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八百万の神々と千年王国の竜  作者: 涼城 鈴那
北の大国と氷雪の虚像

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『王女と救国の英雄の歌』・2


俺達が辿り着いた日の翌日の夕刻にアレックスとアキラが合流した。


丸二日走り続けたアキラは多少疲れた顔色をしていたがやせ我慢なのか平然としている。その背で揺られ続けたアレックスは流石に疲労困憊していた。俺なら死んでる。


二日は休息に当てた方が良いだろうとフリッツが提案したが、アレックス自身が

『一日休めば十分だ。』と翌々日の出発を主張してきた。俺なら休む、流石はS級だ、並みの体力ではない。それに帝国での調査と言う目的がアレックスの原動力になっているのかも知れない。


アレックスを部屋で休ませている間にフリッツに、あっと、今は「クラウス」だ。

クラウスに明日以降の予定を聞いた。


「うん、先ずはここより内陸の街に行って其処を拠点にしようと思う。」

「その街を拠点にする理由は?」

「まず一つはアスコールの転移魔法の移動距離の問題だ。」


うん?移動距離に制限があるのか?どうやら王国へ移動するにはこの街では少々遠いらしい。それでゆとりを持って届く街に移動する必要があるという事だ。


「それと、討伐依頼が多くて、冒険者の出入りも多いらしいんだ。」

成程、多くの人が出入りするからいろいろな情報が集まり易いという事か。


「それに依頼の完遂率が低いんだ、幾つものチームが失敗する事も多いそうだね。」

「それだけ魔物が強いって事なのか。」

「まぁ寒いと単純に体が大きくなる傾向がある様だしね。」

身体が大きい程度だとこのメンツなら問題ないだろう、それよりも・・・。


「なぁ、クラウス。俺一旦帰った方が良くないか?」

「あー、そうだね。一番警戒されてるだろうし、顔出ししといた方が良いね。」

アレックスが動けない今、一旦イグニスの街へ戻ろう、アリバイは多い方がいい。

何より少しでも状況が好転してれば良いんだが・・・。


とにかく先日は山越えを控えていた所為で、万一吊るし上げを喰らって計画に支障が出ると不味いので問題を先送りにしていたのだが、山越え自体は終了した。

もう『ヴィルトカッツェ』行きを延期する理由も思い浮か・・・いや、腹を括ろう。いつか今を軽く笑い飛ばせるようになるさ、なんとかなるよな。



アスコールに依頼してイグニスの街に送ってもらう事にする、一度に3人まで送れるそうだからメイも一緒に送ってもらう。

アスコールに言われるまま、三人向かい合って皆で手を繋ぐ、そうしてアスコールが「転移魔法」を使うと一瞬気が遠くなったと思う間もなく周りの風景が変わった。



どうやらここは街はずれの林の中の様だ。人目に付かない場所を選んでるんだな。

こんな便利な魔法が有るなら帝国に行く際もこれで行けば良いと思ったのだが、この魔法は本人が行った場所しか選択できず、アスコールは帝国には行った事が無い為、最初だけどうにかして帝国に行くしかなかったのだ。


早速、街に戻る。こういう時は顔パスなのはありがたい。俺に関しては連れまでノーチェックで良い事になってるし何も問題ない。むしろ問題は『ヴィルトカッツェ』内で起こっているのだろう。それもこれもあの「王女と救国の英雄の歌」の所為だ。


そんな色恋沙汰は避けて通りたいのに、向こうからやって来るのは避けようがない。


まずは警戒されているであろう教会に行く、先日持ってきたゲーム盤の評判を聞きに来たと言う体だ。教会の中にこの間のシスターアカネが居た。


「こんばんわ、この間のゲーム盤どうでしたか?」

「ああ、マサキ様。あのゲームですが私達や信者の間で凄く評判ですよ。」

「そうでしたか、まだ販売してないので今度また幾つか持ってきましょう、」

『明日には一旦王国に帰るので、往復一週間位で戻ってきます。』とさりげなく欺瞞情報を伝える。これで一週間顔を見なくても疑われまい。

その後他愛のない会話を交わして、教会を辞去した。



さて問題はここからだ、心なしか『ヴィルトカッツェ』へ向かう足取りが重い。

反対方向に心惹かれながら『ヴィルトカッツェ』の前にやって来た、腹を括ろう。


入り口の前で店内の様子を一応伺う。・・・よりによって例の歌の最中かよ。

中を「桜」を使って覗く、うん客の入りは満席、これなら『ヴィルトカッツェ』の面々に即、詰められなくて済むかもしれない、客の居る間だけだが。


折角だから歌が終わって拍手喝采の中で入店してやるか、これが一番安全だろう。


吟遊詩人の歌が終わった瞬間、拍手万雷、満員御礼、商売繁盛の大声援の中、颯爽と扉を開けて主役のお出ましだ。さあ!どうとでもなれ!必要以上にテンション上げて


「こんばんわー!久しぶりー!」


と、ダイナミック入店する。店内の視線が一斉に俺に集まる、一瞬の静寂の後


「きゃあああああああああああ!」

「救国の英雄の登場だあああああああああああああ!」

「王女様はどうしたあああああああああああ!」


大歓声が上がる!店内のボルテージが一気に上がる!さぁ問題はこれからだ!さっき見た時はスーとミアも居たぞ!どう攻めてくる!?

『ヴィルトカッツェ』の皆は大歓声の酔客に遠慮してか、一歩引いて話しかけてこない。思った通りに観客バリアが効いている。多分この後質問攻めに有った後、皆が冷静に『どういうことか説明しなさい』と聞いて来るに違いない。


観客の熱気が少し和らぎ、さて吊るし上げの時間がやって来たかと思った瞬間。


「こんばんわー、吟遊詩人アスコール、新曲を引っ提げての登場でーす。」

と傍からアスコールが手慣れた様子で颯爽と登場した。


「さて皆さん、単純なお話にも飽きた頃でしょう!今日は同盟国の救国の英雄の真の物語をご用意しました!なんと英雄ご本人のお墨付きでーす!」


途端に店内がざわつく、『真の物語?』『脚色してない話が聞けるのか?』と客が一斉に興味を示した。いいぞ救世主アスコール!お前を連れてきて正解だった!!


「では、お1人様銀貨1枚、30枚以上で歌わせて頂きます。」


『金取るんかい!商売上手だな!』心の中で思わず突っ込む。客の中からも「えー金取るのか?」「今までタダだったのにー?」とかブーイングが上がっている。


「おい!俺が金出すから!みんなからは良いだろう!?」

「あ、マサキさんからは当然頂きますよ。しかしそれはそれで別ですよ。」

さらにブーイングが強くなる。しかしアスコールは毅然とした態度で爽やかに


「いいですか?これは皆さんがマサキさんをどれだけ信用してるかの問題なんです。あの歌に有る様に、マサキさんが軽薄な方だと思ってる方は聴かなくて結構!」


良く通る声でぴしゃりと宣言したアスコールに一瞬店内は静まり返る。

誰よりも先にスーが動いた、銀貨を一枚アスコールの用意したトレーに乗せる。


「私はマサキがあんな歯の浮くような事を言うとは思えない。」

いいぞ!流石、第一の妹分!兄貴分の危機を率先して助けてくれるとは!


続いてミアが『兄さんは絶対そんな事言う訳ない!』と銀貨をトレーに叩きつける。


「あたしも本当の歌を聞きたいね!」

デルマが言う。銀貨を一枚ピシッ!と音を立ててトレーに突きつける。

あたしも!私も!俺も!とトレーにはたちまち全員分の銀貨が山と積まれた。


それはつまり皆の俺への信頼の証だ。輝く銀貨の山をを見て思わず目頭が熱くなった。溜まらず皆に背を向け、後ろの壁を向いてしまう。


「では、私が現場で見た一部始終を歌います。『救国の英雄の歌』です。」


そしてアスコールは歌い出した。あの国の出来事を大げさな脚色をする事も無く。


王女から王宮で祝賀会を開くと言われたが、お金は復旧作業に回すよう断った事。

代わりに住民がお金を出し合い寄付を集め、自主的に送別会を開いてくれた事。

前回カジノで勝った祝賀会と全く同じ会場で再び大宴会を開催した事。

大盛り上がりした宴が朝まで続いて皆が寝てしまった隙にマサキが去ろうとした事。飛行艇で帰る際に示し合わせてた飛行艇が会場の上を通り皆が見送りに出た事。

その際に皆が「命の笛」を吹いてマサキへの感謝の言葉に変えた事。

マサキがそれを見て大泣きしていた事。

そのまま近衛騎士団や国王、王妃に見送られ船が空に消えるまで。を。


『王女と救国の英雄の歌』に全くなかった地味な出来事を中心に丁寧に、静かな曲調で無駄に飾り立てる事も無く真摯にアスコールは歌い切った。


あの時の出来事が脳裏に鮮明に蘇り、俺は涙が出そうになるのを堪え、ミアは号泣しているし、スーは両手で顔を覆っていて、泣き顔のデルマになだめられている。

「アンタたちの涙が何が真実なのかを物語っているんだね・・・」


「王女様の愛なんて小さな物じゃなくて、同盟国皆の信頼を集めたのかい。」

『流石だよ、』とデルマに言われ肩を叩かれた。その小さな衝撃は、俺の涙腺を崩壊させるには十分すぎた。・・・涙で前が見えない。


店内の客たちもその現場を見たかのように全員が目頭を押さえている。

店内はすすり泣きの音が小さく響いていた、その中でスーの声が小さく聞こえた。


「マサキ、お帰りなさい・・・。」

「にいざんおかえりなざいいぃぃ。」

ミアも声を絞り出す、続いて他の者も思い思いに「お帰り。」と言ってくれた。


「さぁ皆さん!今日が本当の英雄の凱旋ですよ!拍手でお迎えください!」


アスコールが良く通る声でそう促す、それを聞いた者は皆一斉に拍手喝采し


「お帰りいいいいいいいいいいい!」

「よくやったあああああああああ色男おおおおおお!」

「英雄ばんざあああああああああい!!」

  

この日一番の大歓声が響いた。


─── 俺は本当の意味でここに帰って来たのだと心から実感した。




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