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八百万の神々と千年王国の竜  作者: 涼城 鈴那
最終章「闘神の顕現と究極の依り代」

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202/215

銘『カーサ・ブランカ』百合の女王


ツヴェルグ同盟国、首都ツェントラーレ、飛行艇発着場。


「救国の英雄」より受けた数え切れぬ多大な恩を僅かでも返すべく、エヴァルトラウティ王女率いる近衛騎士団と腕自慢の義勇兵の援軍を乗せた7隻の飛行艇が今発進しようとしていた。


その周囲には街の守備に残る完全武装した兵士達の見送りの姿があった。


「わし等の分までにマサキの元で働いてくれよ!」

「魔物なんぞにマサキの故郷の人々に指一本触れさせるんじゃないぞ!」

「わしらの家宝の武具、しっかり届けてくれよな!」


皆、マサキと共に戦いたいと希望者が殺到したが、さらに重要な街の守備と言う任務がある為、誰一人文句を言わず与えられた任務に就く事に同意した。


「マサキが守ってくれた街だ、必ず守り抜いてくれよな!」

「帰ってきたらまたマサキと大宴会じゃ!その準備も頼むぞ!」


出陣する者、残る者、お互いがお互いの健闘を祈り、必ず勝利する事を誓う。



「これより王国で人質となっている「救国の英雄」マサキ様の故郷の人々を救うべく船団、出陣する!旗艦セイヴァー・マサキ・イヅナ号に続け!!」

 

エヴァルトラウティ王女の号令の下、旗艦「セイヴァー・マサキ・イヅナ号」に続き6番艦までが回転翼を始動させ、上空へと飛び立って行った。


そして7番艦のみ一隻は王国方面ではなく、北のイグニスの街へ進路をとった。


────────────────────


エヴァルトラウティ王女は旗艦セイヴァー・マサキ・イヅナ号の甲板上でその赤い髪を風になびかせながら、これより向かう邪神との戦闘に思いを馳せる。


『今回の邪神との戦いには。勇者とドラグーンに加え、あのお方が参戦なされる。彼のお方は母なる大地が揺れると言う天変地異の最中でも、全く恐れず使徒に戦いを挑んだ豪胆なお方じゃ。邪神など恐れはすまい。』


『だがしかし、その豪胆さ故に我が身を犠牲にしてでも邪神と刺し違えよう等とお考えになるやも知れぬ。それだけは絶対にあってはならぬ、そうは成らぬよう我らで彼のお方の負担を減らさねば・・・・たとえこの身に代えても!』


今世では己の努力不足で結ばれなんだが、このまま無様に生きていずれ彼のお方に忘れ去られるのは辛い。ならば、彼のお方の為に我が命を差し出し御守りする事でそのお心の中に一生、今の美しい姿の想い出のまま残るのも一興!


エヴァルトラウティ王女のその考えは、このまま年を取り若さも美しさも失って老いさらばえるよりは、と、遥かに美しく甘美な誘惑となって心に刻まれた。



────────────────────


帝国タズィーム州、マッツーラ。


城壁の外は森林の奥から湧いてきた魔物で溢れていた。元来、帝国民は「力こそ全て」の考えが浸透しており、日頃から老若男女を問わず鍛錬を繰り返す者たちが多く、戦力的には4か国の中で突出している。


その為、普段なら城外の魔物程度の数なら何と言う事のない状況なのだが、今回は少々事情が違っていた。少し前に政変が起こりこの州は前党首「サナダ家」の生き残りである姫が継ぐ事になっていた。だが諸事情の為に未だ姫をお迎え出来ていない。


それがつい先日、姫の情報について急展開を迎えた。


その情報は、「救国の英雄」マサキの一行の頭脳フリッツから齎されたもので、王国近郊の村に姫自らの意思で滞在しており、このままでは邪神戦の戦闘に巻き込まれかねない為、救援に向かうよう勧められたのだ。


この情報に狂喜乱舞したユーキ・オーガが巨大船の使用許可を取る為、万が一許可が出なくても無視して出航するつもりで帝都に向かったのだが、皇弟カズサが即断即決し、帝国の総意として王国に、マサキに救援を送る事となった。


カズサが6年前に計画した「王国侵攻計画」がそのまま流用可能な事を皇帝に力説し、神獣と交わした『マサキと共に進む』の約定を果たす絶好の時だと皇弟自らが巨大船を指揮する事となった。


ユーキ達は先兵として州兵2000人を揚陸船団で王国に送り込む事とし、現在彼は王国を目指し西の海の上にいる。・・・その分、守備隊員が少ない状況となっていた。



────────────────────


アイントラハト共和国、イグニスの街。


紅い月明かりの元、城壁の外には多くの魔物が押し寄せていた。

ただ、それらの魔物はサンダードラゴンの棲まう山からは降りてきていない。

ドラゴンの山の魔物達はドラゴンの監視下にあり、邪神の召集に応える者など居ないようだった。


そして街の周囲には人狼アキラ率いるグレートウルフの群れが魔物達の行く手を阻んでいた。一頭で大型の熊をも倒すと言われているグレートウルフにとって、侵攻してくるゴブリンやオークと言った魔物は敵ではなかった。


ただ、あまりにもその数が多く、全ての魔物を防ぎ切るには至っていない。グレートウルフの防衛網を潜ったゴブリン、オーク等や、稀に混ざるオーガ、トロールと言った大型の魔物を相手に、南側の城壁前で一人の男が無双していた。


人狼アキラ、通常でも常人を遥かに凌ぐパワーとスピードを誇るが、今宵は満月。


人狼にとってその能力が最大限に発揮される夜であり、彼の眷属達の最高神「九尾の狐」、「紅月」が遥かな天空より彼の戦いぶりを見ているとあっては、一切の手加減をする気は毛頭なく、大型の魔物も一撃の下にに葬り去っていた。


『志尊のお方の命とあれば、この身に代えてもこの街は守り抜く!』


街を挟んで反対の北の城門側には、こちらも人狼メイが絶賛無双中である。


『あー!お腹すいた!さっさと片付けてポテトお腹一杯食べたいね!』


つまり、南北方面は魔物の接近がほぼ不可能であり、東西方面から襲来する魔物に関しても、アキラとメイがかなりの広範囲をカバーしている為、城壁に取りつく魔物は極端に少ない。東西方面の門は街の衛兵と冒険者たちとで防御していた。


「やっとマサキ兄さんの依頼を果たせるぜ!幾らでもかかって来いや!」

「ああ!金貨100枚の大仕事だからな、イグニスには絶対近づけさせねえ!」

「兄さんには男にして貰った恩もある!今こそ、その男を見せる時だ!」


城門に集まった冒険者たちは気勢を上げた。


小さな女の子を助ける為に夜のドラゴンの山に同行してくれと、女達が伸ばした救いを求める手を取れず女のすすり泣きを聞くしかなかったあの時。

この場を消え去りたいと思っていた時に現れた「救いの神」、マサキは事情を知るや冒険者達に任務を与え、自らはドラゴンの山へ一人で駆けだし、後を追いすがる「氷の女王」と共に一人の少女とこの街とを同時に救ってしまったのだ。


あんな「英雄」の真似は出来ないが、この程度の魔物達からこの街を守る事など、思いを同じくする仲間たちがいればどうと言う事はない!


3国の中で戦力的に一番見劣りする共和国内にあって、イグニスの街の守りは鉄壁と言えるほどに機能していた。


────────────────────


『ヴィルトカッツェ』前、愛刀「千鳥」を腰に佩いたスーフェイが居た。


彼女はマサキの帰ってくるこの街を自らの手で護ろうと城外へ行くつもりであったが、街の衛兵や冒険者達から彼女に万が一の事があれば、街は無事でも俺達の負けだと力説され、この場所での待機となった。


街の周囲は魔物で溢れていると言うのに、想像していたよりも騒がしく感じない。

武器が交わされる音や、魔物の断末魔は聞こえるが、人の悲鳴や怒号がほとんど聞こえて来ないからだろう、戦いは優勢に進んでいると言う事なのだ。


この状態が続くのなら、魔物の街への侵入は無いのかもしれない。

色々とアドバイスを呉れ、危険な時は教えてくれる愛刀が大人しいのがその証拠なのだろう。しかし、油断はしない、マサキの留守は私が守らなければならない。


その時、「千鳥」が囁いた、『上だ』と。

スーフェイは紅い月の登る空を見つめた、その月から何かが降りてくるのが見える。


「飛行艇?マサキ?・・・いや違う。」

飛行艇はそのままゆっくりと「ヴィルトカッツェ』前の大通りに器用に着陸した。


────────────────────


「お久し振りで御座います、スー様。」


以前、ツェントラーレの街中で王女に腕試しを申し込まれた際に相手となったシロウシュが船から降り、スーフェイに向かって慇懃に挨拶をする。

邪神戦の真っ最中でもあり、船から降りてすぐの路上での挨拶だ。大通りに着陸した飛行艇の周囲に『ヴィルトカッツェ』の面々が野次馬に集まってきた。


「これより私共は王国に向かいますが、殿下からの御届け物が御座います。」

シロウシュが後ろに合図をすると、供の物が数点の化粧箱を差し出してきた。


「どうぞ、お確かめください。」

シロウシュに勧められ、王女からの届け物を箱から出して確認する。


「・・・これは・・・!?」

スーフェイが手に取り確認した物、それは純白の軽装の鎧、と言うより衣装に近い。


身体の動きを妨げないように白銀の細い鎖帷子を編み込み白銀のプレートを要所にあしらい、その表面の大部分は白い絹布のレースを多用したドレスと見紛う鎧。

「ヴィルトカッツェ』の美女達も思わず見惚れてしまう。


「うわぁ・・・綺麗・・・白百合みたい・・・。」

「これってぱっと見、ウエディングドレスよね?」

「素敵・・・着るのが勿体ないくらい・・・。」


「銘は、百合の女王『カーサ・ブランカ』、殿下からの婚礼祝いに御座います。」


シロウシュはそう告げると、1通の手紙をスーフェイに手渡した。

『これより殿下を追い掛けますので、ご武運を。』

そう言い残し飛行艇に乗り込んで王国の空へと去って行った。


スーフェイは手渡された手紙の封を開け、王女のイメージとは程遠い丸っこい可愛らしい文字で書かれた文を目で追い、読んだ。


『スーよ、救国の英雄との婚約、心より祝福する。この甲冑はお前の二つ名『白百合の君』を意匠に取り込んだドワーフ名匠の逸品じゃ。

それを使って亭主殿の留守を守るがよい。決して死ぬな、死んだら亭主殿は遠慮なくわっしが貰うからの?

では後ほど披露宴でまた会おう。』


マサキに対する王女の想いは、様々な人から聞かされ、多くの歌で歌われた為、この世界中で知らぬ者など居ない程だろう。それこそマサキに命を救われた自分と同等以上のはず、その想いを振り切ってマサキの幸せを願って自ら身を引くなんて・・・。


『殿下・・・ありがとうございます・・・。』


『この街は、マサキの留守は必ず私が護ります。』

スーフェイは王女が目指しているであろう王国の空に向かい、そう心に誓った。



────────────────────


王国内王都近郊、フェルネ村。


紅い月の光が眼下の村を照らすなか、丘の上の古い邸宅跡の前に佇む者が居た。

元「天空の審判者」チームの盾役フォルカーだ。


彼はこの丘の上から周囲を警戒しているが、山から下りてきたと思しき魔物達がこの丘を登ってくる様子が無い事を確認していた。どうやら奴らの目的は王都に最短距離で向かう為で、わざわざ丘を登ろうとする愚は侵さないようだ。

この堅牢で広い邸宅跡には村人が避難している。魔物が来ないに越した事はない。


『村人たちを王都に収容させないのは正解だったか・・・。』


眼下の光景を見てフォルカーはその点で安堵した。しかし、ここからだと昼間には遠くに王都の様子が見える距離だ。その王都で先程から激しい戦いが行われているのが見て取れる。凄まじい魔法の応酬が繰り広げられている様だ。楽観は出来ん。


魔法の応酬の激しい閃光の下でアレックスは邪神相手に戦い続けているのだろう。


4年前の村での惨劇以降、あれ以上誰も傷つけない為の配慮と誤解とでアレックスとは疎遠になってしまった。不幸な真実を俺の耳に入れないようにとの村人やアレックスの配慮に俺は庇われていたのだ。

それが解って以降もアレックスとは直接会っていない、今度会えたら詫びねばならない。しかし、お互い無事でいられるのだろうか?


『生きて帰れよ、アレックス・・・。』


フォルカーは紅い月明かりの下、遠くに光る魔法の応酬の輝きを見守り続けていた。



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