ビーストテイマー
村人たちが夕食を終え短い団らんの時間を過ごし、間もなく眠りに就こうとする頃一軒の家で騒ぎが起きた。
街へ往復した事でいつもより疲れた所為か、いつもより早く眠りに就いた俺を起こす者が居た、アカツキ様だ。
『マサキ、起きろ。何やら騒がしいぞ。』
アカツキ様に促され目を覚ました俺は、外で起こっている騒ぎに耳をそばだてる。
『!?』
聞きなれない男たちの怒号と、村人達の悲鳴が聞こえる。
「この村で作ってるメロンで金がたんまりあるのは解ってるんだよ!」
「有り金全部だしゃあ、命までは取らん、早くしろ!」
街でメロンを売った時にこの村でメロンを作っていると言ったのをコイツらが聞きつけたのか!?
『しまった!俺の所為で村の人たちが!』
『勘違いするなマサキ、悪いのはあ奴らでお主の所為ではないわ。』
アカツキ様にそう言われたが、俺が余計な事を言わなければこの事態は起こらなかったのは事実、何とかしなければ。
『丁度良い、試したい事もある。お主はわしの言う通りに動け。』
アカツキ様と一緒に物置小屋から声のする方へ向かった。
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「これで全員か!」
赤い月明かりの下で村人たちが広場に集められ、強盗団の怒鳴り声が響く。
男の一人が女の子を人質に村人達へ声を荒げる。
「大人しく言う事聞いてりゃ命までは取らん!」
「クレアを離せ!」
「大人しくしてろ!糞ガキ!」
男の一人がクレアの右手を背中に回し逃げられないようにし、叫ぶ。
「コイツにケガさせたくなきゃ有り金全部ここに持ってこい!」
「見たら解るだろうがここは貧しい村だ、金など大してないぞ。」
「街で若い男が大金を手にしたって話は知ってんだ、そいつを出せ!」
「・・・マサキ先生なら倉庫を建てる為の打ち合わせに街へ出かけとる。」
男たちは一軒一軒家を回って家人を強制的に広場に集めたがマサキは物置小屋に寝泊りしていた為に男達の捜索から見落とされていた。
村長はその事に気付いて、恩人を庇おうとマサキがここに居ない事にしてこの場を収めようと、男達への説得を試みようとしている。
メロンを売って金を稼いだ事を知っているなら、その為の倉庫を建てる為に金を持って街へ行ったという理由は尤もらしく聞こえるのではないか、と。
「兄貴、村中回ったが若い男なんていやしなかった、本当に居ないんじゃ?」
「そんな訳あるか!街に行ったならここに来る途中で出くわすハズだ!」
強盗団は5人それぞれ皮鎧姿にナイフ、ショートソードといった冒険者崩れの格好をしている。というか本来は冒険者なのかもしれないが今は完全な犯罪者だ。
「コイツは人質だ助けたきゃ金持ってくるように伝えろ!」
「おい!一人じゃ弱い、もう一人攫え!」
リーダー格の男に言われた手下が新たな人質を得ようと村人に向ったその時
「待て、お前たち。」
と、強盗団に向って若い男の声がかかる。
「先生!」
人質になっていたクレアが突如現れたマサキに叫ぶ。
「やっぱり居やがったか、おいお前さっさと金出しな!」
勝ち誇ったような調子で男がマサキに命令する。
それが聞こえなかったかのように無視してマサキが続ける。
「村の人たちにケガをさせたら、死んだ方がマシだって後悔する事になるぞ。」
「はぁ?」
男達と比べてもひょろっとした体型の丸腰の若い男のセリフに、何を言っているのかと理解が及ばなかった強盗団は笑いながら答える。
「丸腰のお前が人質取られてんのに何が出来るってんだよ!?」
「・・・警告はしたぞ・」
人質を取られてもなお冷静にマサキは言った。
「アカツキ。」
マサキの声に白狐が男たちの目の前に歩み寄る。
「へっ!そんな犬ッコロがどうするってんだよ?」
一体どうなる事かと固唾を飲んで見守る村人たちの前でアカツキが中空を見上げ
「オォォォォォォォォォォォォォ・・・ン」
と、遠吠えを上げる、それを聞いた強盗団は笑いながら
「ハハッ!そんな小さいのが吠えた所で・・・」
「ウオォォォォォォォォォォォォォン」
「オォォォォォォォォォォォォォン」
文字通りアカツキの遠吠えに呼応するかの様に遠くから遠吠えが木霊した。
それまで眠りに就いていた深い山々の黒いシルエットが遠吠えに反応するかの様に震えたかと思うと、一斉に鳴き声を上げながら鳥達が飛び立ち獣たちも騒ぎ出した。
「な、なんだぁ!!?」
「まさか!狼か!?」
「オォォォォォォォォォォォ・・・ン」
「オォォォォォォォォォォォォォ・・・ン」
おびただしい遠吠えが未だ収まる気配が無い。それどころかかすかに空気が緊張し地面も振動しているかのような、山々の喧騒が村まで伝わってきているかの様だ。
「な・・・何か来る!?」
山々の方向から幾つもの光点が揺れながら津波の様に村へ押し寄せてくる。
「狼の群れだ!」
それは村へと我先に疾走してくる夥しい数の狼の群れの爛々と光る眼光だった。
「狼だぁぁぁぁ!」
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
強盗団も村人達も突然の狼の襲来にパニックになりかけるが、そこへ
「村の皆さん!落ち着いて!この狼たちは村の人には何もしません!」
叫ぶマサキの声に戸惑いつつも我に帰る村人たち、と更に恐怖する強盗団。
狼の群れのリーダー格と思しき5頭がマサキとアカツキの周りに控え、残りの50頭程の群れは強盗団と村人たちの集まる広場を遠巻きに囲み唸り声をあげる。
「こいつらは何もしませんから、村の人達は俺の後ろに来て下さい。」
マサキの言葉にも夥しい数の狼の群れに戸惑う村人達は動けない、そんな中、
「・・・マサキ先生が言うんだから、狼さん達は何もしないんだから!」
カチュアがそう言うや否や、勇気を振り絞ってマサキの元へ歩き出した。
「そうだ、先生が言うなら間違いない。」
「ああ!先生の言う事はいつだって正しいからな!」
年かさのバーツとロディがカチュアに続き、カチュアの左右を固めて進む。
「狼だって先生の言う事なら聞くに決まってるだろ!」
「なんたって先生だからな。」
子供たちが続々と続くのを見て、村人達もおそるおそるその後に続く。
カチュア達が狼の輪の前に進むと、狼達は静かに進行方向を空ける、中には尻尾を振るモノも居る。
「わぁ、凄い!お利口さんだね!」
カチュアが思わず狼の頭を撫でると狼も嬉しそうに尻尾を振る、まるで長年人に飼われている番犬の様だ。
「凄いな、これ全部野生の狼だよな?」
「先生、こっそり山で躾けてたのかな?」
村人たちが全員狼の輪から出た途端にその輪は急激に距離を詰め、唸り声が再開。
輪の中心の強盗団は恐怖で立ち上がる事が出来ずその場にへたり込む、なにしろ目前2m程の距離を牙をむき出し敵対心を露わにした狼たちが周回しているのだ。
『死んだ方がマシ』と言うのは殺さない程度に狼達に喰いちぎられると言う事か。
嫌だ、それは絶対に嫌だ、せめてひと思いに殺してくれた方がどんなに楽か。
男達は無様に泣きながら声にならない許しを請うしかなかった。
「・・・先生、あんたビーストテイマーじゃったのか?」
「それにしたって野生の狼をこれだけの数従えるなんて聞いた事無いよ?」
村長と婆さんの声に『俺じゃなくてこの白狐が凄いんです』とマサキは答えた。
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「さて、こいつらはどうしましょうかね?」
俺が村長にそう尋ねると強盗団たちは『自分達をどう殺す』相談かと思い
「いっそひと思いに殺してくれ!」
「いや、出来れば命ばかりは!」
「俺たちが悪かった!これからは心を入れ替える!だから頼む!」
口々に喚く、こいつらを傷つけたりしても子供達の教育上良くは無いし。しかるべき所に突き出して法の裁きを受けさせるべきだろう。
「・・・街の役人に突き出すのが良かろうな。」
村長の言葉に『村長の旦那、ありがてぇ。』『もう二度とこの村には近づきません!』と安堵する強盗団たち、それなら早速街へ連行する事とする。
『この村に限らず他所でも二度とこのような事をせぬ様、罰は与えるか。』
俺はアカツキ様の言葉に従い、その通りに行動する事にした。
「お前ら、ここにはどうやって来たんだ?」
村のはずれに幌馬車を置いてあるという。うん、それを使えば早く街へ着くな。
「よし、20頭程付いてこい、他は村の警護で留守番する様に。」
俺がアカツキ様の言葉通りにそう言うと、アカツキ様が狼達に指示をする。
リーダー格から20番目までの序列と思われる20頭が残り、それ以外が一斉に村の内と外に散って警戒に当たる様子を見た村人たちが改めて感嘆の声を上げる。
「狼のこんな姿を見る事になろうとは・・・・。」
「野生の狼がこんな素直に従うなんて・・・。」
「先生すげーや!」
じゃあ、ちょっと行って来ますと村人達に言い残して狼達を引き連れ、強盗団を引き回し街へ向かう事になった。
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『お主の引く荷車と違って流石に早いな。』
『そりゃあ、馬が引いてますからね。』
アカツキ様との脳内会話だ、今俺たちは2頭立ての幌馬車に乗っている。
駆け足位の速さだが俺が曳く荷車とは雲泥の差が流石にある。
ちなみに俺は馬車など御せない、この馬車はアカツキ様が馬に街まで行くよう指示を出しており、いうなれば自動運転のような状況になっている。
「ちょ、待ってくれぇ!」
「走れ!狼がすぐ後ろに来てるぞ!」
強盗団たちは馬車の後を必死に駆け足で追ってくる、周りを狼に囲まれながら。
これがアカツキ様の言うコイツらへの罰だ、喰い殺されるよりはマシだろう。
たまに後ろで狼の吠える声が聞こえるのは、男達の一人が転んだ時なのだろう、悲鳴と共に慌てふためく男たちの声がその度に続いている、まぁ死ぬよりマシだ。
流石に馬車は早い、一時間ほどで街まで着くことが出来た。
「あ?メロンの兄さんじゃないか?どうした?こんな時間に?」
街の入り口で声をかけてきたのは顔見知りの門番と他の衛兵二人だった。
『今日は実は・・・。』と説明しようとしたところ
「た、助けてくれ!」
「早く、狼の居ないところに!」
「牢屋だ!鉄格子のある場所に入れてくれ!」
口々に保護を求める強盗団たち、街の入り口近くの詰め所に我先になだれ込み、その奥にある鉄格子に仕切られた小部屋に自ら入ろうとする。
「おい!おまえら勝手にそんなとこに入るんじゃない!」
「早く鍵かけてくれ!今までの悪事を洗いざらい話すから!」
「狼が入ってこない内に鍵かけてくれ!早く!!」
『狼だぁ?何言ってんだこいつ等?』呆れたように男たちを一瞥する門番の背に同僚の叫ぶ声が響く。
「お、狼の群れだ!20頭位居るぞ!!」
「なんだと!?」
一瞬街の入り口付近が緊張感に包まれたが、この状況にそぐわないマサキの声が
「あー、こいつ等俺のツレなんです。」
「はぁ!?」
門番が改めて確認すると、20頭からなる群れは整然とマサキの後ろに控えており、自分たちの主の指示を待ち静かに待機している風に見て取れた。
「兄さん、ビーストテイマーだったのか?それにしてもこれは・・・。」
「狼を20頭も従えるなんて聞いた事もないぞ・・・。」
とりあえず鉄格子には鍵が掛けられ、事情を聞きたいと俺は詰め所に通された。
「助かった・・・これでようやく一息つけるぜ・・・」
「流石にここなら狼達も手が出せないだろう。」
奥の牢屋から盗賊たちの安堵する声が聞こえる、余程怖い思いをしたのだろう。
牢屋の前ではもう一人の衛兵が盗賊たちを尋問しようとしていたが、盗賊たちは安堵しきっている為か衛兵の質問になかなか答えようとしない様だ。
「おい!お前ら、なんで牢屋の中で安心しきってるんだ!?」
衛兵は痺れを切らして声を荒げるが盗賊たちは動じない。
「だってよ、さっきまで狼に囲まれて生きた心地がしなかったんだよ。」
「それに比べたらここは天国・・・ぎゃあああああああああああ!!」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃl!!!」
盗賊達の魂切る様な悲鳴に何事かと牢屋を除くと、いつの間にかアカツキ様が鉄格子をすり抜けて牢屋の中で毛づくろいをしているところだった。
盗賊たちはアカツキ様から少しでも離れようと牢屋の隅に体を貼りつかせ、仲間を押しやり自分だけ背後に隠れようと無様な醜態を晒していた。
「何でも喋るから!この犬を向こうにやってくれぇ!!」
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アカツキ様は盗賊をからかうのにも飽きたのか俺の座る横で毛づくろいをしている。
狼達は詰め所の前で大人しく寛いでいるが、たまに表を通りかかった人が悲鳴を上げる逃げていく事もあるがまぁそれはそれで仕方ない。
「で、あいつらなんだが、色々やらかしている賞金頸だったよ。」
何か知らんが聞いても無い事までべらべら吐いたよ、と困惑顔の衛兵。
「邪神の復活が迫ってるからって、山奥に隠れ家を作って身を隠そうと算段してその資金を稼ぐために犯罪に手を染めてたようだな。」
ここでも『邪神の復活』の話か、今まで村や街ナカでその話題は聞いた事がない。
衛兵に尋ねると多くの人は避けようのない事なので半分諦観、半分は何とかなるだろうと楽観して現実から目をそらして話題にも出さないのだと言う。
王国の方針としては封印を強化して時間を稼ぎ、その間に対邪神の戦力を整えたり、新たな攻撃魔法や火器の開発に力を注ぐ事に注力しているとの事だ。
「そんな訳で、対邪神の勢力相手の戦力も募集してるんだが、あんたどうだい?」
狼の群れを操るビーストテイマーなんて世界中どこを探そうと居やしないから、かなりの好待遇で迎えられるはずだと太鼓判を押され、王都へ行く事を勧められた。
面白そうな話ではあるが、軍に所属してしまったのでは自由に動けなくなるし状況を調べてからでないと即答しない方が良いだろう。
「少し、時間をください。」
俺はそう言い一旦村へ戻る事を告げると、『まぁ、前向きに考えてくれ。』と衛兵から革袋を手渡された。その中身を見てみると結構な数の金貨が入っている。
「あいつらを捕まえた分の賞金だ、金貨100枚ある。」
懸賞金か、とりあえず有難く頂くことにするか。
それと盗賊が用意していた幌馬車だが、馬は世話が必要になって保管が面倒なので持って行かないかと打診されたので、帰りの足代わりに乗って帰る事になった。
帰りも『アカツキ様』の自動運転である。
『そうか、邪神の復活・・・お主が呼ばれたのはこの為であったか。』
帰りの馬車の中でアカツキ様がそう呟く。
邪神が復活し害をなそうとするのは人間種に対してだけではなく、あらゆる神々、精霊に対してでもあった事を思い出した様だ。
もしかしたら邪神の最終目的は神々と精霊の抹消なのかもしれない、人間種の絶滅は目的ではなく手段であり、神を信仰する人々の消滅=神々の消滅と言う事か。
『神々が力を失いかけている現状、その可能性は非常に高い。』
『一刻も早く世界を巡り、神々の覚醒と邪神の復活の阻止の方法を探らねば。』
それにどれ位の時が必要かは解らないが、覚悟はしておけとアカツキ様は言う。
何時かはそんな日が来るとは思っていたが・・・とうとう村から離れなければならない時が迫って来たのか・・・。
「少し、時間をください。」
気が付けば衛兵に言ったのと同じ言葉を口にしていた。




