合成獣の再来
半蛇神は政樹達の所縁のある街に強力な魔物を送ったと言う。
スーフェイ、アキラ、メイの居るイグニスなら何とか持ち応えて呉れよう。
しかし、それ以外の街は対処が困難、いや不可能と言っても過言ではない。
今すぐにでも向かって対処しなければ街は壊滅だ。しかし、邪神をようやく倒した蒼月、白狐、アレックスの中から誰が1人欠けても、邪神より更に強力な半蛇神に対抗する事が出来なくなる。この王都が持ち堪えられなければ、全ては終わりだ。
他の街の状況すら確認できない、一体向こうはどうなっているのか?
政樹がそう考えた時、白狐が脳内に語りかけてきた。
『政樹よ、飯綱を飛ばせ、飯綱は千里を駆ける。』
千里を駆ける?以前確かめた時にはインカムの届く範囲位かと思っていたが。
あ、あの時はまだ「管狐」と認識していて「飯綱」と認識していなかったからその程度だったのか?何より紅月様が言うのだ、間違いはない。
『「シンノウ」「イグニス」「ツェントラーレ」に飛べ!』
政樹は「飯綱」に命じた。「桜」達が凄まじい速度で移動していくのが解った。
その間も半蛇神は此方への攻撃の手を緩めない、どうあっても向こうへ救援に行かせる気はないようだ。奴の言う通り時間が経つにつれこちらが不利になってしまう。
半蛇神は攻撃魔法を撃ち、その長大な蛇の尾を振り回しこちらに休む暇を与えない。
体力面でも連戦のこちらが不利だ。今までもそうだったが、邪神たちは此方が嫌がる手を打ってきている、確実に有利な状況でしか戦おうとしないのだ。
奴は確実に時間稼ぎをしている。奴が本気になれば王都程度壊滅させるのは容易いだろう。しかし奴は積極的にはそれをしない。街を人質に取ったつもりなのか?
あの王都の何処からでも見える王国の象徴たるマジックタワーなどは、もし破壊されれば王都の崩壊を印象付ける事となる。人々の心を折るのなら最初に攻撃されてもおかしくないのだが、タワー周辺に被害はほぼ無いと言って良い。
そう、ほぼ無傷なのだ。・・・何故?
政樹達は半蛇神の攻撃の流れ弾が街の方に行かない様な位置取りをしている。
半蛇神の攻撃が街に向かえばそれを防御するようにも動いている為、街に被害が少ないのは解る。しかしタワーには人が住んでいる訳でもないので、タワー方向の流れ弾は防御もせずに無視している。それなのにこの戦いの間で全くの無傷とは?
政樹はここでふと思い出す。
アレックスが勇者に覚醒する直前、邪神が魔法攻撃を放つ瞬間、その手をわずかに右側に逸らし、放たれた魔法がわずかに右に逸れタワーを掠めた事を。
手を逸らさなければ、魔法はマジックタワー直撃のコースだったはずなのだ。何故逸らした?別に邪神がタワーを気にする必要は全くないはずなのに。何故?
一つの可能性に思い当たった政樹は白狐に提案した。
『紅月様、一つ確かめたい事あるのですが?』
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『政樹よ、間違いない!奴は魔法攻撃をして来んようになったぞ!』
半蛇神との戦いの中である時から半蛇神は白狐に対し魔法を撃たなくなった。
いや、撃てなくなったと言う言う方が正しいか。白狐は政樹の提案で常に半蛇神とタワーとの間に入るよう位置取りをして来たのだが、それ以降白狐に対して魔法を使って来なくなったのだ。王宮の塔の方はお構いなしに吹き飛んでいる、いい気味だ。
『やっぱり、奴はタワーに攻撃できないんだ!?しかし何故?』
その理由と言うか事情までは解らないが、取敢えずタワー周辺は安全地帯だ。
教皇様もアリーシアも教団本部に居る限りは安全だ、あ、ついでにヴァルもな。
『邪神たちはタワーに攻撃できない』ここに何か糸口がありそうだ。
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王国領内、ファルネ村
街に移動する事を拒んだフィーネや村人たちが残るこの村を警護する為に、この村出身のフォルカーが今動ける数人の冒険者を引き連れて周囲の警戒に当たっていた。
村の裏の丘に建つ古い邸宅に村人たちは避難している。木造と煉瓦の簡素な造りの村の建屋と違い、石材と煉瓦をふんだんに使用した強固な造りの建屋は籠城にはおあつらえ向きだった。
アレックスが告白した意外な真実、フィーネの子供ハンクの父親はフォルカーの弟ブルーノであり、フォルカーにとってハンクは甥、フィーネは義妹になると言う事実。
我が身に代えてもこの二人を守ると言う事が彼の存在意義となっていた。
アレックスもフィーネも今までこの事実に苦しんでいたに違いない。しかしその苦しみをフォルカーには決して見せずに普段と変わりなく接してくれていたのだ。
『こんな馬鹿野郎なんかに気を使ってたなんて・・・。』
本来、アレックスやフィーネに合わせる顔など無い。どんなに詫びても詫び切れたものでもない。願わくばこの邪神との決戦においてアレックス達異常に苦しみながらフィーネ達を守り抜き、そのまま命が絶える事すら望んでいた。
『願わくば我に七難八苦を与え給え。』過去に実在した東邦の勇士の言葉として伝わる言葉だったか、フォルカーは今の心境をこの言葉に例えた。
「七難八苦を耐え抜き守り切る事こそが俺に出来るせめてもの償いだ。」
フォルカーがそう呟いた時、上空に黒い丸い闇がある事に気付いた。
『なんだ?あれは?』夜空よりひと際暗い、というか黒い穴があるように見えた。
その光景にフォルカーの記憶が蘇る、あれは王都に出現したモノと同じではないか?
そしてその穴から、何かが降下してきた。闇に紛れた黒い物体、いや生物の様だ。
さらに記憶が鮮明となり、あの日の出来事が昨日の事の様に思い出された。
フォルカーの前身から汗が噴き出す、『コイツは・・・まさか・・・!?』
フォルカーの目の前に現れたのは、かつて王都で暴れた黒いキマイラだった。
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『早速、女神様は俺の願いを叶えてくれたのか!?いつもはなかなか願いなんて叶わないのにな!!』フォルカーは眼前の黒いキマイラのヤギ頭の角が折れているのを確認し、あの時のキマイラと同一個体だと確信した。
邸宅前で一緒に警戒に当たっていた冒険者達は経験的にも実力的にもアレックス達と比ぶべくもない。眼前のキマイラに対しては足手まといに成り兼ねない。
「王都の時のキマイラだ!お前ら手を出すんじゃないぞ!」
「フォルカーさん!一人でやろうなんて無茶だ!援護します!」
冒険者達がフォルカーの周囲に集まり剣を構えるが、魔獣の姿に腰が引けている。
「邪魔だ!引っ込んでろ!俺にはコイツがある!」
フォルカーはそう言うと、盾役のお守りとして盾に忍ばせてある『獅子の魂』の封を解いた。これを使用した物は効果時間中に死ぬことはないが、痛みを緩和する事は出来ず、失神する事も許されず地獄の苦しみを味わう事になる呪いのアイテムだ。
「さぁ、我慢比べと洒落込もうじゃねぇか、こいよ!化け物!」
フォルカーは「獅子の魂」を発動させ、その身体が数秒間金色に発光した。
これ以降は失神する事すら出来ない地獄への扉が開く事となる。フォルカーと黒いキマイラ、どちらが先に痛みに耐えきれず根を上げるかの勝負が開始された。




