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6話 天使の翼は自由を求める(3)

この世界は実力主義である。その世界において天才と呼ばれるものは数少なく、秀才とは天と地ほどの差がある。だが、その“ギフト”を得たものはそれ相応の対価を払わなくてはならない。どんな天才であろうと…。


赤くなっていく空の下、葵は自宅までの一本道を歩いていた。(何か…いやな予感がする)虫の知らせのように何かを察知した葵は自宅まで走る。そして玄関の扉を蹴破るように開け、そのままの勢いで自室の扉を開けた。そこには、今朝までのきれいとも汚いとも言い難い部屋がきれいさっぱりなくなっていた。葵がことばを失い、唖然としているとリビングの方で声がした。「このトロフィーとかはよく売れそうね。これで借金はチャラよ」と声高らかに言う叔母の声が聞こえた。葵はリビングの扉を無言で開ける。そこには葵が取ったトロフィーや盾が机の上に置かれ、その傍らにはゴミ袋、よく見ると今まで自分が取った賞状がビリビリに破られて入っていた。葵は今まで見せてきたような雰囲気をなくし、鬼の形相で叔母の胸ぐらを掴み、壁に叩きつけた。

「どういうこと?!なんでこんなことをしてるの?!」と叔母の胸ぐらを掴みながら問いただす。すると、何者かに後ろから肩を引っ張られて態勢を崩した葵は胸ぐらを掴んでいた手を放し、咄嗟に受け身を取った。肩を引っ張ったのはどうやら従姉妹のようだ。「どうもこうも、あなたはもううちの養子じゃないの。だから、要らないものを処分しているの。」と従姉妹は淡々と話し続ける。それに続けて叔母も話す。「なんでなんの利用価値もないあなたを養子に迎えたと思ってるの?確かにあのATM(旦那)に無理を言われたからってのもあるけれど…、成長したあなたを売ることで得る利益の方が大きい、と考えていたの。でもまさか…こんな才能を持っていたなんてね。」とトロフィーをつかみ取る。「これで…もっっとお金が入る…。だから、あなたはわたしたちのためにお金になって欲し…」「ふざけないで!」と叔母の言葉を遮るように葵は叫ぶ。「わたしが…私がどれだけの努力を重ねて…あの高校に入ったと思ってるの!?全部…全部あなたたちに認めてもらうため…陸上で全国取ったのも!高校の推薦取るために苦手な勉強頑張ったのも!あの高校に入ったのだって…国公立大学にいって、家族のために良い会社に入るため…。なのに…なのになんで!」と涙を流し、怒りを言葉にしてぶつける。

「それがむかつくのよ」そう言い放ったのは従姉妹だった。「あんたが頑張れば頑張るほどあなたの価値は上がる。でもね…」と従姉妹は床に座りこむ葵の前でかがみ、髪を掴む。「その分、私の株は下がっていくの。『あなたの従姉妹は天才なのにあなたは凡人なのね』って言われる気持ち…あなたに分かる?分からないよね?だって…あなたは天才だもん。だから、そろそろ潮時かなって、あなたの価値と、私の価値が丁度いいのが今なの、だから…私のために…消えて」そう言い、髪を掴んだまま立ち上がり、葵の腹目がけて蹴りを入れ、髪を放した。葵はお腹を押さえ、床にうずくまった。

天才とはどういった人物なのかを葵は理解していた。天才とは同じく天才としかわかり合えないのである。これは、才能どうこうといった話しではない。凡才が天才を拒絶するのだ。凡才は自分の理解の及ぶ範囲でのみ物事を判断する、天才かいぶつとは相容れないのだ。それ故に天才を恐れず対話を試みるものは同じく天才か…


「だれか…たすけてよ…」と無意識に葵の口からこぼれ出る。その言葉が出たことに葵自身は(私みたいな人間が助けを求めても…誰も助けてくれない…)と苦笑し、再び涙を瞳に溜める。そのとき、葵に悩みの種を植え付けたもう一人の張本人の声が聞こえた。「なんだ…ちゃんと、言えるじゃないか」(何?幻聴?なんで、あいつの…)と考えていると、自分のスマホから聞こえる音に気づく。「全員、突入」とスマホから聞こえたのと同時に、玄関の扉を開け、リビング内に黒いスーツとサングラスをした人が何人も入ってきては、叔母と従姉妹を取り押さえる。その後、玄関から入って来た人物を葵は見る。その姿は多少離れていても分かるほど存在感を放っていた。

その髪は銀色に輝いており、黒いコートのようなものの裾が膝丈ぐらいまである。そして、目は暗い玄関であるにも関わらずエメラルドのように思えるほど美しい目をしていた。

「放しなさい!警察呼ぶわよ!」と叔母はその黒ずくめの男たちに向かって叫ぶ。すると、さっきまで玄関にいた人物と叔父がリビングに入ってきた。「警察なんか来ないよ。ここは我々の管轄だ。」とその人は言い放つ。「はぁ?そんなわけないでしょ!良いから早く放しなさい!」「家庭内暴力に器物破損、挙げ句の果てには身売りをしてまでして、借金を返そうと金を作ってるやつにだれが救いの手を差し伸べると?」と半狂乱気味の叔母らに対して、冷静に圧をかける。「お前たち…私に隠れて借金してたのか、道理で最近バッグやらを持ってると思ったよ」と絶句していた叔父が話した。「それに身売り?まさか…葵をか!?」と叔母を睨む。「で、でも!彼女も私たちのためになれるなら光栄のはずよ!」「んなわけねーだろ…」と即答する。「それに…君たちの借金はまだ返し終わってないんだよ。」「えっ?」とまさかの発言に叔母らは固まる。「俺がそいつの身売りを阻止したの。方法は言えないけど…でもそれで君たちの借金返済プランは全部パァって訳だよ。それに…君たちには借金を返済する意志がないようだからね、俺が立て替えたわけ。だから…君たちには借金返済のために仕事をしてきてもらいます。」と言い放つ。叔母らは肩をふるわせていた。目の前の男に対する恐怖からなのか、それとも借金返済を狂わされたのかは分からないが。そして恐る恐る叔母は彼に尋ねた。「これからどこへ連れて行かれるのですか?…」と言う叔母に少し笑みを浮かべて言った。「長時間で安~い賃金しかもらえないこの国の法がまったく届かないホワイトな職場だよ。じゃあ連れて行って。」と黒服たちに言うと、黒服は叔母と従姉妹を連れて家を出て行ってしまった。

「大事になってしまってすいません。」「いえいえ、これも私が妻子を甘やかしすぎた結果ですので、甘んじて受け入れます。」とその男と叔父は話し始めた。「それで、彼女の身柄なのですが、もうすでに戸籍上養子から外されていますので契約道理、我々が管理いたします。」「分かりました。この子が幸せに暮らせるならば、それで構いません。」と葵の方をチラッと見て話す。すると、着信音が聞こえ、叔父がポケットからスマホを取り出し、電話に出る。そのとき、その男…神谷叡智は葵の横を通り、窓のカーテンを開いた。「すいません。僕はもう病院に戻らないと行けないので…」「あぁ、引き留めてしまってすまない。ありがとう。」と叡智はまるで叔父よりも立場が上のように話す。「では、失礼します。葵!」と叔父に呼ばれて、葵は振り返ると、叔父は「元気で暮らせよ。」と言い、家から出て行った。その葵の姿を見た叡智は「いつまでそうやってんの?」と葵の床に座り込んでいる姿を指摘した。言われた葵は立ち上がり、蹴られて未だ痛むお腹を抑え、叡智に問う。「あなたは…一体何者なの?」と。それに対して、叡智はカーテンの開いた窓から葵の方を向き、答える。

神谷かみや叡智えいち。全統模試全教科満点で全国一位の天才にして、貴族 五摂家ごせっけの一家である神谷家の正当なる後継者だ。」


天才を恐れず対話を試みるものは同じく天才か…同じく馬鹿(異端児)のみである。

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