22【仕立て直し】
一方、その頃──。
ギランタウンの高級女性用洋服店にジェシカが来店していた。
時間は夕暮れごろだった。ジェシカは早番だったので夜になる前に仕事が終わったのである。
そして、先日お店に寸法の仕立て直しを依頼していた下着を取りに来たのである。それはアトラスから貰った下着であった。
ジェシカが店内に入ると明るい笑みで店の女将さんが迎えてくれる。ジェシカも明るい微笑みを浮かべながら言った。
「あの～、先日依頼した下着の仕立て直しは終わりましたか？」
「はい、終わっていますよ。こちらで宜しいでしょうか」
言いながら女将さんが黒いブラと黒いパンティーを持ってきた。ブラは棟のサイズが大幅に拡張されており、パンティーは腰回りが延長されている。
何しろアビゲイルとジェシカのスタイルが違いすぎるのだ。アビゲイルは細くて胸がぺったんこなぐらい小さい。腰まわりも細すぎる。
それに引き替えジェシカはムッチムチのエロエロボディーなのであった。セクシーなのは良いが太さが違う安産型なのである。だからブラもパンティーも大幅に寸法の仕立て直しが必要だったのだ。
「うわぁ～～♡」
期待に瞳を輝かせるジェシカが黒いスケスケランジェリーの下着を受け取った。そしてジェシカは歓喜に力みながら声を震わす。
「これなら着用できるはずだわ……」
「お客様、試着して参りますか？」
「ええ、良いかしら。それなら試着室を借りますね」
「どうぞどうぞ、こちらに」
そしてジェシカは試着室で服を脱ぐと仕立て直された下着を上下共に着込んでみる。そして、姿見の鏡で全身をくまなくチェックした。
「ピッタリだわ。胸の締め付けも苦しくないし、下の履き心地も最高ね。流石は高級品。これならあのアトラスから貰ったものでも我慢できるわ」
ジェシカの給料はあまり高くない。しかも稼いだ一分を実家に仕送りしなければならない。だからジェシカには、このような高級品である下着なんて買えるだけの財力は無いのである。そもそも仕送りをしなくっても、普通の待ち娘には高級品下着は高望みなお洒落なのだ。
「この下着ならば10年は戦えるはずだわ！」
ガッツポーズを決めたジェシカは服を着ると試着室を出た。そしてアトラスから貰った仕立て直し代で会計を済ませると店を出ていこうとした。
そこで、店の出入り口側に置かれた可笑しな物か目に入ったのだ。それは女性用下着屋には不釣り合いな物に見えた。
「あれ。何かしら、これ？」
それはショーウィンドウに飾られたコーヒーカップだった。そのコーヒーカップには二本の紐が括られている。そのコーヒーカップが気になったジェシカは女将さんに訊いてみた。
「女将さん、このコーヒーカップは何ですか？」
女将さんは困った笑顔で答えてくれた。
「うちに下着を下ろしてくれている職人さんが居るんですがね。その方が今年絶対に流行る最新の下着だから試しに置いてくれってしつこくって……」
「こ、これが下着なの……？」
コーヒーカップに紐だけの代物。これが下着とは到底思えない。
「そうらしいです……これでも下着ですって……」
「しかも、今年流行る最新の下着なの……？」
「そ、そうらしいです……」
二人の女性は困りきった表情を浮かべていた。絶対にブームなんて来ないだろうと予想している。
「下着の世界って、奥が深いんですね……」
「ははっ……」
女将さんは愛想笑いを返すばかりだった。とにかく、流行とは難しい世界である。
