衝撃
彼女と視線を交わしたまま、10秒ほどの時間が経過した。
「あのぉー、どうしたんスか?」
茶髪の店員が沈黙を破る。
固まった彼女を変に思ったようだ。
が、その言葉を遮る様に彼女が口を開いた。
「お客様、当店のポイントカードはお持ちでしょうか」
…?
ポイントカード?何を言っているんだ、彼女は。
先程彼女が見せた驚愕の表情。驚いたと言う事は、僕がここに現れた意味を理解していると言う事だ。
つまり、彼女にとっては「殺したはずの人間が再び目の前に現れた」という状況なのだ。
その様な人間に対しての第一声がポイントカードの保有について。
あまりの混乱によって支離滅裂な事を言っているのかと思った。
しかし目の前の彼女は先程の驚愕を完全に抑え込んだかのような無表情で僕を見ている。
「お持ちでない様でしたら、今すぐにでもお作りいたしますよ」
「サービスカウンターへどうぞ」
あぁ、そう言うことか。
彼女は混乱から回復した訳ではない。
だからこそ、と言うわけか。
彼女は僕を知ろうとしているのだ。一対一で話す事で。
彼女はポイントカードをお客様に提供したい訳ではなく、店員として自然な流れで二人きりの空間(サービスカウンターという開放的な場所ではあるが)を作ろうとしているのだ。
つまり、僕に対して何らかのアクションを起こそうとしている。
そんな彼女について行くべきか。
…勿論、否である。
僕は彼女に殺されたのだ。そんな相手ともう一度二人きりになるなど、スーパー内といえど正気の沙汰ではない。
「いえ、結構です」
何ならすぐにでもこの場から逃げ出したい。
「お釣りはいりませんので」
とバブル期の様なセリフを残し、500円玉を繰り出してその場を離れようとする。
しかしーー
「お願いします…少しお話をさせて下さい…」
先程の店員としての凛々しい態度とは打って変わったようなしおらしい態度の彼女。
その声色から感じられる感情としてもっとも当てはまるのは「懇願」であるだろう。
「本当にお願いします…」
「…ポイントカード、やっぱり作りたいんですけど」
折れてしまった。