最初で最後の修学旅行
俺がこちらの世界に来た理由と、その為に行うべきことが解ってきた。
・邪神の復活を防ぐ、または妨げる方法を探す事。
・この世界で力を失いかけている神々、精霊の力を取り戻す事。
・アカツキ様と行動し、本来の力を取り戻す事。
つまりはいつまでもこの村に居たのでは何も出来ないし、始まらないと言う事。
幸いこの村で農作物の生産における役立つ知識とかはあらかた伝えてあるし、各畑に住まう精霊たちも力を取り戻しつつあり村人たちの生活も向上している。
村の子供達にも遊びを通じて生活の知恵等の伝えられるものは大体伝えた。
俺が『野生の狼すら操れる規格外のビーストテイマー』と認識された今が旅立つのに丁度良い頃合いなのかもしれない、と言うかこのタイミングしかないと思える。
しかしこちらへ来て大体6か月位か、長いようで短かった気もするが元の世界での6か月と比べたらやたら濃密な時間だったと思う、この村で過ごした出来事がやたら思い出されるのは先行きへの不安からか、別れの辛さからなのか・・・。
「先生、どうしたの?なんかぼんやりしてる?」
クレアが心配そうに声をかけてきた、いかんメロンの出来を確認してる最中だった。
「あー、ちょっと考え事してた、ごめんごめん。」
「しっかりしてくれよな先生、割れとかあったら大変なんだからな。」
「でも全部問題なく育ってるみたいだし大丈夫みたいですよね。」
バーツとロディからも声がかかる、こいつらも成長したな。
「じゃあ、これで明日の朝収穫して街に売りに行けるんだよね?」
「先生、街へは誰が付いていくんですか?」
マキとペンチから質問される、そうだな今までは俺とカチュアで行ったんだが、今回は6軒の畑でとれたモノだからその家の人間を連れて行くのが普通か。
いや、待てよ・・・。
「そうだな、じゃあ皆で行くか?」
「え!あたしら全員で行って良いの!?」
「やったぁ!俺、先生と街に行って見たかったんだよな。」
「みんなで街までお出かけだぁ!」
子供たちは大喜びだ、言ってみれば日帰りの修学旅行みたいなもんだな。
何しろ今回は先日手に入れた馬車がある、その後ろに荷車を繋げば子供全員と収穫したメロン15個位なら十分乗せられるだろう。
「あとお昼は街の食堂で食べるから何も用意しなくていいぞ。」
「え~!うわぁ、楽しみぃ!」
「やったぁ!街でメシ食えるなんて最高!」
「街の食堂ね、すっごく美味しいんだよ!」
「カチュアいつも良い物食べてたんだいいなぁ。」
「何言ってんだ、明日は皆で食えるんだぞ!」
子供たちは大はしゃぎだ、一応全員家の人の許可は貰ってくるように伝え、明日の朝の鐘に合わせて集合と言う事にして今日は解散する事になった。
皆を見送った俺は、その足で村長の家へと向かった。
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「・・・そうか、やはり行ってしまうのですね、先生。」
「ええ、随分と永い間お世話になりましたが近いうちに行こうと思います。」
村長宅の居間のテーブルで村長と奥さんの二人に向かい合い彼らに決意を伝えた。
盗賊団の件で街の衛兵から王国騎士団への登用を勧められている事、騎士団に入るかどうかは兎も角、邪神の復活という目の前に差し迫った危機に対し俺に出来る事があるならやらなければならないだろう、と。
邪神が復活すればその封印は勇者とドラグーンに任せるしかないが、両者の負担を減らす行動や、復活までに戦いが少しでも有利になるような準備等やれることは色々あるはずだ。
「とりあえず明日、子供達と街へ行くついでに情報を取集してきます。」
明日が最後の子供達との思い出作りになるだろう事を告げ、子供達と街へ行く事への許可をもらい手形も預かった。
「先生、いつ頃村を出て行かれるのですか?」
「そうですね、次の安息日の夜に出発しようかと思います。」
「次の安息日・・・あと2日ですね。あまり時間が無い。」
「ええ、時間が経てば経つほど決心が鈍りそうで。すみません。」
「先生が謝る事では・・・。」
明日の準備があると断り、村長夫妻に見送られながら村長宅を辞去した。
翌朝、予定していた時間よりかなり早く子供たちが集合場所に集まった、皆、今日が楽しみでかなり早く目が覚めたらしい。小さな子はその保護者も一緒に来ていた。
「先生、お手数ですがよろしくお願いします。」
「今日はみんなで一緒に行動しますから大丈夫ですよ。」
「いい、マルロ。先生の言う事はしっかり聞いてね。」
「大丈夫だよー、みんなと一緒だから。」
早速、予定通りメロンを集荷して幌馬車の荷台に積んだ藁の上に割れない様乗せる。
馬車の荷台には小さな子と女の子を乗せ、幌馬車の後ろに繋いだ荷車には男の子を
4人乗せた。俺は御者台で隣はクレアが座りアカツキ様は幌の上に乗っている。
「先生、俺たち4人荷車って酷くね?」
バーツが4人を代表して文句を口にする。
「お前らなら落ちても割れないし、すぐ戻れるだろ?文句言うな。」
「ひでぇな、俺たちゃメロン以下かよ。」
「ああ、今日はメロンが主役だからな。」
子供たちが笑う、こんなやり取りでも今日は特別に楽しく感じているんだ。
「では行ってきます。」
保護者に出発を告げ馬車をそろりと進ませる、『行ってきまーす。』『じゃーねー。』
子ども達も保護者に元気に手を振り挨拶をする。
馬車は村の中の道を街道に向かって進む、その途中で農作業している村人達が馬車に気付くと作業の手を休めてこちらへ手を振って声をかけて来る。
「気を付けて行ってらっしゃーい。先生よろしくお願いします。」
「かあちゃん、行ってくるよー。」
幾人もの村人に声を掛けられながら馬車は街道へと進む。
村を出た所で馬車に気付いた2匹の狼が尻尾をふりつつこちらへ寄って来た。
「お前たち、留守を頼むぞ。」
「狼さん達ばいばーい。」
狼達はアカツキ様の言いつけを守って交代で村の警護を続けてくれている。
子供達も慣れたもので、恐れるどころかたまに一緒に遊んだりしている様だ。
俺が居ない間も狼たちがこの村を守ってくれる、その点は安心だ。
が、邪神が復活してしまえば狼達も対抗する事はできないだろう、出来るならばこの狼達も巻き込みたくはない、邪神を復活させないのが一番ではあるのだが・・・。
道中は周りの景色を見て騒いだり、歌を歌ったりしているうちに街へと辿り着いた。
すっかり顔なじみになった衛兵に手形を提出して露店の手続きをする。
「おぉ、来たな『百狼』の兄さん。」
衛兵は嬉しそうに俺を見ながら聞きなれない言葉をかけてきた。
「『ヒャクロウ』?って何です?」
なんでもこの間の盗賊達が自供した際に、俺が100匹もの野生の狼達を操ったと証言した所為で俺に『百狼』と云う二つ名がつけられたらしい。
「先生、『百狼』なんて呼ばれてるんだ!カッコいい!」
「先生、凄い!すっかり有名人ね!」
「百匹の狼を操るから『百狼』か、すげーや先生!」
初めて聞いた二つ名に俺は戸惑い、子供たちは興奮する。実際は50匹位なんだがそれを今言うのは野暮ってものだろう、子供たちの憧れの視線が痛く感じる。
『いつもの所を空けてあるからな、百狼の兄さん』と衛兵がからかい半分に言う。
「おお!アミメメロンの兄さんが来たぞー!」
背後から別の男の声が響き渡る、それに反応する人々の声も。
「兄さん、今日はいくつ持って来たんだ?」
「うわぁ、いい香りが此処まで来てるぞ。」
たちまち多くの街人に取り囲まれる、子供たちはそれを引き気味で見ている。
「えぇ・・・こんなに人が集まるの?」
「・・・凄ぇ人気だな俺たちのメロン。」
「広場に着いたらすぐ売れちゃうんだよね、先生。」
カチュアだけは自慢げだ、今までに2度経験しているだけはある。
集まった人々を見ると悲壮な表情の人が1割程で、他の人は興味津々と云った所だ。
なるほど、今回こそ落札しようとする人と、所詮他人事の野次馬との違いか。
早速露店の準備に取り掛かろう。
馬車は広場まで行けないので荷車を馬車から外し、荷車に藁を敷き詰めその上に収穫したばかりのメロン15個を乗せて中央広場に移動する。荷車を移動するのを手伝うのは年かさの男子らで、女子はその後ろをついてくる。野次馬たちはその後ろだ。
中央広場に辿り着くと、いつもの門番が場所を空けて待ち構えていた。
「おお!『百狼』の兄さん、ここを空け・・・」
「金貨6枚だ!ひとつ金貨6枚で全部貰う!」
『聖なる胃袋亭』の有無を言わさぬ買い占め宣言とその金額に群衆がどよめく。
『いきなり金貨6枚出たぞー!』
『またあんたかよ!』
『いい加減買い占めは辞めてくれんかね!?』
「王都で予約が埋まってんだよ!文句あんなら6枚以上出してみろってんだ!」
流石に6枚以上出せる者は他におらず落札が決定となり、大将は店の従業員を呼び
『おい、すぐに梱包して王都へ送れ!』手際よく指示をして去っていった。
それまで大勢いた野次馬も流石に落札された後までは興味が起らないらしく、波が曳くように居なくなりその後には空になった荷車と俺と子供たちが残された。
「・・・・凄かったですね、先生。」
「まさか店を出す前に売り切れるなんてよ・・・。」
「それだけ人気があるって事だから村の将来は明るいぞ。」
予想より早く片付いた為、昼には少し早いが皆で昼食を取ることにした。
カチュアと訪れたいつもの食堂だ、早い時間の為ほぼ貸し切り状態となった。
「さぁ、みんな好きなモノ注文しろ。」
「・・・好きなモノってどんな料理か解んねーよ。」
バーツが小声で言う、それもそうか。
「じゃあ、お姉さんに見繕って貰うから文句無しな。」
俺含めて13人分の料理と飲み物のお勧めを注文する。
しばらくして出てきたのはオニオンスープにハンバーグ、付け合わせにジャガイモのパンケーキ、白パン、ドリンクは子供たちにリンゴジュース、俺にはラガー。
食べ盛りの男の子らには足りないかもしれないとソーセージの盛り合わせも注文。
アカツキ様はいつものワインがお気に入りの様だ。
「凄ぇ、見たことないような料理ばっかり。」
「おい、料理に驚いてると田舎者だと思われるぞ。」
「仕方ないじゃん、実際田舎もんなんだし。」
「さぁ喰うか、皆で食べると格別だし良い思い出になるぞ。」
「じゃあ、女神様に今日の糧への感謝を。」
クレアの声に皆で女神様への感謝をし、感謝が済むや皆思い思いに食べ始める。
「美味しい!ジャガイモってこんな美味しかったんだ!」
「このパン柔らかい!いつも喰ってるパンって何なんだ!?」
「この飲み物、もっと欲しい!」
各々が口々に料理の美味しさに感嘆し感想を語り合う、店員のお姉さんも子供らを微笑ましく見守っている。
「先生、それ美味しそうだな。俺にも飲ませてくれよ。」
「駄目だ、子供にはまだ早い。」
バーツが俺の飲むラガーを飲みたそうにしているが、これは大人の飲み物だ、よな?
こっちの世界じゃその辺はどうなっているんだろう?まぁ、飲みなれてない奴が飲んで酔っ払われても困るし、やっぱり駄目だ。
「ちぇっ、でも何でその犬がワイン飲んでるんだよ?」
バーツがワインを舐めるアカツキ様を見て文句を言う。
「これは・・・特別な存在だから食事も特別なんだよ。」
「やっぱそうなのか、狼より格上って感じだもんな。」
「なんてったって『百狼』の使い魔だから特別なのよね?」
『百狼』先生格好いい!と子供たちが笑う、すっかり『百狼』が定着してしまった。
ソーセージの盛り合わせも含め料理があらかた子供らの胃袋に収まりかけた頃に、デザートを出してもらった。ケーキみたいな焼き菓子だ、子供達から歓声が上がる。
女の子達はさっきまでおなか一杯だと言っていたが、甘いものはやはり別腹な様でペロリと平らげてしまった。
「もう本当におなか一杯よね。」
「流石にもう喰えねーよ。」
「でも本当に美味しかったー。」
代金を支払い店の外に出る、時間的には昼を少し過ぎた所だし帰るにはまだ早い。
「これからお前たちに小遣いを配る。1人銀貨3枚だ、好きに使って良し。」
子供たちが歓喜の声を上げる、子供たちにとって銀貨3枚は大金だ。
「先生!銀貨3枚もいいの!?」
「銀貨3枚使えるとかそうそうないぜ!?」
「先生!何に使ってもいいの?」
「ああ、皆で何買おうかって悩むのも良い思い出になるからな。」
今から2時間自由行動とするから街を見て回ってくるように、と伝えると子供たちは
「銀貨3枚って何に使おうか?」
「とりあえず一通り見て回って何が売ってるか確認しましょう?」
「そうだな、みんなはぐれるなよ!」
皆でわいわい言いながら街の散策に繰り出していった。
後に残されたのは俺とアカツキ様だ。
「・・・さて、と。」
『ここからがお主の本当の目的だな?』
『はい、子供達は連れていけませんから。』
俺はアカツキ様と共に、今回の本当の目的地へと足を向けた。
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俺の要件は案外早く片付いたので集合時間の少し前までには戻ってこれた。
集合場所の馬車の前で待つこと少々、子供たちがわいわいと賑やかしく帰ってきた。
「どうだった?街の散策は?」
「楽しかったー!」
「色んなものがあって目移りしちゃったねー。」
「色んな店を回って結局最初の店に戻ったりとかしちゃった。」
子供たちはそれぞれに戦利品を手に楽しかった出来事を口にする。
「ははっ、皆なかなか良い思い出になったみたいじゃないか。」
じゃあ、帰るか。と皆を行きと同じように馬車と荷車に乗せ帰路へ着く。
馬車に揺られていくうちに睡魔に襲われる子がでてくる。
「眠いなら寝てて良いぞ。荷車の男子は落ちないように気を付けて寝ろよ。」
と、声を掛けるも荷車組の男子は昼飯をがっいて腹一杯になってた所為か、もう全員寝ていた。幌馬車の女子も随分眠気と戦っていた様だが、買い物に大はしゃぎしていて疲れていたのか徐々に脱落して静かになっていった。
御者台の隣に乗っていたクレアが最後まで耐えていたがそれも限界に達したようで
「・・・先生、今日は凄く・・・楽しかったね・・・。」
と言い残し彼女もまた眠りに落ちていった。
「今日は楽しい良い思い出になったよ・・・。」
俺は一人御者台の上でそのセリフを噛み締めた。
留守番の狼達に迎えられ村に帰りつくと、寝ている子供たちを叩き起こした。
「ほら、お前ら起きろ!帰り着いたぞ!」
時間で言うと夕方4時くらいか、これから夕飯を食べてしばらくしたら就寝だが、こいつら今日は寝れるのか多少心配になる。
子供たちは案外すっきりした顔で起きると各々荷物を手にして今日の出来事を振り返り感想を言い合いながら家路へと向かう。
「先生、今日はありがとうなー。」
「今日は凄く楽しかったよー。」
「じゃあ、またねー。」
子供たちを見送った後、馬車と荷車を雑貨屋の裏手へ回す。
馬車は村の共有財産となっており、頻繁に街へ行く婆さんが一番恩恵を被る為管理も婆さんが買って出てくれている。
「ただいま戻りました。」
「今日は子供らみんな楽しめたようだね。」
「・・・ええ、忘れられない一日になったと思います。」
そうかい、そりゃあ良かったね。婆さんはしみじみと呟いた。
「・・・明日の安息日には出ていくんだろう?」
「・・・ええ、明日の夕方までに雑用を済ませて夜に出発を、と。」
「なら今日はさよならは言わないよ、また明日、さね。」
婆さんに『では、また。』と挨拶をして雑貨屋を辞去した。
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子供達は街で買ったお土産を手にそれぞれの家路へと向かう。
あの店は良かった、昼に食ったあれは旨かった、等話題は尽きない。
楽しそうな子供たちの中で一人クレアだけが何事かを考えこんでいた。
「どうしたクレア?何か忘れ物でもしたのか?」
「・・・今日の先生、どこかおかしくなかった?」
「俺たちも浮かれてたし。先生もそうだったんじゃないか?」
それなら良いんだけど・・・とクレアは呟き心に引っかかっていた事を口にする。
「・・・先生、『思い出』って言葉を何度も言ってたのよね。」
なんかこれでお別れみたいに感じちゃって、とのクレアの言葉に子供たちの足は自然に止まった。




