シンデレラの愛
シンデレラは毎日、意地悪な継母と二人の義理の姉にこき使われていました。そんな彼女をかわいそうに思った魔法使いが、ある晩、魔法をかけて彼女をお城の舞踏会へ送り出しました。しかし、その翌日のこと……。
「あら、シンデレラ。なんだか浮かない顔をしてるけど、どうしたの? 昨晩の舞踏会で何か失敗しちゃった?」
魔法使いは、切り株に腰掛け、ため息をつくシンデレラに話しかけました。シンデレラは答えました。
「ううん、舞踏会には行ってないの」
「え、どうして? かぼちゃの馬車で送ったでしょう?」
「うん、でも途中で降りたの」
「どうして? 体調が悪くなったの? あ、緊張しちゃったのね」
「ううん、ドレスと靴を売りに行ったの」
「売った!?」
「でも、思ったより高く売れなくて。はあ……」
「それで落ち込んでたの!? いや、ちょっと待って。十二時の鐘で魔法が解けるってちゃんと説明したわよね? 売ったドレスも消えちゃうのよ?」
「うん、だから売ったのよ」
「この子、お店に迷惑がかかることを承知で……あのね、シンデレラ。あのドレスと靴は、あなたに舞踏会を楽しんでほしくて出したのよ。それを売ってしまうなんて、私の気持ちを踏みにじる行為だと思わない?」
「ごめんなさい……」
「……まあ、わかればいいわ。来週も舞踏会があるから、次こそ楽しんできなさいね」
そして翌週、舞踏会の翌朝――。
「あの、シンデレラ。どうしてまた落ち込んだ顔をしているの? あ、緊張してダンスのステップを間違えちゃった? うふふ、ドジなんだから」
「違うの……舞踏会には行かなかったの」
「え、また? どうして?」
「売ったの」
「また!? なんで!?」
「思い出よりも、お金として手元に残ったほうがいいかなって……」
「あー、そうね、うん、そうね、はい……。あのね、シンデレラ。これはね、自分への投資だと思ってちょうだい。もし、王子に気に入られて結婚することになったら、たくさんのお金があなたのものになるのよ」
「でも、それは王子様のお金でしょ? 私が稼いだものじゃないわ」
「何よ、その自立心は……。それに、厳密には、ドレスと靴を売ったお金もあなたが稼いだわけじゃないと思うけど……」
「あの一式は私がもらったものだから。ちなみに今回は馬車も売ったわ」
「この子、目が怖いわ……。とにかく、いい? 来週も舞踏会があるから、次こそちゃんと行くのよ。いいわね? ね!」
「わかったわ」
そして翌週、舞踏会の翌朝――。
「シンデレラ……おっ、今回は明るい顔してるじゃない! 私の投資の話はちゃんと理解していたようね」
「ええ、だから舞踏会には行ったわ」
「ああ、よかったわあ。それでどうだった? 王子と踊った? 楽しかったでしょう!」
「ええ、ほら、このドレスを見て! 今回は売らずに、他の女の子と交換したの! 魔法が解ける前にこっそり抜け出してね。きっとその子、裸になったわ、ふふふ」
「おー、この子、悪魔に魂を売ったのかしらね」
「このドレスも高く売れそう。本当にありがとう!」
「いや、楽しみ方が違うのよねえ……。ねえ、いい? シンデレラ。また来週、舞踏会が開かれるから、今度こそドレスを売らずに! 交換せずに! ちゃんと参加してきなさい!」
「毎週舞踏会を開いているのね。王子様って暇なのかしら」
「まあ、お金持ちはそういうものよ」
「社会の歪みだわ。働かざる者食うべからずって言葉を知らないのかしら」
「いいから必ず行くのよ」
そして翌週、舞踏会の翌朝。城下町はてんやわんやの大騒ぎ。王子様に見初められた美女がガラスの靴を落として消えたというのです。王子様の家来がその靴を手がかりに、彼女を探していました。
しかし、シンデレラが以前売ったガラスの靴の買い手が名乗り出て、なんと王子様と結婚してしまったのでした。
事態を知った魔法使いはシンデレラのもとへ駆けつけ、彼女に訊ねました。
「ちょっと、シンデレラ。どうして名乗り出なかったのよ。まだガラスの靴が片方残ってたでしょ?」
「あれって、十二時を過ぎても消えないのね。どうして?」
「そういう仕様なのよ。それで、どうして名乗り出なかったの?」
「売ったの」
「また売ったの!? 片方しかない靴を!?」
「片方でも売れるのね。鑑賞用かしら」
「もーう、シンデレラ……どうしてあなたは目先のお金ばかりにとらわれるのよ……。玉の輿に乗れたのよ。何不自由ない生活が手に入ったのに……」
「お金を貯めて、どうしても欲しいものがあったのよ」
「だから、それは王子と結婚すれば簡単に手に入るじゃないの……ん? それは何? 指輪?」
「ええ、魔法使いさん。私と結婚してください」
「えっ、あー、そう来るのね……ははは、参ったわ、これは」
魔法使いはシンデレラから指輪を受け取り、二人はいつまでも幸せに暮らしたのでした。