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八百万の神々と千年王国の竜  作者: 涼城 鈴那
最終章「闘神の顕現と究極の依り代」

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神々の息吹


「さぁ!ベッドとテーブル元に戻すよ、片付けたらさっさと寝て明日に備えるよ。」


家具が散乱した『ヴィルトカッツェ』の中、全員総出で後片付けに追われていた。

もう真夜中だし本格的に片付けるのは明日にして、寝れる場所だけ確保してさっさと寝てしまおうとのデルマからのお達しだ。


魔物の侵攻が始まって数時間、気が休まる暇は無いし、途中からは建屋を魔物に囲まれて生きた心地がしなかったのだ、気付けばみんなが疲れ切っていた。


「あー、今日は疲れたー!マサキ様来なかったら皆どうなってたんだか。」

「それにしてもマサキ様ってドラゴンまで使い魔にしちゃったんですね。」

「兄さん、どんどん手の届かないところに行っちゃったみたい。」


生きている実感を噛みしめながら、片付けをしているとどうしても話題はマサキの事になってしまう。初めて『ヴィルトカッツェ』に顔を出した時は「人の良さそうなあんちゃん」だったのにどうしてこうなった?と笑いが零れる。


「実は私、それ以前のマサキ様に会ってるんですよ?」


そう自慢げに話すのは、元シスター美女軍団の一人バーバラだ。何故かここではいつ頃にマサキと知り合ったかで微妙にマウントが取られたりしていた。『ヴィルトカッツェ』に顔を出す前ならナディアに次ぐ次席と成る。


「マサキ様がこの街についてすぐ、教団支部にお金を用立てに来られたんです。」


その時にマサキ様と会話をして、サインを貰ってお金を手渡したのが私です、と、非常に誇らしげに言うバーバラ。

『ちょっと申し訳なさそうに言うそのお姿が可愛くて、』と特別な表情が見れた事を勿体付けて饒舌に話す。皆、特に新参の元シスター達はこの上なく羨ましがる。


「でも、有名じゃない時の事、なんでそんなにはっきり覚えてるの?」

他の女子からやっかみ半分の突っ込みが入る、バーバラは自信たっぷりに


「その頃、教団本部から各支部にお達しが有ったんです、『マサキ』と言う人物が教団のカードを持って現れたら大至急連絡するように、って。」


バーバラのその発言に元シスター達は思い出す、確かにそんな伝達があったな、と。

バーバラも当時は『あ、この人がマサキか。』程度にしか思っていなかったが、本部に連絡してからの煩雑さで忘れられない出来事になったのだと言う。


「連絡してすぐ次の日には本部から凄く不愛想な男の人が来て、『奴は何処に居る?』って聞かれてちょっと怖かったのよね。」


その男は教団支部を拠点にマサキの事を調べ回っていたようだが、マサキがドラゴンの山から球根を大量に持って帰って以降、その姿を全く見なくなったと言う。


「教団からはこの事は他言無用って言われてたんだけど、もう時効よね?」




────────────────────


政樹は帝国の北東部「シンノウ州」に到達した。


死凶とやらに襲われている黒姫城が目的地だが、クラウディアが10歳の頃に過ごしたゴンドの街が進路上にあったので上空から高度を下げて様子を見た。


「強さこそ全て」の帝国はやはり他の国と違って余裕がある。ゴンドの街は剣術道場も多数ある為、剣の心得がある住人達の士気は高く、魔物も攻めあぐねている様だ。


それともう一つ、帝国では女神教が今一つ浸透していない為、いや伝統的に万物に神が宿ると言う考えが強い土地柄の為に一神教が普及し辛いと言う方が正しいか。

その為に常日頃から様々な神に祈りを捧げ、神々もそれなりの力を持つ為に、魔物の侵攻に対して神々の妨害が多少なりともある事が政樹にも理解できた。


具体的には魔物の侵攻を遅らせる為に地面はぬかるみ、川を渡ろうとすれば増水し、情報を伝達しようとすれば強風に遮られる。神々にとっては信仰するヒトが居なければ神としての体裁が保てない為、ヒトを守ろうとするのは道理であろう。


なにしろ「応竜」と言う竜族の盟主であっても、長い間に信仰されずにその力が失われる目前だったのだから。政樹はそれでもゴンドの街の周囲を一周して蒼月に魔物を攻撃させて街の負担を減らした。


街の住人がこちらを見上げて手を合わせているのが見えた。更に蒼月の力が満ちた様に感じる、というか蒼月の気力は「ツェントラーレ」「イグニス」と巡るにつれて、明らかに増加しているようだ。やはりこの世界は信仰が神の力になるのだ。


応竜、政樹はサクヤの住まう黒姫城に到着した。


────────────────────


黒姫城では虎に翼の生えたような『死凶』の魔物が飛行艇と戦っていたが、ここでも神の手助けがあった。魔物が空を舞えば突風に体勢を崩され、大地に倒れれば草木が絡みつき、飛行艇は互角以上の戦いをしていたが魔物の再生能力に手を焼いていた。


「くそ!幾ら撃ってもキリがない!いい加減にしろ!」

砲手を務めるヒュウガが死凶のしぶとさに弱音を吐きそうになったその時


「デアルヴァ!避けろ!」

「!この声はマサキか!?」


政樹は飛行艇の総舵手に指示を出し、デアルヴァはその声に即反応し飛行艇は一気に距離を取る。政樹は蒼月に死凶を討つよう指示を出し、そのまま自身は単身黒姫城のサクヤの居室のバルコニーへと降下した。


「え?マサキ様!?」

丁度そこにはイヅナを操り奮戦中だったサクヤが居た。外気温はかなり低いのだがサクヤはうっすらと汗をかき、かなり消耗しているのが見て取れた。


「マサキ様、夜中に女子の部屋に忍んで来られるとは夜這いで御座いますか?」

「全然忍んでないけどな!?軽口叩ける余裕はあるみたいだな?」


サクヤと政樹のやり取りの間に蒼月は、切り刻まれ瀕死となった死凶を上空へと放り上げ、他の神への影響が出ない様に虚空目掛けて魔力を開放し、死凶を文字通り蒸発させこの世から退場させていた。


「蒼月!そいつが片付いたら周囲の魔物も一掃しろ!」

政樹の指示で蒼月がイグニスでのサンダードラゴンと同じように咆哮する。


「クアァァァァァァァァァァァァァアァァァァァァァァ」

その指向性の高い殺傷能力のある咆哮は、周囲の魔物の脳を灼き、その心を破壊してたちまち魔物は沈黙した。辺りを静寂が支配したかと思えば、少し遅れて守備側の歓声に黒姫城は包まれた。


蒼月が政樹の元へと戻ってきた、つまり主塔のサクヤの居室のバルコニー前だ。


「竜!?は?何故こんな所に竜が!?マサキ様!?」

「あー、これは俺の使い魔みたいなモノなんで気にしないで?」


『使い魔!?』丁度バルコニーを覗き込む形となった蒼月にサクヤは困惑する。

蒼月の背後に飛行艇が近づいてきた、甲板にはフリッツとヒュウガが乗っている。


「マサキ!この竜どうしたんだい!?どうせ君が何かやらかしたんだろうけど!?」


流石にフリッツは政樹に対する解像度が高く、竜を見てもマサキが近くに居れば『彼の所為だ。』で納得する。場内でも「竜だ!」「竜が居るぞ!」の声がしているが、特に暴れもしないし魔物を蹴散らした事実に危険は無いと判断した様だ。


「じゃあ、俺は王都に戻る。後は十分気を付けてくれ!」

「あ、マサキ!君の剣の完成まで、もう少しかかるから出来たら持っていくよ!」

「解った!・・・・は?俺の剣?なんだそれ?」


今まで一度も剣を振った事の無い政樹はフリッツに「君の剣」と言われて困惑する。


剣なんか持っても邪神相手に効くとは思えない、現にアレックスの聖剣でさえ幾度となく斬りつけてようやく邪神の生命力を減らす事が出来た位で必殺の「必ず殺す」武器ではない。


「フリッツ!『俺の剣』なんかより『切り札』の方、頼むぞ!?」

「おいおい、マサキ!?その「剣」が「切り札」なんだってよ?」

政樹は混乱する、『俺の剣が切り札?俺の剣に世界の命運がかかってる?』無茶だ!


「マサキギツネ様より承っております、『炎帝朱雀』最強の神剣で御座います!」


サクヤがそう説明するが、いくら最強の神剣でも使う者が最低では話にならない。

何かの間違いでは・・・紅月様が言うのなら間違いは無いのか?なんかこう・・・切っ先からビームみたいなモノが出たりとか?勝手に飛んで攻撃するとか?


「仕上げにあと30分ほど掛かりそうです、出来次第お届けに参上したします。」

「うーん、俺の剣が切り札???・・・・とりあえず事情は解った。」

取敢えず時間がない。王都に戻らないと何時絶対防御魔法が消えるか解らないのだ。

ここはフリッツとサクヤに任せて、王都に戻って紅月様に丸投げするか。


「よし!蒼月!王都に戻るぞ!」

政樹は蒼月に指示を出し、蒼月はそれに答えて一声高く咆哮した。


「クアァァァァァァァァァァァァァアァァァァァァァァ」


其の途端に周囲の空気は一変した。応竜は自分が復活した事を周辺の神々に周知したようだ『我、邪神の討伐に向かわん、同胞よ懸命せよ!』そう伝えた蒼月は、政樹を其の掌に包み、王都目指して天空を駆けた。


シンノウ州は神々の加護により、魔物に対する抵抗の強い土地と化した。




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