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3話 箱庭の迷える羊

無事日茜学園に辿り着いた藤原 葵は早くも新たな問題に直面している。

それは…“教室が見つからない”ことであった。

教室を探し始めて早10分、未だ自分の教室が見つからず、「なんでいつもこうなの!」とボソッと心の声が彼女の口から漏れ出た。

周りに人がいないことをほっとする反面、人がいないことに不安に駆られてる。

元々地図やそういった類いのものを見るのが得意ではなかった葵にましてや迷路のように入り組んでいる校舎の構造なんて分かるわけがなかった。

早く来ていたためまだ遅刻とはならずとも、これが続けばいよいよ遅刻も視野に入れなくてはならない、そういった考えが葵の脳裏をよぎる。

(絶対に間に合わせてやるー!)

そうして、校舎内を右往左往として数分が経ったが…。

(まったく見つからない!なんで?!)

いつの間にか自分の現在地すら分からなくなり、目印がないかと放浪していると、曲がり角で人とぶつかってしまった。

不意だったため体のバランスを崩した葵はそのまま転倒しそうになるが、その直後、自分の腰を後ろから前に強い力で引き戻した。

葵は今自分の体に何が起こったのか分からなくなり、頭が一瞬ショートしてしまった。

我に返り、自分の今の状況を見ると、細くも筋肉質な腕が腰に回っており、それに引き寄せられたと分かった。

そして、相手に抱きしめられるような形で互いの体が密着していた。

(密着…して…る…?)

現在の自分の状況を理解した葵は相手の体を手で押し返すようにして、反射的に相手との距離をとり、それと同時に相手の腕は自分の腰から離れた。ふと相手の顔を見て葵は驚いた。

なんと今朝中等部の門の前で教えてくれた、男子生徒だった。

「あぁ、中等部の門のところの…」

「その話はここではやめてください!!」と葵は相手の口を抑え、話を途中で切らせた。

(こんなとこでそんなの言われたら、一生馬鹿にされる…)とネガティブな妄想をしまい、相手の口を手で抑えていたのを忘れていたので、彼はうざったそうにその手を退けた。

「で?なんでこんなところにいるの?」と彼から聞かれ、葵はネガティブな妄想から現実に帰ってきた。「あっ、あぁー。そういえばー、わたし教室を探してるんだったー。じゃあいくねー」と葵は不自然なほどの棒読みでこの場を去ろうとして、彼の横を通り過ぎようとしたとき、その男子生徒に肩を掴まれた。

葵はびっくりして彼の方を見ると、「そっちはC棟だろ…。教室はA棟。そこの校内マップに書いてあるだろ」

そう言われて彼の指さす方を見るが、その地図は案の定読めず、視線を逸らす。

「お前…まさかまったく地図を読めないのか」

その様子から、読めないことを悟られたのか、窓から入ってくる光で眼鏡が反射して目は見えにくいが、彼は呆れを超えて彼女を引くような目をしながら言う。

完全に図星出会ったため一瞬葵は目をそらすが、負けじと反論しようと口を開く。

「別にいいでしょ!そういうあんたもここにいるってことは迷子じゃないの?」

「俺はC棟の職員室に寄っただけ…お前と一緒にするな、この方向音痴め」

「ヴッ…!?」

このとき…葵は完全に言い返す気力を喪失した。

(的確にわたしの傷口をえぐってくる…)と思っている間にも口撃こうげきが飛んでくる。

「まったく…この狭い“箱庭”で迷ってたら、駅構内とかどうなるんだ?ん?」

高圧的に言われ、葵はウサギぐらいの大きさまで萎縮していた。

「所詮、運動しか能がない運動馬鹿か…」といわれ、流石に言われっぱなしでは腹が立ち、気力が復活してきたため、再び言い返す。

「わたしは運動しか能がないんじゃなくて、身体能力が常人離れしてて、こんくらい本気を出せばなんとでもできるから、本気を出さないだけだから」

「じゃあこっから自分で教室に自分で帰れるんだな?」

意味の分からない言い訳にしっかりカウンターを喰らい、再び心が折れた。

「分からないなら分からないなりにするべきことがあると思うんだが?」

「くっ…きょ、教室まで…連れて行ってください…お願いします…」

と彼の迫力に負け、イヤイヤながら言った。

「元々するつもりだったよ…」とその横を通り過ぎるように歩いて行く彼の態度にカチンとくるが、一方でその救いの手を掴まなければいけないことを分かっていたため、怒りを飲み込んで黙って彼について行った。

「そういえば…なんでわたしが運動得意って知ってたの?」

さっき感じた違和感に気づき彼に聞くと、彼は電車の定期券を持った手をフリフリとふっていた。

「これ、中等部のとこで落してたぞ。それを届けるために職員室に行ってたんだが…一旦戻れと言われてな。それに名前書いてたし、“陸上の天使”ってここら辺じゃ有名だからな、だろ?」

「…」

彼の言葉の後、葵は顔をうつむいた…。

(わたしは…決して世間で言われているような…そんな人間じゃない…)

そう思っている葵を男子生徒は見て、少しため息をつく。

「まぁ、君がどう思おうと君の勝手だが…自分をあまりと下卑するなよ…そんな君に敗北をした人が報われない」と厳しいながらもおそらくもっと気張れと激励していると思われることを言われた。

それでも葵は顔をうつむいたまま歩いて行き、「着いたぞ」と彼から言われるまで、葵は気づくと教室前まで来ていた。

「あっ、ありがとうございます。」

「いや、別にいい。」

礼をする葵に対して遠慮するようにいい、「この仮はいずれ返してもらうからな…」とボソッと意味深に言う彼の言葉を聞き漏らした葵は去って行く男子に問う。

「そういえばあなたの教室って?」

「あぁ、俺は1年A組だ」

「えっ?!一緒!?」

葵は驚き、目を丸くする。

「じゃあ、また後で」といい、教室に入ろうとする彼を葵は呼び止める。

「あっ、あの…名前って?」

そう聞こうとしたタイミングで教室の扉が開き、「おい。もうホームルームするから、座ってくれ」と頭を掻いている先生と思われる男性に呼ばれた。

「はっ、はい」と言われるまま教室に入る葵に彼は「おい、藤原 葵」と呼び止め、振り向く。

「俺は神谷かみや 叡智えいち。よろしく。」と言われ、キョトンとする葵の横を通って自分の席に行った。 

「神谷…叡智…」

「おい、早く座ってくれ」

キョトンとする葵を急かすように言った先生の声で我に返り、葵も席についた。

「じゃあ、全員集まったということでホームルームを始める。」と先生は言う。

これが、葵の日茜学園、別名「貴族きぞく箱庭はこにわ」での奇妙な生活の始まりであった。


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