若干距離を置かれている気がしないでもない。
そして今日は何時にもまして人がいない気がする。
アカツキ様との二人きりの朝食が終わる頃、酒場にフリッツが現れた。
「やぁ、ちょっと早いかなと思ったけど丁度良かったかな?」
「丁度食べ終わったところさ、準備は出来てる。」
「じゃ、馬車も待たせてあるし行こうか。」
俺はテーブルを片付けに来た女給さんに『ご馳走様』と伝えると『行ってらっしゃい』と笑顔で答えてくれた、ちなみに代金はギルド持ちなのでそのまま外に出る。
今から馬車に揺られてフリッツと向かうのは郊外の荒地だ、そこでフリッツの仲間のミハエルと合流の予定となっている。先日の王都での事件で『飛翔』のアドバイスをしてもらうハズだったのだが、当時はとてもそんな状況ではなかった為延期になっていた。
そして当時大々的にお披露目したという『神罰』を俺だけ見てなかったので『見たかったなぁ。』と言ったら『見せようか?』とあっさりとフリッツに言われその言葉に甘えることとなったのだ。
この冒険者の間で最強技として語り継がれ、ほとんど見た者が居ないとされる『神罰』だが、別に秘密にしてる訳ではなく、使う時と状況が限られている為に部外者が見る機会が無いだけだという。
第一、原理も方法もオープンにしているから想像は出来ても『飛翔』持ちが希少な為、誰も再現出来ないだけらしい。
そんな説明を受けたり雑談をしたりで目的地に着くと、何やら人が大勢居る。
見ればざっと数えて100人位の冒険者が集まっていた。
「ありゃー、ギャラリーが凄い集まってるねぇ。」
「・・・これ『神罰』見に集まったわけ?」
そうだろうねぇ、みんな暇だねぇ。と大して気にもしていないフリッツは周りを見渡して、目的の人物を見つけるとさっさとそちらへ歩いていく。
俺とアカツキ様も後ろから付いて行くがギャラリーはフリッツに気が付くと気軽に声をかけて、俺を見つけてギョッとした顔をし、アカツキ様を見て後退りをする。
結果波が引くようにとても歩き易い状況になる、その先にひと際上機嫌で『俺は王都で「神罰」を見た事がある。』と自慢している男がいた、ギルドマスターだ。
陽光に照らされ頭頂部が輝いている為、ひと際目立っている。
「おう、来たかフリッツ・・・・!」
マスターは俺を見てギョッとした顔をして、アカツキ様を見て後退る。
「お前も来たのかマサキ。」
「いや、俺が見たいって言ったからミハエルがこの場を設けてくれたんですよ?」
昨日の夕食時に今日のお披露目の件をフリッツと打ち合わせてたら、それを聞きつけたマスターが『俺も見に行ってもいいか?』と聞いて来たのを、フリッツが別にいいですよ。と答えた結果がこのギャラリーである。マスターは口が軽い。
「やぁ、ミハエル調子はどうだい?」
「問題ないよフリッツ、と、マサキ、久しぶりだね。」
「やぁ、ミハエル王都以来だな。」
声を掛けてきたミハエルと挨拶を交わし、改めて彼を見る。
身長は160cm位の小柄で一見女の子にも見える彼だが、密偵としても一流だし「パニッシャー」の二つ名を欲しいままにする超S級の人物だ。
今日は「神罰」のお披露目が目的なのだが、軽装の革鎧姿に大きな両手剣を手にしている。なんでもゆったりした服は『飛翔』の邪魔なのでこの姿が良いらしい。
そう言われて俺は自分の服装を改めて確認する、この世界に来たばかりの時はジーンズと長袖のカッターシャツだったが、着替えをこちらの店で調達した際も同じような服を選んだ為、冒険者らしからぬ動き易さ第一の一般人の服装だ。
「じゃあ、早速行くよ、何か参考になればいいね。」
「ああ、参考にさせてもらうよ。」
そう言って中空に飛び立つミハエルを見送った、彼は徐々に速度を速め空を駆け上がっていく、どんどん小さくなるその姿に俺は恐怖した。
『無理無理無理無理無理!!』
あんな高い所まで上がる?絶対無理!そんな事なら「神罰」要らないって!
周りは感嘆の声を漏らしていたが俺は内心悲鳴を上げたい気分だった。
と、一瞬その姿に陽光が反射したと思った途端、米粒の様だったその姿があっと言う間に豆粒大になり、次の瞬間には100m程離れた大地が轟音を発し破裂した。
衝撃で土煙が高く舞い上がり、小さな小石がこちらまで飛んできた。
「おおおおぉぉぉぉぉぉ!」
「これが『神罰』か!」
「凄ぇぇぇぇ初めて見たぁぁぁ!」
周りは大歓声に包まれたが俺は声すら出ずに固まっていた。
その俺の傍らでアカツキ様は退屈そうに毛繕いをしていた。
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「神罰」をその目に見て興奮冷めやらぬギャラリーたちは口々に感想を言いながらそれぞれの本拠地へと引き上げていった。
街に戻る馬車の中でフリッツとミハエルに感想を求められたが、正直出来そうにないと伝えたら『流石に直ぐは真似できないだろうからコツだけ教えるよ』とミハエル。
なんでも落下するときはほんの少し加速してるだけで、ほぼ自由落下なのだとか。
速度を上げれば上げるほど命中率が激減するので、加速中はほぼ軌道修正が主で威力は二の次なのだとか。実際王都で虎獣人に使った際は激しく動く奴相手に掠っただけでも奇跡だったらしい。
「言い換えれば的が大きければ大きい程威力が上げられるんだよね。」
「ドラゴン位大きいとかなり威力出せそうだよねぇ。絶対試さないけど。」
「一撃で絶命させないとこっちが全滅しちゃうからね。」
そのミハエルとフリッツの会話に出た「ドラゴン」の単語に
「え?ドラゴンとか居るの?」と、思わず尋ねると
「うん、確認されてるモノだと共和国にドラゴンが棲む山があるんだ。」
「そうそう、サンダードラゴンって言われてる個体だね。」
彼らS級チームでも到底適わないその強さは「神」に匹敵すると言う。
『ほう、「神」に匹敵するのか、それは会いに行かねばの』
馬車の屋根で寝ていたハズのアカツキ様が興味深そうにそう言った。
・・・・・俺は会いたくないですよ?
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