最初の祝福
その頃、吟遊詩人アスコールは転移魔法を駆使して、各国の情報を収集していた。
情報収集と言っても転移魔法で移動できる場所も決まっているので、以前政樹達の二重生活で拠点として登録した、帝国「オースタンデル」、共和国「イグニス」、同盟国「ツェントラーレ」、王国「王都」の4か所を行き来していた。
この内、主戦場の王都以外では「オースタンデル」は州都で規模も大きく人口も多い為、魔物への対処はかなり余裕がある。「イグニス」も人狼二人とグレートウルフの戦力がモノを言い、3国の中では鉄壁とも言える防御を誇っている。
問題は同盟国「ツェントラーレ」で、人口の3割程度が新領地の「アウフラーゲン山」へと移住しているうえ「近衛騎士団」と義勇兵が王都に出兵中。そして街の周囲に森林等魔物の侵攻を防ぐ障害物もない為、かなりの苦戦を強いられている。
「ツェントラーレ」の救援にアキラかメイのどちらかでも回れたらと考えたアスコールは、「イグニス」へ状況を確認に戻ってきた。
彼は町全体を見て回り、やはりこの街はかなり余裕があるのを確信した。ただ、ここからアキラとメイのどちらかが抜けると「ツェントラーレ」程ではないが、厳しい状況になりかねない事も理解した。
どうしたものかと考えつつアスコールは「ヴィルトカッツェ』へとやってきた。
マサキからは『ヴィルトカッツェ』の様子を時々見に行くよう言われている。
「もし皆が不安がっているようだったら、景気の良い曲でも聞かせてやってくれ。もちろん俺の歌以外でな?」
と依頼されてはいるのだが、彼女らからのリクエストはマサキの歌ばかりである。
大体、こんな危機的状況の中で人が求めると言ったら『救世主』の歌だろうに、マサキさんは自分の本当の価値を軽く考えすぎてるんだよなぁ・・・。
「アスコール、他の街の様子はどう?」
考え事をしていた為、スーフェイが表で待機していることに気付くのが遅れた。
「あ、スーさん、この街はかなり余裕ありますね、でも他国に応援を回せる程の余裕まではなさそうですが・・・。」
アスコールの物言いに引っ掛かるものを感じたスーフェイは、状況を詳しく尋ねた。
アスコールは現状、「ツェントラーレ」の情勢が厳しい事、この街は3国で一番安定している事を説明した、やはり山の魔物が降りてこないと言うのも大きいのだろう。
アスコールから「ツェントラーレ」の苦境を聞いたスーフェイは少し考え、言う
「アスコール、私を『ツェントラーレ』に連れてって!」
「え!?それは駄目ですよ!もしスーさんの身に何かあったら・・・」
「エヴァ殿下は自国を危険に晒してもマサキの為に戦おうとしてるの!『ツェントラーレ』が壊滅したら私もマサキも殿下に合わせる顔が無いわ!」
それにあの町には私もマサキも世話になった人達が大勢居る!その人達を見殺しにする事なんて出来ない!私なら大丈夫!普通の魔物程度何百匹居たってこの刀があれば問題ない!と腰に佩いた「千鳥」を指し示し、アスコールに迫る。
「ほら、この刀だって、千匹だって問題ないって言ってるわ!」
準備してくるからちょっと待ってと言いスーフェイは店内に入った。
「マム!私、『ツェントラーレ』に行ってくる!あとはお願い。」
そう言いつつ王女からの婚礼祝い「カーサ・ブランカ」を身に纏うスーフェイ。
『動き易い・・・まさに名工の逸品ね。』以前使っていた「氷の女王」の装備と比べるべくもなく、同系色ではあるが身近にあるものでそろえたモノと違い、完全に専用装備として誂えられている為、違和感は全く無い。
「スー、その姿マサキが見たら絶対惚れ直すよ、絶対帰って来るんだよ?」
「姉さん、凄くきれいです。ウェディングドレスみたい・・・。」
「スー姉さん、帰ってきたらそのまま披露宴ですね、準備しておきます。」
女性陣に見送られながらスーフェイはアスコールの待つ表へ出る。
『殿下が大切な物の為に命がけで戦うのなら、私だって大切な物の為に戦う。』
スーフェイの大切な物、それはこの街、この『ヴィルトカッツェ』、それとマサキ、そして新たに「同じ男を愛した女同士の友情」が加わった瞬間だった。
────────────────────
女神教教皇アンネマリーは眼前で繰り広げられる邪神とアレックス達の戦いを教団本部のバルコニーから見守っていた。遂に最後の戦いが始まったのだ。
「教皇猊下、ここは危のう御座います、奥へお下がりください。」
「いえ、邪神の攻撃が当たれば何処に居ても結果は同じです。ならば、その結末をこの目で見届けたいのです。それに女神さまのご加護もありましょう、もし私が邪神の攻撃で死ねば、それは私の信心が足りなかっただけの事です。」
アンネマリーは周囲の者から危険だと諭されても、決してここを動こうとはしなかった。『女神様が護ってくれる』と言われては周囲にはどうする事も出来ない。
『危険だ』と言う事は『女神様の加護などない』と言うに等しい行為だからだ。
『マサキ様は女神様のお声が聞こえるお方。女神様の加護があるとすれば、あの方は決して死なないでしょう。アレク兄様は私が教皇になって最初に祝福をしたお方。
もし、ここで果てる様な事があれば、私の信心が足りない所為だ・・・。』
アンネマリーは自分の未熟さの所為でアレックスが女神の加護を受けられず、この場で果てる位なら、それをこの目で見る前に自分がこの世から消えてしまいたいとも思い、覚悟してこの場に立っているのだった。
『マサキ様が女神様のお声を聴いた事実を知ってから、それまでの私の信心に自信が持てなくなったけど、教皇に選ばれた直後の女神様に対する、曇りなく、純粋で、純真だったあの思いは今までで一番強かったはず・・・。』
「女神様、どうか邪神に立ち向かう勇者たちにお力をお与えください。」
アンネマリーは9年前のアレックスへの最初の祝福に劣らぬ思いで、邪神との戦いに挑む者たちへと心からの祝福を贈った。
────────────────────
眼前で邪神と政樹達の戦いが繰り広げられている中、城壁上からの邪神への攻撃はほとんど意味がないと悟った魔導士達。ここでは逆に政樹達への負担となると判断し、眼下の魔物への攻撃と、騎士団員達へのサポートの為に街中へ降りる決断をした。
街中には同盟国の飛行艇が数隻降り立ち、王国騎士団員に武器を与えている様子が見て取れる。どうやらフリッツの説得が成功したようだ、ヴァルは胸をなでおろす。
騎士団員に武器が渡れば王都内の魔物は減るだろう、一息ついたヴァルは教団本部にふと目をやった。
「アン!?何をしているんだ!?あんなところに立ってるなんて!?」
ヴァルは教団本部のバルコニーに立つ教皇アンネマリーの姿を発見した。街中に侵入した魔物達から襲われる可能性は低いだろうが、邪神の攻撃だと一溜りもない。
ヴァルは思わず教団本部へと駆けだした。アリーシアもそれに気づく
「大司教様!どちらへ行かれるのです!?お一人では危険です!」
彼女もヴァルの後を追いかけつつ思う『アレックスの言ってた大司教様のお守りってこういう意味だったのね!?』全く後先考えないで迷惑かけるんだから!?
わき道から出てきた一匹の魔物に向かってアリーシアが魔法を叩きこんで排除する。
『魔物は減ってるけど、全滅ってわけじゃないのに!もう!』
「アンが!教皇があんな所にいて危険なんだ!」
「まぁ!教皇様!どうしてあんな所で戦いをご覧になってらっしゃるの?」
「アレク兄さんが心配なんだろうけど、無茶過ぎる!」
確かに教皇はバルコニーに立ち、この戦いに祈りを捧げているように見える。
魔物のいなくなった通りを掛け続け、もうすぐ本部に就こうとする頃
「周りの人はどうされたのでしょう?お諫めしないのですか?」
「アンは一度言い出すと聞かないからね!僕が説得する!」
「まぁ、大司教様は信頼されておられるんですね。」
「・・・いや・・・僕の言う事も。聞かないかも・・・」
急に目に見えて走る速度が落ちるヴァルをアリーシアが励ます
「心から心配してるんだとお伝えすればきっとお聞きになります!大丈夫です!」
「あ・・・ああ!そうだね!きっと聞き入れてくれるだろう!」
教団本部の前にもはぐれた魔物が2匹いたが、アリーシアが排除してヴァルと二人で教団本部内へと駆けこんだ。




