王都
「マサキ、一緒に王都へ行かないかい?」
いつもの酒場で夕食を摂っているとフリッツから王都行きを打診された。
なんでも邪神復活に備えた魔導士部隊結成の記念式典とやらが行われるらしい。
この式典は今代の邪神復活に対する初の具体的な対抗策の発表と言う面があり、王国内の要人も参加しての王国の対邪神戦への決意表明となるようだ。
そしてフリッツ達の昔の仲間がマジックアカデミアの教官として参加する為、その護衛兼見物に行くという事なのだが、その一行に同行しないかと誘われたのだ。
「昔の仲間で『飛翔』の当代一の使い手が居るから会ってみないかい?」
『飛翔』の当代一の使い手との言葉に心が大きく動いた俺は同行を申し出た。
自己流じゃあどうやっても上手く行くビジョンが見えなくて少し諦めかけていたから丁度渡りに船だ。
夕食後にフリッツと別れてギルドへ向かった。A級になった俺は街から離れる際には必ず報告しろとギルドマスターに口煩く言われてるからだ。
ギルドのカウンターに向かい受付嬢に王都へ行く旨を伝えると、受付嬢は慌ててギルドマスターの部屋へ行き、険しい顔のギルドマスターと共に戻って来た。
「マサキ、王都へ行くと聞いたが何の用で行くんだ?」
「フリッツに王都で行われる記念式典を見に行かないかって誘われたんです。」
「フリッツも王都へ行くのか?彼と一緒なら大丈夫か・・・?」
ギルドマスターのその言い方に少し引っかかった俺は問うてみた。
「フリッツもA級ですよね?王都へ向かう報告は受けてないんですか?」
「ああ、報告が必要なのは世間知らずの問題児のお前だけだ。他は知らん。」
世間知らずの問題児とはっきり言われてしまった。確かにこちらへ来て数か月しか経っていないし、冒険者ギルドの決まり事も知らずに勝手に行動したのは俺だから、なにも間違ってない。だけど、なんか悔しい。
「ああ、俺も記念式典には行く予定だからそのつもりでな。」
どのつもりかは解らないが一応返事はしておいた。王都での宿と三度の食事ははギルドの部屋を用意する、無料だから感謝しろよ、と言われて一瞬『ラッキー。』と思ったがこれって常時監視されるって事だよな?なんか扱い酷くない?
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現在俺はフリッツとアレックスと共に王都へ向かう馬車に揺られている。
もちろんアカツキ様も一緒だが神様は馬車の屋根に陣取っている、道中の土地神様の様子や動物たちの様子を視ているらしい。
昼食を取って出てきた為王都へは夕刻には到着するようだ、時間はある。
彼らにギルドマスターとのやり取りを愚痴っていたら二人から笑われた。
『そりゃそうだよ。君、ギルドに所属してから毎日やらかしてるからね。』
ああ見えてギルドマスターも凄い苦労してるんだよ、君のやらかし全てに王国から説明を求められても納得させられる説明が出来ない事に嫌味言われて最後は逆切れして
『そんなに言うなら直接奴に聴けよ!』
『野生の狼や他人の使い魔を簡単に操る上にオーガ12匹を虐殺する犬連れた奴に対峙したくない。』
『俺は毎日そんな奴を相手にしてるんだ!』
そう叫んで相手を黙らせたらしい。
「マスターここ数日で髪薄くなったんじゃないか?」
「あ、アレックスもそう思う?なんか顔色も悪くなってるよね?」
いやぁ、髪の毛は深刻だよねぇ。金銭的な損失とかは取り返せるけど髪はねぇ。
二人から笑顔が消えた事で俺にも事の深刻さが理解できた。マスターにそんなに迷惑をかけていたとは・・・。
「・・・錬金術とかで毛生え薬なんか作ってないのかな?」
そう二人に聞いたら、大元の元凶がそんなの差し出したら余計にキレるぞ、と大笑いされた。
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馬車が王都に着くと俺は一旦二人と別れることになった。
マスターから王都に着いたら必ずギルドに顔を出せと口煩く言われたからだ。
明日の記念式典の前にギルドで落ち合う約束をして、まずギルドへと向かう。
それにしても流石に王都は大きい、城塞都市と呼ぶに相応しい佇まいだ。
15mほどの高さの城壁と水路に囲まれた都市の中心には高さ40m以上の円柱状の塔を含む王城があり、その周囲に各種行政施設、貴族の館が並びその周りにも城壁と水堀があり市民の暮らす居住区や商業区とは区分けしてある。
各種ギルドは商業区にあり俺とアカツキ様は石畳の道を周りを見ながら歩く。
城塞の入り口は跳ね橋となっているせいか、野良犬や野良猫の姿は見えない。飼われている犬は居るようで飼い主と一緒にいるのは偶に見ることができる。そんな飼い犬たちもアカツキ様に気付くと敬意を表す仕草をしているように見える。
その代わりというか、鳩やツバメといった鳥関係はそこら中に姿が見える。流石に鳥類にとって城壁は何の障害にもならないのだろう。面白いのは飛んでいた鳥たちが途中でアカツキ様の目の前に降りてくると、一鳴き二鳴きしてまた飛んでいく事だ。
ファットラビットの様に挨拶をしていっていると言う事なのだろう。
ギルドに着いた。流石に王都のギルドだ規模が大きい、4階建てか。
王都滞在中の俺の軟禁場所だ、多種不安もあったが腹を括って入り口を潜った。
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中に入るとノルマールのギルドより広いロビーに大きなカウンターがあり、ノルマールのマスターのような人物がいた、というか本人だ。どうしても頭に目が行く。
決して少なくない人の中からマスターは俺を見つけると開口一番
「おお、来たか『百狼』待ってたぞ!」と殊更大きな声を上げた。
その瞬間ロビーがざわめく、俺は色んな意味で有名人になってしまったようだ。
皆に俺を覚えさせ、勝手な事をさせない様に監視させる意味合いもあるのだろう。
「お前に依頼が来ているらしい、ご指名だそうだ。」
いきなりそう言われ、カウンターへと連れていかれた。なんで俺なんだ?
依頼の内容は、王都で貴族の子供が誘拐され身代金を要求されているらしい。
それを明日の昼に指定の場所へ身内の人間ただ一人で持ってくるよう指示されているのだが、場所は見晴らしの良い草原で身を隠す物はなく、一人で行かなかった場合人質の無事は保証しないとも脅されているらしい。
ただし、一人で行って人質が無事戻ってくる保証は無く行った人間も危険である為、人選に難航していたところ、俺に白羽の矢が立ったそうだ。
なるほど、確かにまだ顔の割れてない俺ならそこらの一般人と変わらないし、アカツキ様さえいれば相手が何人いようと無問題だ。
問題といえば指定時間が記念式典の時間と被る為、式典参加が無理という事だ。
まぁそれも「飛翔」の第一人者に会うのが今回の目的なので無問題とも言える。
俺はこの依頼を受けた。というか、指名という事で受けざるを得なかった。
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そして記念式典開催中であり、身代金受け渡しの指定時間。
王都から馬車で1時間程の草原地帯、俺は何もない街道上で馬車から降りて少し離れた指定の場所で相手が現れるのを待っていた・・・指定時間過ぎたよな?
アカツキ様は念の為少し離れた場所で毛繕い中だ・・・のどかだ。
まだ、相手は来ない、と言うか見渡す限り誰も居ない。
たまに空を飛んでる鳥たちが毛繕い中の神様に挨拶をしに来る程度だ。
・・・・場所、間違えてないよな・・・・・。
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一方、王都では城塞内の闘技場で行われている記念式典の終盤を迎えていた。
約200m四方のアリーナは3階層の観覧席で囲われた闘技場の中に、周りに500人の王国騎士団員が配され、中央には約1000人の魔導士たちが集められていた。
観客席には王侯貴族をはじめ、各施設の長や冒険者が見守る中、来るべき邪神に対抗する魔導士部隊の結成と邪神の勢力に決して屈しない旨の宣言が行われた。
その模様を後方の観客席の一部で見守るアレックス、フリッツ、フォルカー、ミハエルの姿があった。アリーナ全体が拍手と歓声に彩られる中、フリッツがつぶやく。
「あー、マサキ間に合わなかったかぁ。」
「マサキはこういうの興味ないだろう?」
「彼、浮世離れしてるし、この演説聴けばある程度状況がわかるかなぁって。」
「あぁ、そういう事か。それフリッツが説明しろよ。」
「いや、アレックスが説明してもいいんだよ?」
お前ほど説明上手くないよ、とマサキの話題で盛り上がる中ミハエルが言う
「数少ない『飛翔』持ちで変わり者なのか、会ってみたいなぁ。」
「向こうは『飛翔』じゃなくて『浮遊』だって自虐してるけどな。」
相変わらずフォルカーは無言で競技場を眺めており、その異変に一番に気付く。
「・・・なんだ?あれは・・・?」
それは競技場の中央付近上空に現れた、小さな黒い円盤のようなもの。
それが徐々に大きくなっていく様にフリッツ達やその場の者も気付いた時、
その中空に空いた黒い穴から何かが抜け落ちてきた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
落下してきた物体に巻き込まれる者は居なかったものの現場は大混乱になった。
それは獅子の上半身に雌山羊の下半身、獅子と雄山羊の頭と蛇の尾からなる合成獣
「キマイラか!通常よりデカい!?」
フォルカーは無意識に辺りを見回しアレックスとお互い目が合うとキマイラ目掛けて疾走した。経験の浅い騎士団員や成りたての魔導士にどうこうできる相手ではない!
同時に駆け出したが軽装の分、先にアレックスが飛び出していく。
混乱した魔導士が魔法を打とうとするが『同士討ちする!魔法は控えて!』とのアリーシアの叫びに魔法は中断を余儀なくされる。騎士団も初めての相手に勝手が解らず混乱するも『邪魔だ!』のフォルカーの声に思いとどまり場を空ける。
キマイラに迫るアレックスにアリーシアの援護が飛ぶ。
『ファイアボール!』高温の炎に顔面を焼かれたキマイラが怯んだ瞬間、アレックスが雄山羊の顔面に愛用のグラディウスで斬り付ける。
雄山羊がアレックスをその角にかけようとするも、フォルカーの体重をかけた盾の一撃が獅子の頭を激しく打つ
『シールドバッシュ!』
それでもキマイラは軽くよろけただけで体制を立て直しフォルカーに迫る。
フォルカーの反対の側からはアレックスが魔獣の脇腹に剣の切っ先を突き立てる、しかし浅い!固い!アリーシアが近くの魔導士を次々に声をかける。
「あなた達、お名前と得意な攻撃魔法は?」
「はい!カルラ、炎魔法です。」
「エルマ、雷撃が得意です。」
「ローザ、氷魔法です。」
ミハエルが近くの騎士に声をかけ『これ、借りるよ。』とその両手剣を手に取り、そのまま『飛翔』で空高く飛ぶ。アリーナの観客は元S級パーティの対応を見守るしかなくその場から動けずにいた。
アレックスに蛇の尾が襲い掛かるもアリーシアの「ローザ!」の声に蛇の尾に氷魔法が直撃し大きく蛇が弾かれる。
「シールドバッシュ!!」フォルカーの盾に右前脚を激しく打たれ溜まらず体勢を崩された魔獣に「カルラ!」の声が飛び、その顔面が炎に包まれる。
フルメンバーが揃わないままでも、アリーシアの機転で魔導士を使って手数を増やし、息の合った攻撃で魔獣を圧倒していくS級チーム「天空の審判者」。
「おい!『パニッシャー』が空に居るぞ!」
「ま・・・まさか『神罰』(パニッシュ)がこの目で見れるのか?」
観覧席のギルドマスターは眼前の危機より『神罰』への好奇心が勝り呟く。
それはマスターだけでなく多くの冒険者が噂でしか聞いた事のないまだ見ぬ「最強技」への興味や憧れ、嫉妬などの入り混じった複雑な感情から来るものだった。
「いけるぞ!ミハエル『神罰』準備いいか!?」
「いつでもいいよ!調整お願い!アレックス!」
「フォルカー!行くぞ!」
「おう!来い!アレックス!」
アレックスが雄山羊の首元を斬り付ける、フォルカーも右手の剣を獅子の胴に叩きつけその眼前で魔獣を挑発してヘイトを自分に集中し、その攻撃を全て盾に受ける。
「行くぞ!『神罰』!」
中空のミハエルが両手剣を構え真下の魔獣へ加速していく。
「来た!あれが『審判者』の『神罰』か!」
その場の冒険者達の眼前に最強パーティーの最強技がお披露目された。
地上200m程から『飛翔』で速度を増していったミハエル自身と両手剣の質量が恐ろしい勢いで地上の魔獣へ向かい、地上20m程でミハエルは離脱、両手剣は勢いそのままに凄まじい音と共にキマイラの胴体を完全に貫き、その刀身が大地を穿ち地中に完全に埋まった。辺りには衝撃の激しさを物語るように土煙が立ち込める。
大地に崩れ落ちたキマイラはそのまま全身を痙攣させ瀕死の状態となり、『神罰』の凄まじい威力を目撃した観衆から大地が割れんばかりの歓声が轟いた。
ミハエルは小柄な密偵でしかないものの、『飛翔』を使いこなすことで『神罰』という高空からの質量兵器とも言える技を編み出し、『審判者』(パニッシャー)の二つ名で称賛される超S級の名声を手に入れた、ただそれも他メンバーの獲物の動きを止める役割が完璧にこなされてこそであり、彼ら全員がS級足りえる所以なのだ。
「うーん、マサキもこれが使える可能性あるんだよねぇ。」
フリッツは闘技場で瀕死のキマイラと大地に穿たれた破壊痕を見てつぶやく。
この現場はぜひ見てほしかったなぁ、彼は運が良いのか悪いのかどっちだろ?
フリッツがそう考えていた時、闘技場の右手の方から魔獣に対し魔法が放たれた。
「え?・・・回復魔法!?」
その魔法が魔獣に命中しその身体が白い光に包まれ、魔獣の傷が癒えていく。
その様子に人々は戦慄した。
「おい!キマイラが復活するぞ!」
完全に復活したキマイラは己が受けた屈辱を晴らすかのように怒りの咆哮を放つ。
先ほどまで己をいたぶった盾役を睨みつけるとその顔前に魔法陣が浮かび上がった。
「ファイアボール!」間一髪、魔獣の魔法が放たれる直前にアリーシアの魔法が魔獣を直撃する、『マズい!此奴怒り狂っている!』『魔法は撃たせるな!どこに撃っても被害が甚大だぞ!』闘技場は再びパニックに包まれた。
魔獣は再び暴れるが、此度は己を瀕死にした上空からの攻撃を警戒しており、『神罰』は通用しそうにない。『神罰』無しの分の悪い戦いが再開された。
フォルカーとアレックスの攻撃を受け、アリーシアと魔導士達の魔法を喰らいながらもしぶとく暴れるキマイラ、徐々に傷が増えていくものの何とか耐える。
逆にフォルカーとアレックスの動きが目に見えて悪くなる、たった二人で魔獣を相手にしている為、当然だ。こちらがあまり持ちそうにない。
疲れた体に鞭打ってなんとか攻撃を躱していたフォルカーだったが、雄山羊の角をへし折った際についに足がもつれ大地に倒れてしまう、仰向けの盾役に向けて獅子がその口を大きく開け狙いを定めた。
「このぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
その瞬間フォルカーが己の右手を獅子の口腔深くに突っ込んだ。獅子は苦しさから暴れるがフォルカーは更に右腕を奥に押し込み、甲冑の腕部分を獅子の口腔内に残したまま、腕を引き抜く。
そこへアリーシアの雷撃が獅子の口目掛けて放たれ、その身体の内部を雷撃で焼かれた魔獣のその心臓も、脈動とは明らかに異なる痙攣に見舞われた。
そして魔獣はその心臓と同じく痙攣し、再び大地に横たわった。
観衆が再び魔獣を倒した彼らに称賛の歓声を上げる中、再び回復魔法が放たれた。
フリッツとミハエルは見逃さず、ミハエルの投げたナイフが術者の肩に刺さる。
「アレックス!右手の5!黒いローブ!」
フリッツの叫びに反応したアレックスは振り向きざまに左肩にナイフを受けた黒いローブの人物に己の剣を投擲、剣は術者の腹に突き刺さり術者は派手に倒れる。
「こいつが元凶だったのか・・・・。」
魔獣共々大地に倒れた術者をアレックス達が囲む中、最後に回復魔法を受けていた魔獣は正気を取り戻したかのように、術者を放って元来た穴へ逃走した。
「どうやらキマイラもこいつに操られていたようだね」
フリッツの指示でアレックス達に回復魔法が施され、魔獣と対戦以前の体力を取り戻す。実際戦った時間は10分程度であったが、とてつもなく長い時間魔獣と戦い続けていたように感じられた。
先ほどから大地に倒れたままピクリとも動かない術者に不信を抱いたアレックスがその正体を探ろうと、そのフードに手をかけたその時、おもむろに術者の右手が動き腹に刺さった剣の柄にその手が伸びた。
「!?」
アレックスは咄嗟に剣をその腹から引き抜き術者の手を空振りさせて、彼から距離をとる。
「こいつ、まだ生きてるぞ!」
その言葉にその場の全員が術者から距離を取って遠巻きにした。
術者は何事も無かったかのようにその場に立ち上がり、周りの者が警戒しつつ見守る中、ローブに包まれたその身体が急激に膨れ上がり裂けたローブが足元へ落ちた。
その場に現れたのは黒い体に白い縞模様の、虎の頭部を持った獣人だった。




