27話 体育祭の決闘(終)
騎馬戦が終わり、体育祭も昼休みにさしかかる。
先程の騎馬戦によって叡智は皆から賞賛され、昼休みどころではない…というわけではなく、教室で葵に両手で首元を掴まれていた。
「あんだけ私には自重しろって言っておいて、当の叡智さんはこれですか?」
葵は頬を膨らませ、叡智の顔を睨み付け、その視線を逸らすように叡智は横を見る。
「だから…別に作戦を立ててただけでそれがうまくいく確証もないし、何より勝手にみんなが俺を参謀とか言って作戦作らせたんだから、俺には非はない」
「でもその作戦がうまくいく確証があったんでしょ?」
「…まぁ…」
「やっぱひけらかしてるじゃんか!」
葵は叡智の体を前後に揺らし、叡智はせめてもの償いとしてされるがままに体を揺らされていた。
(にしても…あの舌打ちのような音は…)
先程聞いた舌打ちのような音が何故か頭に残り続けるていた。
(まあ…気にしても仕方ない。嫉妬されるのは才能を持つものにとって宿命見たいもんだし…)
「ねぇ!話聞いてんの?!」
「はいはい聞いてますよ」
面倒くせーと思いつつ、葵の満足するまで罵詈雑言を浴びせ続けらせ、叡智の昼休みが終わった。
「やぁ神谷君」
グラウンドにて後ろから声をかけられた叡智は後ろを振りかえる。
「お久しぶりですね、会長。どうかされました?」
叡智はとても優しく、それでいて近寄りがたい笑顔で生徒会長 日野大和に言った。
「いや、条件のことをしっかりと覚えているか確認をしようと思ってね」
「覚えてますとも。あと一つだけですけどね」
「これは参ったよ。騎馬戦でまさか本当に成し遂げるなんて思いもよらなかった。最後の競技、たのしみにしているよ」
「では…」
軽く会話を交わし、会長は叡智の横を通っていった。
(さて…最後はどう仕掛けてくる?日野家次期当主様…)
叡智はどんどんと人混みに紛れていく会長を後ろから睨み付けていた。
「それでは、本日最後の競技となります。学年対抗リレーです!この競技は午前に行ったクラス対抗リレーにおいて、ゴールしたタイムの速い上位6組が選出されています!皆さん、盛大に選手を応援していきましょーう!!」
そう実況席からの放送と同時に歓声が上がる。
叡智らが所属する1年A組は午前のクラス対抗リレーにおいて一位を取り、1年で唯一学年対抗リレーに選出された。
ほとんどが藤原葵の独壇場となっていたことは言わずもがなであるが、選出されるかされないかは葵がいうに五分五分であったようだ。
叡智は第11走者、アンカーである葵に繋ぐある意味非常に大事な位置である。
だが、叡智は現在、仮定していたことが一つ解消されていた。
改めて叡智は体をほぐしつつ、リレーの走順を待ち、
叡智は快晴の空を見上げ、深く息を吐く。
『この体育祭に罠はない』
それが叡智が出した結論であった。
(日野家が介入してくるとすればこの当日の騎馬戦、もしくは事前に何かを仕掛けているはず…だが、その予兆がない、そしてこのリレーにおいて仕掛けることは大衆に認知される可能性があるため、仕掛けてくるとは考えにくい…。つまり、これは駆け引きまったくなしの正面からの勝負ということ、ということは…)
「正面勝負をあなたの方から仕掛けてきますよね?会長…」
「よく分かってるじゃないか」
グラウンド内に入り、走順に並んでいる叡智の真横に生徒会長、日野大和が現れた。
日野大和、現陸上部の部長、エース的存在であり、その人望と畏怖から生徒会長へと抜擢された天才的カリスマをもつ男。
かの天才、藤原葵と0.の世界で勝敗を競い合い、実妹である日野和泉を凌ぐほどの学力で常時学年一位を独占し続けることから、“皇帝”の異名を持つ化け物である彼の宣戦布告に神谷叡智はまったく臆することなく、この場に立っている。
(あと二人で俺にバトンが渡ってくる。現在は会長のクラスが一位で、俺たちが二位、そこまでの差はないが…この男相手じゃ、そうはいかない。相手のアンカーも会長に続く実力者…流石の葵でもここで離されすぎると勝ちはない…)
叡智はこの場の状況を冷静に分析する。
あと…一人となる。それでも…叡智は汗一粒さえも流さない。
(次は自分…会長は葵に次ぐ実力者、俺では勝ち目はない…。)
叡智はレーンへと立つ。その横には既にバトンを貰い、走る態勢を作っている日野大和がいた。
叡智は前の選手からバトンを貰う態勢を作る。ほとんど前の選手は並列で走っており、どちらが速くバトンを渡せるかはこの場の人間には未だ分からずにいた。
(できる限り、会長に追いつき、それで葵にバトンを渡す。それしか俺が勝つ道はない…と、思ってるであろう俺の出鼻を全力で潰しに来るんだろ?あんたは?)
叡智はニヤッと不適な笑みを見せ、それに隣の日野大和が一瞬反応する。
そして、二人にバトンが渡った。端からはまったく同時のタイミングに二人の手にバトンが収まったと見えるだろう…だが、彼らは分かっていた。
一瞬、ほんの0.1秒だけ、会長の方が受け取るのが速かったことをこの二人だけは分かっていた。
たかが0.1秒…だが、それは天才同士の勝負においては致命傷である。
だが…叡智は焦らない。鋭い眼光で前を見る、隣の日野大和がいないかのように。
(あんたは確かに天才的なカリスマ、本物の実力があるよ。それだけは俺も認めざるを得ない。)
二人の片足か足が地面を踏み込み、いざ加速しようとする。
(だが、良くも悪くも、あんたは秀才だよ。完全なる努力によって作られた天才という名の皮を被った秀才…。それにあんたは一つだけ可能性を見落としている。それは…俺の方が速いという可能性だ)
走っている二人に会場は驚きの声が上がっていた。
その正体は神谷叡智が天下の日野大和よりも僅かに差を付け、走っていることにあった。
(あんたが確実に勝つためには、確かにアンカーとして出場すべきだった。それはあんたにも分かっていたことでしょう。ですが、それを分かってなお、俺と対面で勝負しようとしたことに俺も敬意を表し、あんたと本気でやり合ってやるよ)
依然叡智を追い抜かすことはできず、目の前にはバトンを渡すアンカーがいる。
(!?)
すると、叡智の速度が緩まり、減速した。
これはチャンスと言わんばかりに叡智を追い抜く。
(ここで、スタミナ切れか?神谷叡智!)
そう視線を斜め後ろにいる叡智に送る、だがその視線に合わせるように叡智は目を向ける。
(いや?何も俺が勝つ必要はない。俺が狙うのはチームの勝利。だからこそ…)
そして、叡智が再び加速を始める。
そして、それと同時に日野大和の視線の端に走る藤原葵がいた。
(葵が最も速く初速を出すことのできるバトンを渡す最適値。相対速度、距離、加速度、すべてを葵の120%を出すことのできるように俺は計算し、最適解をたたき出す)
再びバトンが同時に、同地点にて渡る。だが、その差は歴然であり、叡智によって実力を出し切ることのできるようにされた葵は始めから差をつけ、独走状態を作り出し、ゴールテープを切った。
そのとき、会場中に今日で一番大きな歓声が響き渡る。
あるものは名勝負に、あるものはまさかの結果への驚きに、様々な感情がこの場に渦巻いていた。
叡智の額から汗がしみ出し、それが頬を伝って大きな水滴を作り、顎からこぼれ落ちた。




