北の大地の最初の依頼
マッツーラの街には何も問題なく入れた、先ずは拠点となる宿を取ろう。
「クラウス」の提案でこの街でなるべく上級の宿を選ぶ事にした。
冒険者達からの信頼、信用を得る意味でも変な宿は使わない方が良いだろう、と言う判断からだ。金は心配要らない、常に暁様が魔石を収拾してくれているのだ。
大通りに面した宿屋で冒険者ギルドにほど近い所を衛兵に教えてもらい、其の礼に銀貨を一枚衛兵に握らせた。金回りの良い腕利きを演出する意味もある。
この街は王国のノルマールの街より大きい共和国のイグニスの街と同程度の規模の様だ、施設もそこそこ充実している為、生活するのに不便は無さそうだ。
大通りを皆で進む、全員服も上等の物を用意した。これはあくまで移動用の服であり、依頼を遂行するときは冒険者としての装備に着替えるのだ。
そこらの冒険者とは違うという事を服装でもアピールするのが目的だ。
見るからに高級そうな4階建ての宿のエントランスに目もくれずロビーに入りカウンターに「クラウス」が向かう、少し離れて待機する俺達。「クラウス」は4階の3部屋を取った様だ。
荷物を置いて着替え、早速冒険者ギルドへ向かう。
イグニスの冒険者ギルドより少し規模が大きいか、そのロビーに入り依頼が張られている掲示板を確認する。天候の所為か採集のような依頼は比較的少ないな、強い魔物が多い分討伐の依頼がかなり多い。
その中で一際目を引く依頼があった。
「緊急 アリオラムス複数頭の討伐依頼 報酬 1頭に付き 金貨1枚」
「緊急 アリオラムス複数頭の討伐依頼 報酬 1頭に付き 金貨1枚銀貨1枚」
「緊急 アリオラムス複数頭の討伐依頼 報酬 1頭に付き 金貨1枚銀貨2枚」
内容がほぼ同じで場所も同じ村になっている、余程このアリオラムスという魔物に困っての依頼なのだろう、報酬からするとそんなに強い魔物ではないのか?
しかし、注意事項に気になる文言があった。
「 A級チーム限定 」
となるとかなり強い魔物なのではないか、もしそうならこの報酬は安すぎる。
命の危険に見合っていないという事で敬遠されているのか?そんな魔物が身近にいる生活を強いられている村人達、この報酬もなんとか捻出できる限界なのだろう。
「よしこれに決めた。」
俺は依頼書3枚を手にカウンターに向かう、若い女の職員が笑顔で迎えてくれた。
「お嬢ちゃん、この依頼を受けたいんだが。」
なるべく「マルクス」が言いそうな口調で話す、もう少し下品でも良いのかな?
「あ、はい。こちらの依頼は!?・・・この依頼を受けて下さるんですか!?」
職員が驚愕と言っていい表情をする、やはりかなり長い間放置されてた様だ。
周りの冒険者の中にも驚いた表情をしてる者がいる、やはり訳アリか。
「あの・・・チームの方は何名様なのでしょうか?」
「この4人だ。」
「A級がお1人と、・・・E級が3名様ですか?これはA級チーム限定でして・・・。」
受付嬢が落胆したようにそう言った途端、テーブルに着いていたチームらしき奴らが大笑いしだした、
「ははっ!登録したてのE級が世間知らずに背伸びしやがってよう!」
笑った男たちは皆A級のプレートを首から掛けている。無性に腹が立った。
「で、アンタらA級様はなんでこの依頼受けないんだ?」
「そんなの決まってんだろ!そんな端金で命かけられるかよってこった!」
さも当然の様に答える男たちに最大限の侮蔑を含んだ視線を送って言う。
「あー、採集ばっかりでA級になった腰抜けだったか、引っ込んでろ。」
「なんだと!この野郎!!」
いきり立った男がこっちに突っかかって来た、ちらりと視線を送るとメイが素早く動いて、男の顔面を右手で鷲掴みにし、平然とそのまま片手で頭上へ釣り上げる。
「なぁ!?」
「なんだこの女!?」
喋らせたら残念な彼女だが、喋らないと野性的な美女で通る美貌の持ち主だ。
そのメイが平然と大の男を片手一本で持ち上げてる、男の頭蓋骨がいつまで持つか。
ギルド内の視線が彼女に集まった頃を見計らって「クラウス」が言う。
「メイ、そいつ煩いから外に放りだしといて。」
「はい、ボス。」
メイは返事をすると入り口に向かい直り、入り口付近の冒険者に顎でしゃくると、冒険者は思わずドアを大きく開いた。メイはそのまま一歩踏みこむと文字通り男を大通りまでぶん投げた。
「ぎゃ!?」
投げられた男はそのまま転がり向かいの店の壁にぶつかり動かなくなった。
「・・・これでも受けられないのか?」
俺は女性職員にダメ元で聞いてみた、一応規則だから受けられないのは百も承知だ。
「ほ、本当は規則で駄目・・なんですが・・・でも!」
彼女は切羽詰まった様子で周りを見回して叫んだ。
「お願いします!誰かA級の方!こちらの方達と一緒に依頼を受けて頂けませんか!この村、あたしの村なんです!やっと、やっと受けてくれる方が現れたんです」
女性職員は泣きながら周りに訴えかけた。そういう事情だったか。
「お願いします、あたしに払えるお金は用意します。だから・・・」
「クラウス」がゆっくりカウンターに近づき、泣き顔の職員に優しく語り掛ける。
「お嬢さん泣かないで、私達への報酬なんてあなたの笑顔だけで十分ですよ。」
「クラウス」以外が言うともれなく歯が浮いてしまうセリフだが、コイツが言うと妙に様になってしまう、おまけに相手が女性ならたちまちその頬は真っ赤に染まる。
驚いて泣き止む受付嬢にハンカチを差し出しながら「クラウス」は周囲に言う。
「君達A級チームを雑用係として金貨10枚で雇おう、魔物は全てこちらで片付ける。君たちは見てるだけで良いよ?それすら出来ない腰抜けなら何も言わないが?」
にこやかに周りを煽る「クラウス」、こんな交渉事は天下一品だな。
「あんたら、アリオラムスの恐ろしさを知らんから言えるんだ!!」
「そうだ!奴は10mはあろうかって狂竜の化け物なんだぞ!」
煽られた男たちが口々にこの依頼の困難さを叫ぶ、俺達は腰抜けじゃないと、アリオラムスがどんなに恐ろしいかを滔々と口にする。それを聞いてふと思い当たった。
「・・・ん?そのアリオラムスって街の外れで俺達が倒した奴じゃないのか?」
両手剣を持った髭面の男が襲われていたから、思わず倒してしまったが。と言うと
「あ!ゴンゾの野郎が3人の流れ者に救われたって言ってたが、アンタらの事か!」
「頭を潰されたアリオラムスの死体が残ってたが、アンタらがやったのか!?」
男たちの顔が驚愕にゆがむ、受付嬢は希望に満ちた眼差しを送って来る。
「それなら大した仕事じゃねぇな、さっさと行って終わらせようぜ。」
俺は「マルクス」を演じながらそう言った、この位下品な方が奴らしいよな?




