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八百万の神々と千年王国の竜  作者: 涼城 鈴那
最終章「闘神の顕現と究極の依り代」

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四竜の長


『ヴィルトカッツェ』付近の建物の屋上から路上でもがき苦しむオークを見下ろす一人のローブ姿の人物が居た。


『あの様な方法でオークをあっさり撃退するとは、な。』

剣でも魔法でもなく、ただの農業用の殺虫剤。そんなものでオークの集団が無力化されようとは、その男の機転を褒めるべきか、オークの無能さを嘆くべきか。


『まぁ、その殺虫剤が無くなれば、奴らもマサキの大事なモノも終了だ。』


ローブの人物の眼前に魔法陣が浮かび上がる、その直後に大地に転がったオーク達に異変が生じた。激しく痛む眼球を保護する瞼を必死に閉じて涙を流しつつも、苦しみ叫びながらも、その場に起き上がったのだった。


「おい!こいつら立ち上がったぞ!?」

「立ち上がるってそれ所じゃないはずなのに・・・・!?」


オーク達は完全に視界を奪われた状態で手当たり次第に暴れ始めた。暴れる魔物に幾らトウガラシ液を掛けようとも元々の激痛に苦しむ奴らには効果がない。


そのうちの一匹が荷車を溶液の入った樽ごと破壊してしまい、冒険者達は迫り来るオークに対し有力な武器を失ってしまった。デルマはその光景に絶望する。


「ガイル!ドア開けて!表の先生たちを中に!!早く!!」

「そう言われてもな!テーブルががっちり組んでて・・・!!」

ガイルも焦るが、頑丈にしようとした事が裏目となり、一向に進まない。


「マサキ!早く・・・早く来て!」



────────────────────


同時刻、同盟国「ツェントラーレ」郊外


政樹は上空からツェントラーレの現状を確認した、激しい地揺れが起こってドワーフの集団が動けない中、デカブツの足元で白百合の姿があるのを発見した。


「スーフェイ!?・・・蒼月!あのデカブツに向かえ!!」

眼下のデカブツ目掛けて急降下する、その足元のスーフェイは此方に気付いたのかデカブツから距離を取ってこちらに向かって剣を構え警戒している。


「あ!?そうか、こんな竜が近づけば警戒もするか。蒼月下ろしてくれ!」


政樹は蒼月に言い、その手から離れスーフェイ目掛けて飛んだ。


「無事かスーフェイ!?下がってろ!蒼月、そいつを討て!」



────────────────────


「先生!養子縁組の手続きが終わったばかりなのに!!」


ニーナが叫ぶ。リンダ、アベルが顔を見合わせ、驚いたデルマはニーナに問う。


「先生、こんな時にその手続きに行ってたのかい!?」

「こんな時だからこそです!万が一の時にお互い身寄りがないままよりは、せめて義理でも親子として絆を繋いでおきたいからって!!・・・先生!」


冒険者とハンクは『ヴィルトカッツェ』内に入ろうとしていたが、増援のオークはもう50mと離れていない距離まで近づいており、このままでは『ヴィルトカッツェ』にまで被害が及ぶと悟り、悲壮な決意で覚悟を決めたハンクは言う。


「・・・ほんの2時間程度でしたが、君たちと親子になれてよかったです。もし生き残れたらしっかり勉強は続けるのですよ?それが後々役に立つのですから。」

「先生!?」


「今まで多くの子供達を見てきましたが、君達程聡明で優しい子供はいませんでした。教育したお父さんを誇りなさい。お父さんも貴方達を誇りに思うでしょう。」


ハンクは必死に強張る笑みを浮かべつつ我が子たちに最後の課題を出した。

『お父さんの様な立派な人になるんですよ・・・。』


リンダはハンクの笑みを受け大泣きしながら叫んだ。


「お父さーーーーーーん!行っちゃいやだーーーー!!」





───  その瞬間『ヴィルトカッツェ』付近から一切の騒音が消えた。



此方に駆け寄ってきていた増援のオークは勿論、激痛に苦しんでいたはずのオークですら苦痛を忘れたかのように、その場に固まって動かなくなっていた。


屋上のローブの男だけがその異変にいち早く気付き、空を見上げ驚愕していた。


「・・・これは召喚の魔法陣・・・見た事の無い式だが・・・これは一体?」


男が見上げる中、その中からゆっくりとその姿を現したのは、巨大な体躯に長い首と尻尾を持ち、巨大な翼に支えられた黒い身体、サンダードラゴンの姿だった。


「馬鹿な!?完全体の竜を召喚する等、生涯かけても不可能なはずだ!?」


ローブの男は召喚魔法の道理を無視した現象に我が目を疑い、上空を悠然と羽ばたき下界を見下ろす地上最強の竜族の姿から目が離せなくなっていた。



── 北門で戦い続けるメイも手を止め、空を見上げる。


「・・・黒竜サマ!?何故このような場所に?」



── 南側で魔物の侵入を防いでいたアキラも、まさかの出来事に驚愕していた。


「・・・サンダードラゴン?何故、人族と魔物の争いに介入されたのか?」



ローブの男もサンダードラゴンの介入に驚愕するが、自らの身体が異常とも言える震えに襲われている事に気付き、全てを察した。


「サンダードラゴンが怒っている!?その怒りが向かうのは我々だと!?」


サンダードラゴンの降臨にイグニスに雪崩れ込んだ魔物達は恐怖し、彫像と化したかのように動けなくなり、その逆鱗に触れぬよう呼吸すら殺し身を潜める。


── 完全体のサンダードラゴンの降臨にアキラは察した。


「まさか!リンダ様の身に危険が迫ったのか!?」

アキラは全く動かなくなった魔物を放り出し『ヴィルトカッツェ』へと走る。



────────────────────



天空からサンダードラゴンが下界を見渡し言う。


『小さき勇者が我を呼ばぬ故、勝手に来てやったのだ。覚悟せよ、愚か者ども!!』


「クォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ」サンダードラゴンが吠える。


その咆哮は小さき勇者に仇なす者にのみ向けられ、対象の悪意ある者達の脳を破壊しし、心臓を麻痺させ、オークやゴブリンと言った小物たちが忽ち屍となった。


イグニスの街中で辛うじて蠢く者は、オーガやトロールと言った大型の魔物と城壁を破壊していた死凶のみとなる。魔物の脅威が薄れた今、街の人々は街を救ったサンダードラゴンの姿を一目見ようと建屋から続々と路上へ移動した。


「あれがサンダードラゴン・・・本当に居たのか・・・。」

「竜族は人の諍いに干渉しないんじゃなかったのか?・・・」


サンダードラゴンを見上げ人々が口々に思いを吐き出す中、当の黒竜はリンダにだけ聞こえる様に言葉をかけていた。


『小さき勇者よ、お前がいつ我を呼ぶかと待っておったのだぞ?』

『ごめんなさい、ドラゴンさん。こんな事で呼んじゃいけないかと思って・・・。』


『危険が迫った時には構わず我を呼ぶが良い。これしき・・・・む?』


言いかけた途中で黒竜は遥かな空を見上げる、その方向は紅い月が輝くのみ・・・。

いや、何か強大な存在がこちらを目指して来るのを黒竜は感覚で理解した。


『馬鹿な!?あれは竜族の盟主、応竜!?いつの間に復活を!?』


サンダードラゴンは後方に飛んでその場を応竜に明け渡し、天空を雷光の速さで飛来した応竜は『ヴィルトカッツェ』上に舞い降りた。


「おい!ドラゴンがもう一匹来たぞ!!」

「まさかドラゴン同士で戦うんじゃないよな!?」

「折角、魔物が片付いたって言うのにドラゴン同士の戦いかよ!?」


人々が騒然とする中、応竜から一人の男が文字通り飛び降りてきた。


「デルマ!皆!無事か!?」


いきなり竜と共に現れたマサキにデルマと一同、ガイルと冒険者達も度肝を抜かれ返事をする事を忘れていた。『おい!デルマ!しっかりしろ!?』の声にようやく


「ちょっとアンタ!?その竜はなんなんだい!!??」

デルマが我に返って問うと、マサキはそれに構わず『ヴィルトカッツェ』の面々と建屋の無事を確認しつつ、『蒼月!向こうのデカブツを片付けろ!!』と指示を出す。


「ああ、あいつは俺の使い魔みたいなモノだ。皆、無事みたいだな?」


竜がマサキの言いつけ通りに巨大な魔物を一蹴するのを目で追いながら、人々は呆然とする。どうして何時もこの男は平然とこんな事が出来るのだろう・・・?


『貴公が応竜の支配者であられるか?』 マサキの頭の中に黒竜の声が届く。


『ああ、なんか俺の霊力?で復活したみたいなんでな。』

『応竜すら配下にされようとは、流石は我以上の加護を付与されたお方である。』

『・・・俺に付いてる加護って竜の加護より強かったのか?』

政樹は黒竜の言葉に思わず問い直した。


『今お持ちの『龍の血族』より更に強力な加護であられる、それがどういった加護なのかは存じませぬが・・・。』黒竜の説明に政樹は己に付いている加護がとんでもなく強力な物だと知り驚くが、今はそれが何かを調べる時間も余裕もない。

帝国、シンノウではサクヤ達に危険が迫っているのだ早くいかなければ。


『俺はすぐに別の街に向かう、この街と周辺の事を頼めるか?』

『貴公が留守の間、周辺の守護をお引き受けいたす。』

政樹が黒竜に周辺の守りを頼んでいた時に、マサキに声を掛ける者が現れた。


「マサキ様!今までの数々のご無礼、万死に値します!ご不興なればこの命すぐにでも差し出します!」気付くとアキラとメイが最敬礼で後ろに控えていた。


今まで散々馬鹿だ阿保だと上から目線で文句を言ってきていたアキラの、その神妙な姿を見て、政樹は可笑しくなり肩の力が抜けた。アキラはアキラでこの街の住人を守って戦い続けてくれたのだ。


「いや、アキラ、この街の為に戦ってくれてありがとうな、お前のお陰で人的被害はほとんど無かった様だ、本当に感謝してる。」


政樹の言葉にアキラの両目から涙が零れ落ちた、散々無礼を働いた自分に労いの言葉までかけて頂けるとは・・・。なんとお心の広いお方なのだろう。


「俺はシンノウに向かう、その間この街の事頼むぞ?」

「はい!お任せくださいマサキ様!」

政樹の言葉にアキラの表情が明るく輝く。命に代えてもこの街を守ろう、と。


「じゃあ、みんな。ちょっと行ってくる!」


そう政樹は言い残すと、再び応竜の手に包まれて帝国方面、北の空に向かって稲妻の速さで飛び立って行く。


『この街は「救国の英雄」に何度助けられたんだろう?』


英雄を見送る人々の中リンダとアベルが手を繋ぎ、背後のハンクが二人の肩を優しく包む。3人が本当の親子になるにはしばらく時間が必要だろう。

だが、大丈夫、「救国の英雄」が邪神を必ず倒し、100年にも渡る十分すぎるその時間を作ってくれるはずなのだ・・・。




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