25話 体育祭の決闘(1)
体育祭、それは自らの実力を大勢に披露する絶好の舞台である。
運動能力、人望、ノリの良さ、様々な場面で様々な人が活躍し、その後の学生生活がより豊かなものとなる運命を左右する日、それこそが体育祭である。
だが、この男、神谷叡智はあまり体育祭に乗り気ではない。
(ほんと、ただただ疲れるだけのことにそこまで本気を出す意味が分からん。だが、今回ばかりは少し本気を出さないといけないが…)
腕を十字に組み、ストレッチを行う叡智はチラリと三年生の座るテントの方を見る。
(この学園の生徒会長という立場にある彼をこの場で和泉のときのように実力でねじ伏せるというのは無理だ。彼と俺が真っ正面からの戦いならまだしも、直接戦うのは彼ではない。それに、この契約を知るものは我々二人以外いない…完全に孤立無援だな)
狡猾さは兄の方が上と言うことがわかり、表面に出さず、心の内で文句を垂れる。
「次の走者の人はスタートラインに並んでくださ~い」
そう運動部の女子生徒が叡智をラインまで誘導した。
そうして、アナウンスで選手の名前が呼ばれたのち、ピストルの音とともに選手らはスタートダッシュを切る。
この借り物競走は別名借り人競走と呼ばれ、ルールとしては箱の中にある紙を1枚取り、その紙に書かれたお題にあった人物を連れて、ゴールをするという至って単純かつある意味様々な可能性を孕む競技である。
話によると、このお題で『好きな人』というお題によって、未だ交際関係を続けるカップルがいたりとか、『可愛い子』というお題によって一年間袋だたきにあった男子がいたとかいないとか。
とにかく細心の注意を払いつつ、一位を目指さなければならない。
さっそく箱の中に手をつっこんだ叡智は素早く1枚紙を手に取り、中を見る。
「あぁ?」
少し困惑した顔をした後、生徒の座るテントの方へと走っていく。
そして、自分のクラスのテントまで着いたとき、叡智は人の名前を呼んだ。
「おい日野!」
「は、はい!」
このテントの下でただ一人、赤の鉢巻きを巻いた少女、日野和泉の手首をつかみ、ゴールへと走る。
彼女がこけてしまうリスクも考えて少しペースを落としながら走るも、未だゴールへと向かう他の生徒は見当たらない。
そうして、叡智と和泉はともにゴールテープを切った。
「おーっと、早くもゴールテープを切ったのは神谷叡智選手です」
そう実況席からの声が聞こえ、叡智の後を追うように他の選手もゴールした。
「それでは、お題に沿ったものなのか審査に入ろうと思います。一位、神谷叡智選手のお題はー」
そう実況席のお題発表を行うその少しの間はとても静がに長く感じた。
「『ライバル、好敵手』です!」
そう発表されたとき、生徒らからとても大きな歓声が上がっていた。
白組である叡智が一位を取ったことで喜ぶ者もいれば、そのお題が告白まがいなことでなかったことに安堵するように喜ぶ者もいる、そのような歓声だった。
「まさか、私をそこまで思っていたとは、到底予想できませんでしたよ。あなたにとって私は、ただの凡人だと思っていましたから」
自分の手首をつかみ、ゴールへとひっぱっていった叡智に向かってそう言う和泉は心なしか少し顔が赤く染まっているようであった。
何より告白まがいなことだと思っていたのはどうやらパートナーだったらしいと、少し呆れた。
「当たり前だろう。俺と真っ正面から戦ったお前をライバルと言わずになにになる。それに…」
そう続く言葉を止める叡智に不思議そうに首を傾げ、和泉は見つめていた。
「お前のその才能はまだまだこれからだ」
そう言って、グラウンドから叡智は他の選手とともに立ち去っていく。
(天才として“努力”しろよ。俺を追い越すぐらいまで)
そう心の中で言葉を補足し、自分のテントに戻っていった。




