救援到着
『ヴィルトカッツェ』の新建屋前にはオークと呼ばれ称される魔物が20匹程集まり、手にした武器で壁や扉を破壊するべく暴れていた。
その衝撃は建屋全体に振動として伝わるが、他の建物があっさり壊された様な被害には程遠かった。屋内ではドアの裏にテーブルや椅子でバリケードが構築されていた。
「ほら!窓んトコにもテーブル立てて固定して!早く!」
「解ってますって姐さん!こっちはもうすぐで終わります!」
デルマの指示にガイル達は必死でバリケードを気付く作業に専念する。
「でもアンタ!何でこの建物目指して逃げて来たんだい!?」
「そりゃマサキの旦那が此処を建設しようって時に、話題になったんだよ!普通の建設費の3倍以上かけて凄ぇ頑丈な仕様になってるってな!」
それを聞いたデルマたちは困惑した。この建屋、素人目にはそんな金がかかっているようには到底見えないからだ。近所の建屋と見た目はそう変わらない、と思う。
「あえて目立たない様にしてるが、防御力はそこらの要塞並みにあるんだぜ?」
発注の際に『とにかく丈夫に作ってくれ、金は幾らかかってもいいから』と、マサキの旦那が注文したって噂だ、それだけ大事にされてるんだよ?アンタらは、とガイルが言うとデルマたちは、自分達がどれだけマサキに庇護されていたのかを思い知る。
「・・・兄さんが居ない時でもウチらは守られているんですね。」
「まったく、マサキには感謝してもしきれないね・・・・・!?」
その時、今までにない程の大きな音と振動が建屋を襲った。
「なに!?今の音!?」
「拙いな、奴等攻城用の槌でも持ち出したか!?」
ガイルの顔色が変わる、いくら頑丈でも一方的に攻撃されていればいずれ破壊されるのは間違いない。なにしろ外は奴等しか居ないのだから。
2階、3階の窓から表の様子を伺うとオークの集団が大槌を手に壁面を、扉を殴打している光景が眼下にあった。上階にもその振動は伝わっており、荒事に慣れていない美女達は顔面蒼白となり、声を押し殺し泣き出す者が続出する。
「もし扉が破られたら、2階に上がって階段を封鎖するよ!準備いいかい!」
「おい!2階のテーブル、階段の脇に用意しとけよ!」
万一に備えてデルマがガイルと其の部下に指示を出した時、2階の外部の異変に気付いた女子の声が上がる。
「マム!向こうから冒険者の集団が来てくれてます。」
「!?ガイル!あんた此処を死守しときな!」
デルマは階段を駆け上がり2階の窓から身を乗り出すように外を確認する。
荷車を曳いた冒険者の集団がこちらに向かって来るのが見えた、しかしその人数は13人か?外の魔物は20匹、相手をするには分が悪すぎる・・・!?あの男は!?
「先生!?なんでハンク先生がついて来てるんだい!無茶だろ!?」
なんと冒険者に交じってリンダ達の叔父であるハンクがこちらに向かって来ていた。
「えー!?嘘!?先生なんでこんな所に!?」
「先生!危ないです!来ちゃダメです!!」
驚いたリンダとアベルも窓から身を乗り出し、ハンクに対し危険を訴えかける。
ハンクは寸鉄も帯びていない、冒険者に交じり荷車を押すその表情は蒼白だ。
魔物との距離は20mと無い、窓からニーナがハンクに向かって叫ぶ。
「先生、せっかく役所に手続きに行ってたのに戻って来るなんて!危険です!」
「もう手続きは済ませました!大丈夫です!」
ハンクはニーナに気づきと強張った笑みを浮かべ、冒険者に指示をした。
ニーナとハンクのやり取りに救援の存在に気付いたオークたちが、数頭建屋から離れ冒険者達の方へ押し寄せる、対する冒険者達は荷台から武器を取り出し、構えた。
「え?それって子供が使う水鉄砲!?なんでそんなものを!?」
「ちょっと!オーク相手にそんなの効くわけないだろう!?」
冒険者達は至って真剣に水鉄砲を構え、オーク目掛けて水を噴射する。
噴出した赤い水は向かって来るオークの頭部から顔面、全身を赤く染めた。其の途端に全てのオークが絶叫し、顔面を抑えて大地で転げまわり出した。
「ぎぃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁああ!!!」
「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁ!!」
仲間が悲鳴を上げ転がる姿に建屋を破壊しようとしていたオーク達も手を止め、ハンクたちに向かっていこうとするが、冒険者達から水を浴びせられ大地に転がる仲間たちと運命を同じくした。
「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁああぁ!!!」
「ぐあぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁ!!」
冒険者達は思いもよらぬ圧倒的なその戦果に半ば困惑している。
「先生!これって一体何なんですか!?雑貨屋から持ち出しましたけど?」
「殺虫剤に使われるトウガラシ溶液の原液です、本当は1000倍位に薄めて使うんですが。皮膚に付けば痛みが伴いますし、目に入れば失明の危険すらあります。」
あ!その手で顔とか触っちゃだめですよ!ハンクは冒険者達に注意を促す。
「リンダ、アベル、いいですか?知識と言うのは知っておいて無駄になると言う事は無いのです。学べる機会があれば知識を吸収しなさい。それは必ず君たちの招来に役に立つのですから。」
ハンクは2階のリンダとアベルに向かって優しく語りかけた。彼は決して強い男ではないが、その知識を生かして人々を危機から救う事に成功したのだ。
20匹全てのオークが大地に転がり危険が去ったかと思われたが、つかの間の平穏はすぐに崩れた。通りの向こうから新たな魔物達が30頭程押し寄せて来ていた。
「新手が来ました!あとはマサキさんが来るまで数十分間耐えましょう!」
ハンクの指揮の下、冒険者達はその効果が実証された強力な武器を手に、オークの増援を迎える為に『ヴィルトカッツェ』前に立ち塞がった。




