エピローグ「ビーストマスター」
「だから言っただろうが!あいつの行動は理解を超えるってな!?」
虎獣人が引き起こした騒動の直後、緊急会議が王都の冒険者ギルドで開催された。
その席上ではノルマールのギルドマスターが今までの鬱憤を晴らすべく吠えていた。
「登録初日に勝手にオーガ12匹倒してA級チーム救出したり、その帰りについでに『宝玉』10個拾ってきたり、他のテイマーの使い魔操って主人を襲わせたりとか、奴にとっちゃ全部「些事」なんだよ!見たろ?あの暴荒れっぷり!?」
それを正直に報告した俺に対しお前ら、『寝ぼけてるのか?』とか『真面目に仕事しろ!』とか『とうとうボケたか。』とか散々言ってくれたよな!と、今までの不満を目の前の出席者に全てぶちまけていた。
「カール!それこそ今は『些事』だろう!?今の問題はそこじゃない!」
「今後、奴の扱いをどうするかを確認するのが急務だ!」
あの圧倒的破壊力を個人で揮える人間の機嫌を損ねてはならない。特に領土問題を抱えて関係が最悪の帝国に迎えられたりしたら王国は数日で滅ぶ。
世間知らずなだけに帝国に簡単に騙される可能性は大いにあり得る。
『高待遇で王国の近衛隊に召し抱えては?』
『王を超える権勢を持ちかねん、無理だ。』
『国家に所属させるのはまずい、国家間のパワーバランスが崩壊する。』
『そうなると何処の国家にも所属しない建前の冒険者扱いが最善かもな。』
『ギルド内で本人の希望を全て聞き入れて好きにさせるのが良かろう?』
『下手に役職につけてストレスを感じさせるのもマズイぞ。』
『その所為で、髪が薄くなったとか逆恨みされたら最悪だ。』
『おい!髪の話はするな!』
『カール、君が一番付き合いが長いんだ、彼の面倒は君が見てくれ。』
『おい!付き合いったってまだ数日だぞ!』
『それでも完全に初対面で赤の他人の俺達よりはマシだろう?』
『お前ら、自分たちが無関係って言いたいだけだろうが!?』
マサキが冒険者として登録したノルマールのギルドに所属している現状、所属を勝手に変えたりして問題が起こっては不味いとの意見が出た時、当のギルドマスターは反論できずしぶしぶ自分の支部でマサキの面倒を見ることに同意した。
これ以降、関係者の間ではマサキを『アンタッチャブル(触るな危険)』と呼ぶことになった。
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王国での騒動が収まってノルマールの街へ戻って来たマサキは冒険者ギルドへ顔を出した、街から離れる時と同様に帰還した時も報告しなければならないからだ。
マサキがロビーに入るとそれまで談笑していた冒険者やカウンター内の職員たちの会話が一瞬止まったが、すぐに何事も無かったかのように再開すした。
マサキの後をてくてく歩いてついていく白い犬を皆見ない振りをしつつ見ている。
「マサキ様、お帰りなさいませ。マスターに伝えますので少々お待ちください。」
受付の職員はぎこちない笑みでそう言い残しマスターの部屋へ消え、戻って来た。
「マスターがお待ちです、こちらへどうぞ。」
職員に案内され部屋へ入るとマスターはソファに座っていた。
マスターはその両肘をテーブルに着き組んだ両掌の上に頭を乗せた状態、下を向いて思案にふけるような仕草のまま動かない。
『あ、かなり薄くなってるな・・・。」
マサキは真正面に見えた頭頂部を気の毒に思いながら対面のソファに座る。
職員は二人分のティーカップをそれぞれの前に置きそのまま傍らに控えた。
「先ほど戻ってきました。」
思案にふけるマスターに対し、報告するマサキ。
「ああ、王都では色々ご苦労だったな、マサキ。」
すっかり疲れた顔を上げてマスターはマサキを労う、正直マサキに対しては登録初日から振り回されっぱなしでつい辛辣な態度をとったのは不可抗力だと思っている。
他の支部や王国関係者からは『とにかく下手に出て関係改善を図れ。』と要請されているが、下手に出て媚びを売るような態度は逆に不信感を抱かれるかも知れない。
ここはギルドマスターの威厳を保ちつつ下手に出ず上手く収める事が出来れば、また王国関係者とギルドが彼を超危険人物として扱っている事を悟られない様にすれば、
『良い上司と部下』の関係に持ち込んで友好関係を築く事が出来れば・・・。
「まずは君の今回の働きに王国から報奨金金貨1000枚が贈られた。」
『金ならどうだ?』とテーブルに乗せられた革袋二つを見たマサキは無感動に
「あー、じゃあこれもギルドで預かっといて下さい。」
革袋に手も触れず傍らの職員に依頼した、そのそっけなさに
『そうか、こいつ僅か数日で金貨800枚以上稼いでいたな。』金はダメか。
「それから君は今後、新しく創設された『ビーストマスター』に就く事になる。」
これはS級とか関係なしの唯一無二の君専用の職となる為、今後は冒険者の規範として相応しい対応が求められる、その積りでな。とギルドマスターは付け加えた。
要するに頼むから大人しくしてくれという事だ。
「あ、はい、了解しました。」と、あっさり答えたマサキは別の事を考えていた。
『なんかポケ〇ンマスターみたいだな。アカツキ様もイーブ〇っぽいし。』
マサキは自分の考えが可笑しくなって小さく笑った。
『え?笑った?何の意味もない名誉職って見抜かれた!?』焦るマスター。
金も名誉も意味が無いなら、これならどうだ。
「ビーストマスターの君のスケジュール管理、健康管理も重要になってくる。」
「はぁ。」
「そこで有能な女性秘書を付ける事になった、希望するなら複数名用意する。」
「は?」
その言葉に驚いた傍らの女性職員はマスターの顔を冷たく見つめる、マスターはそれに気付きつつも『名誉と金が駄目ならこれしか無いんだよ!』と内心で叫ぶ。
「レオナ君やヴィルマ君なんかどうだ?気立ては良いしスタイルも良いぞ?」
『お前の趣味丸出しじゃないか糞親父!』
女性職員の軽蔑の眼差しを浴びながら、マスターはマサキの様子を伺う。
「スケジュール管理が必要になるほど忙しくなるんですか?」
マサキの問いにマスターは慌てる。
「いや、こちらからは一切干渉しない、自由に行動してくれて構わないぞ。」
「・・・それなら、必要ありません。」とのマサキの即答に
『え?まさか女じゃなくてそっちの方?』とマスターと女性職員は顔を見合わせる。
万策尽きたマスターは己の無力さを噛み締めながら
「それとこのギルドに限らず、各支部の施設を自由に使用可能だ。」
各支部に専用の部屋が用意され飲食全てが無料で使い放題だとの説明に
「あ、それは便利だ、ありがとうございます。」
今日一番の嬉しそうな反応に『え?そんなので良いの?』と驚くギルドマスター。
「この支部の君の部屋として3階の貴賓室を用意してある。見てみるかね?」
「あ、ありがとうございます。早速見たいです。」
マスターは嬉しそうなマサキを部屋に案内するよう女性職員に指示した。
部屋に向かうマサキを見送りながら、『奴との関係性は決して悪くない。』と、マスターは安堵した。『奴を上手く使えれば俺の立場は誰よりも上になる。』
更に関係性を深めて良い上司を演じてこの最強のカードを俺のモノに出来たなら。
そう考えていた所、マサキに続いた白い犬がこちらを振り向き目が合った瞬間、己の心を見透かされたように思え全身から冷や汗が噴き出した。
その直後、マスターの髪の毛の幾何かがまた犠牲となった。




