序章
タバコの煙とカフェインを摂取しても、頭が冴えなくなってきた。
度重なる仕様変更によるイライラは、体の疲労感で上書きされている。体に染みついた動作を、霧がかった思考のまま実行する。
赤字で表示されたエラーメッセージを読む。該当行を見る。
単なるタイポだったりしないかな。渡す引数を間違えてるだけじゃないかな。初期化のし忘れか?
簡単に修正できるパターンであってくれという願いは数秒で打ち砕かれた。
あきらめ、数行の文字列を書き換えていく。
「ここまでやっておけば明日には……いや、もう最後までやるか?」
止めるか続けるか、決断がつかない。先延ばしの言い訳をするように、切れたタバコを買いに行くことを選択する。
「雨降ってたのか」
ビルの外階段につながる扉を開けると、外は思ったより冷えていた。夜になって、小雨が降り出していたようだ。傘も上着も必要ない程度の雨だ。しかし、今の精神状態では、その程度の雨でも心に波を立ててしまう。
足を運ぶスピードが速くなる。踏み下ろす足が段々と力強くなっていく。踊り場を曲がり、さらに下の階へと階段を下りる。ビルの外に出ようとする。
タバコは買えなかった。
階段を下りている時、後頭部に激しい鈍痛が襲ったことを思い出した。荒い降り方をしたせいで、転んだのかもしれない。
手足に力は入らない。タバコの煙を深く吸い込んだ時よりも、何十倍も強烈に緊張がほぐれていく。同時に、体が冷めていく感覚に襲われる。
一度目覚めた意識も、自分の状況を理解した途端に薄れていく。
あきらめ、ゆっくりと目を閉じる。
幸いにも痛みはもはや感じない。薄れゆく意識の中で、後悔の言葉が湧き出ては消えていく。
「ハードディスクの中身、消しておきたかったな。」
「俺の借金ってどうなるんだろ。」
「カレー冷蔵庫に入れ忘れてたー。」
「……さっきの修正、コミットしたっけ?」
「……」
「……」
「……」
「」




