モモタロー
マサキは紅月の言葉通り「蒼月」の元へと飛んだ時に、「違和感」、「既視感」を覚えた。それは最近「飛翔」で空を舞う時に使っていた鞭を使わずに、自由に空を駆ける事が出来る事実だった。
『自身の魔力の放出が少ない為に「飛翔」の速度が出ない。』
マジックアカデミアで魔法の適性を調べて貰った時に受けた説明だ。
それが実際は、紅月様を通じて「霊力」が「応竜」に送られていた為、「飛翔」に回せるリソースが少なく速度が出せなかったのだ。しかし、今は自在に空を駆ける事が出来る、それを「違和感」と感じた。
「既視感」は、あのドラゴンの山で翼竜人と戦った時、風の巨大結晶に力を貰い、その力で圧倒的な速度で自在に空を舞った時の感覚の事だ。今も同等に自在に飛べるし、あの時と同じく邪神に対しても恐怖感を感じなくなっている。
翼竜人に「翼で羽ばたかないと飛べない癖に偉そうにするな!」そう感じたように、邪神に対しても「この世界の人に迷惑掛けてんじゃねえ!」位に思っている。
これも俺に付与された「加護」の所為なのだろうか?だとしたら、一体何の「加護」が付いていると言うのだろうか?
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夜空で交わされる魔法の煌きと、発動の音が響く度に子供達の騒ぎ声が部屋に木霊していたが、空にドラゴンが現れた時は大歓声が上がった。
「すげぇぇぇぇぇ!ドラゴンだ!」
「ドラゴンって本当に居たんだ!」
「ドラゴンが邪神と戦ってる!?俺達を守ってくれてるんだ!」
伝説の存在と思っていたドラゴンと邪神の戦いに子供達は興奮する、何と言っても互角以上に戦っているように見える。何という強力な援軍が現れたのか、と。
「あ!ワンちゃんも空飛んでる!うわ!魔法使ってる!?」
「剣で戦ってる人もいる!凄い!ていうか先生も飛んでる!?凄い先生!!」
「え?あのドラゴン、先生の言う通りに動いているんじゃない!?」
確かに、政樹が指さす方向にドラゴンが攻撃しているように見える。
「先生!いくらビーストマスターつってもドラゴン操るなんてマジかよ!?」
「凄い!ドラゴンまで先生の思い通りに扱えるなんて!」
政樹の操る「蒼月」と白狐「紅月」、それとアレックスが空を舞い邪神と戦う光景に歓声を上げる子供達だったが、それを見ていたカチュア一人が気づいた。
「あ!先生って・・・まさか?いや・・・絶対そうだ!」
カチュアが確信して叫ぶ。
「先生ってモモタローだったんだよ!」
カチュアの叫びに子供達は驚愕する、先生が話してくれた「おはなし」の主役「モモタロー」の事か?確かに不思議な力を持つ男が世界を救う話だった。
山から現れた一人の男が母子の家に訪れて村を救い、悪魔に苦しむ人々を助ける為に旅立ち、狼と、戦士と、ドラゴンを仲間にして悪魔たちを倒す。最後はドラゴンの背に乗って悪魔の城へ乗り込み悪魔の親玉を滅ぼし、財宝を手土産に村に帰ってくる内容だった。
政樹の語った物語と、政樹が進んできた結果が完全に一致する事に子供達も気付く。
「そうだ!先生の言った通りだ!山から来てカチュアの家に住んでたし・・・」
「村の作物を立派になるようにして村を助けてくれたよね!?」
「村を襲った盗賊団を蹴散らして邪神を倒すって旅立ったし!」
「狼と戦士と、ドラゴンを仲間にして邪神と戦ってるんだ!俺達の為に!!」
やっぱり先生って普通の人じゃないんだ!女神さまの声が聞けて、世界中の人から英雄って呼ばれてるのは「モモタロー」だからだったんだ!!
この瞬間、子供達に「先生」が約束した「お前たちの未来を守る」が確定となった。
何と言っても「モモタロー」が予言ともいえる筋書き通りに活躍して、邪神を倒すと言う結末が目前に迫っているのだ。
「がんばれ!『モモタロー」!!」
「そんな邪神なんかやっつけちまえ!『モモタロー』!!」
「いっけぇーー!『モモタロー』先生!!」
邪神との戦いで絶望に沈む王都の中にあって、この館の一室では歓喜の声が響き渡っていた。騒ぎを聞きつけて何事かと村の人々が子供達の様子を見に来た。
「どうしたんだ?そんなに嬉しそうにするなんて?」
「邪神が暴れてて気が気じゃないって言うのに、アンタらは何してんだい?」
部屋に入ってきた大人たちに子供達は嬉しそうに応える。
「先生が『モモタロー』だったんだよ!邪神なんか相手じゃないぜ!」
「先生がドラゴンを操ってるの!私たちの未来を守って戦ってるの!」
「先生、今まで嘘なんかついたことないから、全部本当なの!」
大人たちも子供と一緒に政樹がドラゴンを操る様子をその目で確かめる。
「マサキ先生、あなたという人は一体何者なんじゃ?」
「本当に先生が邪神を懲らしめておられるとは・・・・。」
村を救い、「英雄」と呼ばれ、「女神の御使い」と称えられた男が、今まさに邪神を封印しようと戦っている。気付けば大人達も子供達と一緒に政樹に声援を送っていた。
やがてこの歓喜の声は王都中へと広がっていくこととなる。
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王都上空では「竜の加護」を持つ「ドラグーン」アレックス、この世界最強の伝説の神獣「応竜」「蒼月」、八百万の神々の世界の最強格の「九尾の狐」「紅月」、彼らの攻撃に防戦一方になる邪神の姿があった。
客観的にみると政樹達が圧倒しているように見えるが、当の本人たちの内心には焦りがあった。邪神の体を幾ら破壊しても、すぐに再生してしまい一向に弱る気配が認められないのだ。
「コイツ、全然倒れる気配がないぞ!?効いていないのか!?」
「相当削ってるはずなのに、片っ端から再生してしまっている!」
困惑するアレックスと政樹に対し、冷静に状況を分析していた白狐は呟く。
『・・・勇者とドラグーンの同時攻撃にこそ意味があるのやもしれぬな。』
過去の邪神戦では勇者とドラグーンの二人で邪神を弱らせ再封印する事が出来ていた。現在は火力に関して言えば勇者よりも「応竜」の攻撃の方が高い可能性もあるが、ドラグーンと「応竜」の攻撃は双方とも「竜」、同じ属性だ。
ここは「竜」の属性とは別に「勇者」の属性の攻撃が必要なのではないか?
となると、勇者の覚醒が無ければ苦しい戦いになると言う事だ。
政樹は王宮のバルコニーのバルドリックを確認する。
相変わらず、周囲に暴言を吐きまくって委縮させている、奴に王族の品性なんて期待するだけ無駄か?どう見ても勇者に成れそうにない。
政樹達が邪神に手古摺弟る間に、王都の南門と西の港湾部で事態が動いた。
南門では、破壊された跳ね橋跡から水堀を這い上がった魔物達が、門の内側に積まれた障害物を破壊して王都内へとなだれ込んできた。
「くそ!奴ら遂に登ってきやがったか!総員、迎撃に当たれ!」
ブルーノの号令に近衛騎士団員が魔物の前に立ち塞がる。しかし、その数は余りに多く、碌に研げていない剣では致命傷は容易に与えられず、ほぼ殴打にしかならない。
一方魔物は炎の中でも恐れず侵攻する為、殴打された程度では全くひるまず、「アレス-シュナイデン」を振るうブルーノが孤軍奮闘するが相手は多数、撃ち漏らした魔物は王都中央部を目指し、南門から真っすぐ王宮に続く大通りを侵攻していく。
西の港湾部からも魔物が上陸を続けていた。半魚人の様な姿の魔物や、甲殻類の様な生物も海から上がってくる、さらに海中からの海水の放出もその範囲を広げており、感電を恐れる騎士団員達は足を踏み入れる事が出来ず、魔物の上陸を止める術がなかった。
「くそ!奴の電撃さえなければこの程度の奴ら・・・!」
海からその長い首を擡げ、隙あらば電撃を見舞おうとするデンキウナギの様な魔物がいつの間にかその数を3匹にまで増やしていた。




