日記
日記帳というものを買った。
日記とは、個人が日々の出来事を記録するものらしい。
殿下の側近になるのであればと、父上に感情を人前に出すことは禁じられた。
この日記帳にだけなら、ありのままの私の気持ちを書いてもいいだろうか。
日記帳は鍵付きだから安心だ。
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今日は王太子妃教育のためエルサ・ヴェルファイア様が王宮にいらしていたが、殿下は会われなかった。
いや、今日もか。
殿下はヴェルファイア様のことがまだ苦手らしい。ヴェルファイア様は公爵令嬢として育てられ、王太子妃教育もあり、私と同じように感情を表に出すことを禁じられている。笑顔がない、堅苦しい、息が詰まる・・・などとおっしゃられていた。
ヴェルファイア様は、花が好きで、王太子妃教育の合間によく庭にいらっしゃる。
花を見ながら、蝶を見ながら、微笑んでいることがある。
今日は夕方まで庭のベンチに座っていた。
下を向かれていたが、なにかあったのだろうか。
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殿下とレベッカ・アイル男爵令嬢と生徒会室で学園祭について話し合っていた。
アイル嬢は男爵家の養女で、入学試験を2位で通過した勤勉な女性だ。1位はヴェルファイア嬢だった。
アイル嬢は男女問わず人気があり、学園での学びは等しく平等との校風もあり、殿下にも臆さず意見を言う。
殿下はそんな彼女と話した日は機嫌がいい。
殿下は考古学が好きだ。アイル嬢も考古学について詳しいため、今度の調査にも調査員として正式に調査に同行予定となっている。もちろん私も同行する。
先日サプア国の王太子様王太子妃様がいらっしゃたとき、ヴェルファイア様も流暢なサプア語で意見交換をされていた。
知見の広い女性はとても素晴らしい。私も見習わねばならない。
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最近妙な噂が学園で広まっている。
アイル嬢と殿下が恋愛関係にあること、アイル嬢に対しヴェルファイア様がきつく当たっているということ。
殿下の側近であり、常にともに行動しているが、殿下とアイル嬢は恋人関係にはない。
ヴェルファイア様とアイル嬢が話しているところもみたことがない。
アイル嬢も生徒会室でうわさを否定していた。
私の双子の妹にヴェルファイア様のことを気にかけるようお願いした。
私も殿下の不利益にならないよう対応する。
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アイル嬢が足を怪我していた。階段から落ちてしまったらしい。痛そうだ。
しかし、その怪我がヴェルファイア様がアイル嬢を階段から落としたという噂が広がっている。
アイル嬢は誰かに押されたと証言している。妹に聞くと、ちょうどアイル嬢が階段をふみはずしたところを見ていたようで、その時ヴェルファイア様は教室にいたとのこと。
噂の出所はどこであろうか。殿下もヴェルファイア様を心配している。
側近として、調べる必要がある。
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アイル嬢と、ヘレン・ミラー侯爵令嬢が裏庭で話をしていた。
珍しい組み合わせだ。クラスも違うはずだが。
アイル嬢は男女ともに慕われているからだと思うが、なにか違和感が残る。
なぜだろう。
殿下が沈静化しない噂に辟易している。
はやく私がどうにか対処しないとならない。
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違和感の正体が分かった。
派閥の違いだ。
アイル男爵家は新興貴族であり改革派、ミラー侯爵家は保守派である。ヴェルファイア公爵家は中立派だ。
学園では身分の差も派閥も建前上は関係がないことになっている。話していても問題はないが、ミラー嬢自身も保守的な考えが強く、改革派の貴族を嫌っていたと思うのだが。
また、今日噂の出所が分かった。
ミラー嬢のようだ。ミラー嬢がそんな噂を流して何になるというのだろう。
父にも報告しておこう。
しかし問題解決能力も側近として必要なこと。
学園での対応に当たることにする。
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調査に当たるため殿下のおそばを抜けることが多くなったため、同じく側近のダレン・ファイアウォールに殿下のことを頼んでいたのだが・・・。アレン嬢と殿下の距離が以前より近い気がする。ダレンに聞いてもそんなことはないというが・・・。
殿下に伺っても否定された。ただ、昼休みにお二人でお食事をとるのは婚約者がいる身としてどうなのだろうかと話したところ、殿下に頭が固いと笑われた。しかし、断固としてよろしくないと進言させていただいた。側近たるもの、殿下を守らなければならない。変な噂はたてられない様に徹底する。
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父上から話があった。ミラー侯爵家はヴェルファイア様とともにぎりぎりまで婚約者候補だったようだ。ヴェルファイア様が選ばれたことで、ミラー侯爵は大変面白くなく思っているようだ。アレン嬢を取り込んで、ヴェルファイア様を失脚させるつもりかもしれない。父上にはさすがに行き過ぎた妄想と失笑されたが、とにかく注意はするようにとは言われた。
ヘレン嬢とアレン嬢の動きをしばらく注意してみておく必要がある。危険な芽は大きくなる前に引っこ抜かなくてはならない。
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ヘレン嬢とアレン嬢の接触がまたあったと妹より報告があった。
ヘレン嬢は、殿下を接触させて恋愛感情を持たせ、アレン嬢を妾にする代わりに将来的に自分が王太子妃になれるようヴェルファイア様の失脚を狙っているようだ。アレン嬢は純粋に殿下を懸想しており、身分さは分かっているため妾でもよいとヘレン嬢の話に乗ったらしい。男爵も知っているのだろうか。より調査が必要だ。このことは父上に報告する。ここからは父上でないと対応できないのがもどかしい。
現在、ヴェルファイア様は王太子妃教育の一環として、異国間交遊のため隣国に赴いている。しかし、不在なのにもかかわらず、ヴェルファイア様がアレン嬢に害をなしていると噂が立っている。アレン嬢もそれとなくヴェルファイア様のせいと言っているように聞こえるときがある。
ヴェルファイア様も昨日帰国された。殿下の好きな考古学の書物を買ってきたらしい。殿下も喜んでいた。子供のときみたいだ。お二人が仲良くされているのは私もうれしい。
ヴェルファイア様が少し微笑んでいたことは見なかったことにする。
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調査結果が出たと父上から話があった。男爵もこの件に絡んでいるらしい。
明日王宮に関係者を集める予定だと話された。証言人として、自分も出席する予定だ。
明日全てが終わる。
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今日は疲れた。
いろいろなことがあった。
眠いから詳しいことは明日書こうと思う。
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王国新聞
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|ルイ・オーストン公爵令息が、何者かによって襲われ重体 |
|アレン男爵家、ミラー侯爵家が関連しているとみられ、王家により捜査中 |
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日記を書くのに1か月も時間が空いてしまった。
貴族男子たるもの、刺されて意識を失うと何たる失態。さらに鍛錬せねばならない。
結局犯人は、ファイアウォール侯爵家が手配した者だった。裏にはミラー侯爵家、アレン男爵家も絡んでいた。
ファイアウォール侯爵は権力欲が高く、父上が宰相の立場にいることを面白く思っていなかった。そのため、ダレンを第一側近にしたく、ミラー侯爵家と手を組んでいたらしい。
三家にはこれから厳しい裁判が待っている。
アレン嬢のたくらみは殿下も気づいていたが、そのうえで、ダレンと私の側近の能力を試していたらしい。
ファイアウォール家についてはまだ分かっていなかったため私を危険にさらしてしまったと、殿下に謝らせてしまった。ファイアウォール家、ダレンのことを把握できていなかったことは私の失態だ。
ヴェルファイア様にも謝罪と、妹のことも知っていたらしくお礼を言われた。
これからもお二人の力になりたい。まずは、体を鍛えよう。騎士団長に指南を依頼した。
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※ルイ・オーストンは、史上最年少で宰相となり、王国の発展に貢献した。しかし、顔に切り傷があり、いつも眉間にしわが寄っていること及び鍛え上げられた肉体により、剛健宰相と呼ばれ恐れられた。オールストン家はそれまで文官の家系だったが、文武両道を家訓とし、歴代の公爵は皆マッチョである。なお、日記は家宝として先祖に引き継がれている。




