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第二話「このファンタジーは私のものなんです!」

 次の日の朝。妖精たちと戯れる幸せな夢を見ていた私は、目を覚ましてから現実との落差に軽く絶望した。

 昨日の放課後。ついに妖精たちを発見したというのに、本当に見るだけで終わってしまった。一生に一度あるかないかの大チャンス、もっと積極的に行くべきだった。

 しかし後悔しても、もう遅い。私は重い足取りで学校へと向かった。

「おはよー」

 そして気の抜けた挨拶をしながら教室へと足を踏み入れたところで、私は我が目を疑った。そして瞬きを繰り返した後で、更に二度見をした。

 日常感溢れる朝の教室に、何食わぬ顔で座っている少年。もう少し後なら分からなかったかもしれないけれど、さすがに昨日の今日では忘れようがない。それは間違いなく、昨日の少年だった。


 昨日は妖精にばかり気を取られていたし、元々交流のないクラスメイトの男の子と、妖精を連れた不思議な少年の顔が、私の中で一致していなかった。

 でも、こうして見れば間違いない。

 彼の名前は、タチバナ・ユウキ。

 どこのクラスにも一人はいる、クラスの代表を任されるような優等生。そんなお堅い印象の彼が、どうして妖精たちとお友達になったのか。何か探し物をしているようだったけれど、一体どんな事情で何を探しているのか。興味は尽きない。

 例えばだけれど、その何かを私が先に見つけたら、私も仲間に入れて貰えないだろうか。妖精たちが手分けしても簡単には見つけられない物みたいだけど、図鑑の通りなら妖精たちには苦手なものがあるはずだ。見た限りだと自然の中で生まれた妖精たちっぽいし、逆に人の手で造られた頑丈な建物なんかは苦手かもしれない。例えばそう…、校舎とか。

 うん。それなら私が入り込む余地があるかもしれないな…。

「…って、ユメミ聞いてる?」

 正面からアサヒに問われて、私は慌てて意識を引き戻した。

 時刻は既にお昼休み。いつものようにアサヒと向かい合わせで、お弁当を食べている途中だった。

「もー、今日は朝からおかしいじゃん」

 それはそうだろう。こんな事があって、冷静でいられる方がおかしい。さようなら昨日までの退屈なリアル。こんにちは私のファンタジー。

「あのね…っ」

 私はそんなテンションのまま、アサヒに昨日の出来事を話そうとして…、止めた。

「ん? 何?」

 最近の彼女はファンタジーに対して、あまり熱心であるとは思えない。そんな彼女にファンタジーに触れる資格があるだろうか?

「…うぅん、何でもない」

 いやいや、なんてね。別にそんな心の狭い理由じゃなくってね。

 ユウキ君にもほら、都合があるかもしれないし?

 それでなくとも、勝手に言いふらすのもどうかと思うし?

 やっぱりこの事は、私の胸の中だけにしまっておく事にしよう。そうしよう。

「ふっ、ふふ…っ」

 自然と笑みのこぼれる私を、アサヒは不思議そうな顔で見ていた。

「………きも」


 そして待ちに待った放課後である。私は気付かれないようにユウキ君の後を追いかけ、校舎裏までやって来ていた。

 昨日はすぐに話しかけなかった事を後悔したが、彼がクラスメイトだと分かった以上、焦る必要はない。私は今日も木陰に隠れながら様子を窺った。

 彼は今日も校舎裏に佇み、妖精たちに話しかけていた。

「ああそれにしても、宝珠はどこへ行ってしまったのだろう。闇の妖精の魂の欠片で出来た闇の宝珠は」

 …ユウキ君って、こんな喋り方だったかな。

 それにしても宝珠。宝珠かぁ。宝珠と言うからには丸い玉なんだろうな。

 それを見つけたら、私にも妖精たちを紹介してくれないだろうか。

「夏休みを全部使ってあちこちの世界へと行ってみたけれど、どの世界にも宝珠はなかった。あれがないと妖精の世界を救えないというのに」

 何それ楽しそう!

 妖精の世界も良いけれど、他にも色々な世界があるのか。ユウキ君はどんな世界に行った事があるんだろう。是非とも詳しく聞いてみたい。

 私が空想の翼を広げていると、パキッと何かが割れる音がした。

「ん?」

 自分が何か音を立ててしまったのかとも思ったけれど、よく考えたらそもそも動いていない。

 ユウキ君たちの方を見てみると、彼は空中のただ一点を見つめていた。その視線を辿ると、そこにはヒビ割れのようなものがあった。

「魔王か!」

 ユウキ君が身構えると、ヒビ割れを押し拡げるようにして空中から右腕が生えてきた。人間を握り潰せそうなほどの巨大な腕が。

 いやいやいや! 魔王って何? 世界観が違うじゃない!?

「カザミ、音を消して! ここじゃ今までのようには戦えない。僕はこの世界で生活してるんだから!」

 ユウキ君がそう言うと、周りの雑音が聞こえなくなった。カザミと言うのは風の妖精のはずだから、校舎裏の大気を操って音が通らないようにしているのだろう。多分。

『ホウジュヲ・ヨコセ…』

 これまでに聞いたどの妖精のものでもない声がした。多分、魔王の声だ。

「カエン!」

 ユウキ君が呼びかけると彼の右腕が燃え上がり、炎の塊を空中から生えた魔王の腕へ向かって叩きつけた。

『ヨコセ…』

 しかしそれを物ともせず、魔王の腕はユウキ君に掴みかかろうとする。

「ミナモ!」

 今度は空中に透明な円盤が現れた。円盤は魔王の腕が当たると、まるでゴムのように伸びてそれを受け止めた。

「ツクシ!」

 その間に彼が更に呼びかけると、足元の地面が盛り上がっていき、土で出来た筋肉質な兎の巨人が出現した。

『お任せですぞーっ!』

 魔王の腕と比べると少々見劣りするが、兎の巨人は二本足で立ち上がると、動きを封じる為に魔王の腕へと組み付いた。


 妖精がいて、魔王がいて、魔法を使って、戦って。それも確かにファンタジーだろう。

 けれどそんな戦いを、しかし私は最後まで見届ける事が出来なかった。

 何故なら私は、怖くなって逃げ出してしまったから。

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