35話 支配者との会談
叡智の肌に湿気を含んだ熱気が絶え間なく当たる。
探偵の仕事をしているときに着ているような服装にサングラスをかけ、目の前の光景をまじまじと見ていた。
(さて、さっさと話だけ終わらして帰らないと…)
叡智はマーライオンの近くから離れ、目の前にあるマリーナベイに行くため足を動かし始めた。
ここは現在リゾート地として世界的な注目を集める東南の都市国家、シンガポール。
シンガポールまで土日を用いてまで来た理由はある人物と会い、交渉するためである。
(果たして俺は…無事に帰れるかな?…)
マリーナベイ最上階、シンガポールの街と海を一望できる絶好のスポット。そのテラスにいる黒のスーツとサングラスをかけた金髪の男の横の椅子に叡智は座った。
「Hello.“dreadnought”.」
「…Did you, the white-haired boy, call me here?」
叡智が話しかけると、その男は少し驚いたような表情を一瞬だけ見せるが、すぐに表情を戻し、こちらに鋭い眼光を向ける。
「yes. Sorry to be so quick, but let me get to the point.」
「I don't care, just tell me your requirements.」
叡智は手持ちの水を少し飲み、口を開く。
「5月始め、日本ではゴールデンウィークと呼ばれる祝日の翌週頃、あなたがボスを務めるギャンググループ、Rulersの傘下である組織が日本の貴族と合同で日野家のご令嬢を誘拐する、という事件があった。これについて、あなたの意見を求めたい…ドレッドノート」
「…Even if they say it in Japanese, I don't understand what they're saying.」
「とぼけんな、あんたが日本語を話すことが出来るのはもう把握済みだ」
金髪の男は観念したようにため息をつき、自分の前にある赤ワインを飲んだ。
「何故知っている…少年…」
「俺はあなた方の世界の情報もそれなりに知っているので、あなたが8ヶ国語を操るマルチリンガルであることも知ってます。」
その男…国際的ギャンググループ『Rulers』のBoss、そして、永久国際指名手配犯である、通称“ドレッドノート”はサングラスの奥に光る瞳でこちらを睨み付けてくる。
「そういう君こそ…こちらの世界、いや…表の世界でも有名だよ、“Joker”。」
「その呼び名は辞めてください。一応、表の世界では、名前を出したことはないんです。」
こちらも相手のサングラスの奥にある目を睨み付ける。
「これでおあいこというわけだよ。しかし、君が私に直接接触してくるとは思わなかったな…。その内ポケットに掛けてある拳銃で私の頭をぶち抜きにきたのかな?」
「まさか…あなたに拳銃を向ける必要もないですし、ここであなたに銃を向けたとしてもあなたの部下たちに狙われて、ただでは済みませんから」
ドレッドノートは鼻で笑ってグラスの中の赤ワインを
飲み干した。
「その言い方では、ただでは済まないが、この場から逃げ切れる、いや…この場にいる部下らを倒せると聞こえるが?」
「それは…どうですかねぇ…。」
この二人の放つプレッシャーにより、この場は赤道付近であるにも関わらず、思わず身震いするほど冷え切っていた。
「私が知っているのは、日本にいる幹部から聞いた話であるが、我々の傘下である組織がRulersへその事件の数日前、その話した内容と似たようなことを話していたらしい。我々の意向としてはその貴族への関与は止めろ、と通告をしたが、どこかで金の力が動いたんだろう、彼らにその内容の通達は行われなかった。それによって彼らは作戦に参加、そして特務機関に秘密裏に拘束された、というのが我々の知っている情報だ。つまり、我々はまったくの無関係…とはいかないが、君の思っている“黒幕”とは違うと思うぞ」
「僕の心を読むのはやめてください。…分かりました。恐らくあなたも嘘をついていないようですし、僕もこの辺で失礼します。」
そういって叡智はその場から離れようとしたとき、一瞬だけドレッドノートの口からかすかな言葉が聞こえた。
「Ten cuidado con el sol」
叡智は少し目を細めて彼の方を一瞬だけ見て、前を向いた。
「分かってますよ。…何かあったら、協力してください、では」
そういって叡智はその場を去り、数時間後日本へと帰国した。
その数日前のことだ。
スイーツ店に行った帰り道、叡智ら4人は電車の中で先程のスイーツの話をしていた。
「うぷっ…今日夜ご飯食べれないかも…」
「右に同じく」
「流石に調子に乗りすぎたでしょ!って言っても僕もお腹いっぱいなんだよね」
主に頼みすぎて苦しい、という話であるが…
「お前らもう少し量を考えて頼めよ」
「自分たちの2倍の量を平らげておいて余裕そうにしている君もそこそこおかしいけどね、神谷」
ただし、神谷叡智を除く。
「ところで…夏休み、みんな予定ある?」
「…渡瑠、それを聞くのは野暮というものではないですか?」
「綱は何か予定あるのかい?」
「まぁまぁ、そりゃあ夏休み中に彼女が出来て、プールで彼女の水着見て、夏祭りで熱い口吻を交わして、ハッピーな夏休みになるに決まってるだろ?」
叡智と委員長はまた始まった、とため息を吐いて、苦笑交じりに言い、一方で萩原は不敵な笑みを浮かべていた。
「それじゃあ、バーベキューには俺たちと藤原さんたちだけで行こっか」
「すいませんでした、俺も参加させてください」
「「手のひら返しがすごいな!?」」
萩原が言った直後にはもう頭を下げており、あまりの切り替えの早さに外野の二人はツッコミをした。
「ところで、藤原たちと一緒に行くって言ったが、向こうは知ってるのか?」
「そのために、今日君にケーキを奢ってあげたんじゃないか」
満面の笑みを浮かべる萩原にチッっと舌打ちをして三人から顔を逸らした叡智はため息をついて、スマホを取り出した。
ピロンッという通知音が三人のスマホから鳴り、その画面を萩原が見ると、『夏休みバーベキューメンバー』というグループが立っていた。
「えっ?!叡智…これ…」
「俺は元々向こうからもさそわれてたからな。話は合わせてくれよ」
「「「か、神谷さん、マジかっけえッす!」」」
そう言った三人は電車内であることを忘れ、少し冷ややかな目を向けられたのは知るよしもなかった。
ほんまに投稿が遅れてしまいすいませんでした!
不定期ながらも早めの投稿をしていくので、どうか応援よろしくお願いします!
あと、あけましておめでとうございます。




