表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/35

【4】まちかど 1.迂回

舞台は現代に戻ります。

「ノブちゃん何時に来るの?」

「十一時だからそろそろじゃない?」

 話しているうちに車が来た。

「おばさん、ちょっとお借りします」

 今日は、本人曰く〝先日の借りの一食〟を返してくれるのだと言う。家で一緒に食事はするが、連れて行ってもらうのは初めて。「仕事は?」と聞くと「二時まではオフ」と返って来た。「食べたいものは?」と聞かれたが、特に思い当たらない。「任せる」と言うと、繁華街に入り駅近の市営に停めた。

「ステーキ丼て食べたことある?」

「ううん」

「じゃ、それにしよう」

 連れて行ってくれたのは、アイスクリームショップ二階のこじんまりした洋食屋だった。ドアが開いて、床の橙色と街路樹の深緑が一瞬目の奥を刺した。が、すぐ戻った。まだ二組しかおらず奥の窓際に。人によるだろうが私は奥が好き。メニューを見ることもなくノブ兄は頼み、あまり待たずに甘い匂いのする器が。

 初めて食べるステーキ丼は一口で忘れられない味になった。


 二時までには間があるので、久しぶりに街ブラ。たまに母とデパートへは来るが、ここまで来たのは学生の時以来。裏道が広がり住宅だった場所があちこちパーキングに。お店もほどんど入れ替わり飲食系が増えていた。

「ねえ、よくこっちに来る?この辺のお店入ったことある?」

「いいや。サブと会うのはサテンだし。さっきの店も最初に連れて来てくれたのはサブ」

 ノブ兄は、自販機を見つけコインをガチャ。二本買って横の木陰に。

「おばさんに、たい焼きでも買って帰ろうか?」

「ううん、いい。きっと並んでるだろうし。それにあのお菓子もまだあるし」

「まだあるの?」

「うん。気に入ったみたいで、大事に食べてる」

「へーえ。あそこ、行ったらいいのにな」

「あそこ?」

「そう。だけどちょっと遠いか」

「そうだね。二人で行くなら二、三時間で行け――」

「八重垣先輩!」

 女性の声。

「何してるんですか。こんなところで」

ウェーブヘアをナチュラルに束ねた美女だった。

「浅依こそ、何してんの?」

「私は来月載せる飲食店の取材です」

「俺今オフなの。シフト表見てない?」

 美女をスルーしボトルを捨てた。


 ノブ兄はスタスタと先へ。でも、帰路は逆方向だ。戻るならその信号を……と、いきなり振り向いた。

「あの子、入ったばかりの新人。何かとつっかかって来んのっ。誰にでもそうだけど、特に俺に酷いかな。最近は殊にひとのスケジュールチェックしてて。こういう仕事はアバウトなトコもあるからさ、全て自分流儀には行かないって、そろそろ気づいてほしいところっ」

「あー、きっちりさんなんだ」

「まあそう。それで他人(ひと)のことまで気になる。君には関係ないでしょって言ってやりたいけど、言えば角が立つしなぁ」

 「それってそういうことなんじゃない」が喉まできたが、照れ隠しということもあるのでストップ。合いの手が入らないのが気になったのか私の顔をチラリ。と、またすぐ「戻るか」と変わった信号をスタスタ。

 駐車場に着くと、さっきはなかった標識と迂回路板が。ノブ兄は「あれま」と漏らした。


 車は橋の方へ戻らずガード下をくぐった。

「遠回りはいいんだけどさ」

 言いながらハンドルを左へ――平らな道、広い歩道、両側には……。

「悪いな。すぐ抜ける」

 車は加速。あの辺りをノンストップで抜け左折の信号で初めて止まった。ひたすら正面を見つめていたが首が自然に左へ。ライトグレーの広がりと向き合った。質感から大谷石かと思ったがよく見ると凸凹はレリーフで、大きな菱形の中に沢山の小さな菱形。しかも、目を凝らすとどこもかしこも。車が動き出すと、胃がグっと押し上げられた。

 少しすると、生唾が……。視点もウヨウヨ。気づいたノブ兄が脇道に入り急いで窓を下げた。

「やっぱり、こっち通ったのマズかったなっ」

「ううん、そうじゃない」

 私は目を覆った。

「じゃあ、どうしたんだ?」

「さっき、信号の所で壁を見てたら……」

 見えた通りを口に。

「主の好みなんだろうが、迷惑だなそれっ。菱形……菱形ねぇ……ん! もしかすると『ヒシタケ』か?」

「ヒシタケ?」

「ああ、この地方の建設業界のボスさ」

 話しているうち気分は直り、一時過ぎには寺へ。出て来た母に「おばさん、明日の晩また来ます」と言って戻って行った。

ここまでお読みただきありがとうございました! 今回の現代編はあと四話続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ