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21話 事件後夜

東京都内、宮内庁の管轄にある建物のある一室、神谷聡一を円卓で囲み、そこには5人の少し老いた男らが神谷聡一を見て、座っている。

その中のある一人の老人が口を開いた。

「神谷君…山城辰八に関する情報の提供にまずは感謝させて貰う。今し方、山城辰八とその他暴力団関係者を特務機関が確保したと連絡があった」

「それはよかった。協力させて貰った甲斐があったってもんですよ」

そう言った聡一はその作った笑みをなくし、無表情でその老人たちに向け、視線を飛ばした。

「で?なんのようです?わざわざそんな伝聞で済むよなことで元老(あなた方)が、僕を呼び出す分けないですからね」

「話が早くて助かるよ。流石は世界経済を担う財閥の一つに数えられる神谷家の当主なだけはある。だが…君たちがリークした情報が特務機関でさえ特定に手間取ったことから考えて、何故君たちが先に特定できているのか…君たちが持つ諜報機関が優秀なのは知っているが、少々できすぎではないか?」

そう問われるが依然聡一は顔をぶらさない。

「まさか、藤原家が今回の件に介入し、特務機関の諜報活動の妨害をしたとでも言う気ですか?それとも、我々が山城家を撲滅するために工作活動をしていた…と?」

「そう言っているのがわからんかね。君たち藤原家は最早…我々にとって障害となり得る存在なのだよ」

言葉を選ぶように溜めたが、その口から出たのがおそらく本質なのだろうと聡一は悟る。

「そっくりそのままあなた方に返させて貰いますよ。あと反論させてもらうと、今回の件について、多少の介入はしましたが、特務機関の諜報活動の妨害はしていませんし、それに関しては向こう側の対策が我々よりも優れていたと言うしかないでしょう。そして、山城家が衰退の一途を辿っていたのはあなた方が一番分かっていることでしょう。彼らの宿主である鬼多代きたしろ家が滅亡した五年前から、それこそ貴族としての権威を失うほどにね」

「分かった。もういい」

その話をするなと言わんばかりに話を止め、もう一人の老人が口を開く。

「…では、残っていた発砲の痕跡についてはどう説明する」

「それに関しては全く把握しておりません。ですが、特務機関との衝突は我々からは望まないことであるとだけ言っておきましょう」

「…分かった。ひとまず信じさせてもらおう」

彼らの問答中、その空気は最悪と言ってよいほど、重苦しいものであった。

それでも聡一にまったくの恐れはなく、それどころか彼らを圧倒する迫力さえあった。

「ならば、山城家の埋め合わせである“斑鳩いかるが家”を推薦したのは貴様らだろう。それに、ここ一年前に五摂家の空席を埋めた菅原家もそうだ。奴らが何かしでかしたとき、どう対処するつもりだ!?」

「それは僕に聞くことじゃないでしょ。でも…確かなことはそのときは…僕ではどうしようもないとだけ」

「それは無責任なことだな、それが我々貴族に与える衝撃がどれほどのものか考えろ」

「そのあなたがたの無責任さが五年前の事件を生んだんでしょう」

聡一はその場から後ろに振りかえる。

「話はよろしいですね。では、山城家の後処理について、よろしくおねがいしま~す。あと、“藤原特殊情報局”の活動についてはこれで、では」

聡一は唇に人差し指を押し当て、秘密にするように伝え、その場から去ろうとする。

しかし、老人らはまだ終わらせたくはないようだ。

「待て!まだ話は終わっていないぞ!」

「…まだ何か?」

そう言って振りかえると、彼らの真ん中に位置し、未だ一度も発言していなかった、最も老いていると思われる男、日野 和正かずまさが聡一に問う。

「我々は五摂家よりも権力を持っていると思っているが…、私がその気になれば、君たち藤原家は厳しいが、貴族制に反対する斑鳩家、菅原家はすぐに貴族から追放できる、それだけじゃない。ありとあらゆるところから追放することが出来ることを忘れないことを伝えてくれ」

「もしそれをするならば、我々があなた方元老、日野家へと牙を剥くことをお忘れなきよう」

バタン、と扉を閉め、赤いカーペットの敷かれた廊下に出る。

まさにイギリスのようなデザインが施されている。

元老らの対応に少し疲れを感じた聡一の胸ポケットから振動が伝わり、胸ポケットの中にあるスマートフォンを見ると、スマートフォンの画面には神谷叡智と書かれていた。

そして、電話に出ると同時に建物内からでるために通路を歩き始めた。

「ナイスタイミング~叡智。丁度枢密院のお偉いおじいさんたちとの話が終わったよ~」

『そうか、こっちもあいつを回収してきたところだ。今、あいつに飯食わせてる』

そう電話のむこうの叡智は自分のバイクにもたれかかり、バイクの上にのせてあるノートパソコンを見ていた。

「あのさ…まだあの娘のこと“あいつ”なんて呼んでんの?いい加減名前で呼びなよ~、そろそろ三ヶ月だよ~。さ・ん・か・げ・つ」

『うるせぇな、今更だろ。それに学校では名前で呼んでるし、良いだろ?』

「そう言う話じゃないでしょ。君の今回の様子を見ている限り、彼女をちゃんと家族として接してるみたいだし。そろそろ名前でくらい呼んであげな」

『分かった、前向きに検討はしておく』

「お前な…まぁいいや」

このまま説得を試みてもきりがないと判断した聡一はしぶしぶ諦めた。

『早く帰ってこないと、すき焼きなくなるぞ』

「ちょっと待て、それどこで食べてる?!」

『え、これだけど…』

叡智から送られてきたのはなかなか予約の取れない和食専門店であった。

「お前まさか…」

『そ、帰りに寄るつもりだったから予約してたんだけど…たまたま“三人”入れる個室だったんだが…どうする?』

「ちょっと待ってろ、すぐ行く!」

そう言って電話を切り、即座にタクシーを呼んで、その店へ飛んでいった。


「ったく、慌ただしいな、相変わらず」

叡智は通話の切られたスマートフォンをポケットにしまい、バイクの上にのせてあるノートパソコンを見る。

画面には今回特務機関に拘束された男たちのデータが映し出されていた。

(やはり暴力団関係者だったか…千葉、東京を中心として活動している組織。おそらくこれから活動していくにあたり障害となり得る。完全なる組織の瓦解をして…“奴らの裏にいる黒幕”を見つけなければ…。この裏には…必ず…“奴”がいる)

叡智はノートパソコンを閉じて、バイクの後ろに乗せてあるアタッシュケースの中にしまい込む。

(さて…俺も戻るか…)

叡智は店の中へ戻った。


「あっ、やっと戻ってきた」

「お前…あんな事があったのによくそんなに食えるな…」

叡智が戻ると、そこには大量の牛肉と野菜を鍋に投入し、葵はすき焼きを楽しんでいた。

「そりゃ夕ご飯食べ損ねたんだから食べるでしょ!」

そう言って溶き卵につけた牛肉と白菜を口にはこぶ。

「親父が来るからあんまり食い過ぎんなよ」

「おうあい」

「食ってから喋れ、たくっ…」

叡智も鍋から牛肉を2,3枚とり、口へ運んだ。

「…叡智くんって…以外とおいしそうに食べるよね」

「悪いか?」

「いや別に…」

「なんなんだよ」

ため息をつくが、少し顔に笑みを浮かべて、葵を見る。

「なに?」

じっと彼女を見ていたため、その視線に気づいたようだ。

「…悪かったな、葵」

「だからなにが?!」

「さっきのこと、怖かったろ?少し泳がせたとはいえ、すぐに助けに入らなかったからな…この通りだ」

叡智は深く頭を下げ、葵に謝罪した。

「いやいや、顔あげて!気にしてないから!さっきのやつでもう相殺されたから!」

自分の知っている厳格でプライドの高い叡智が頭を下げるのを見てあわあわと止めるよう説得をした。

すると、一つ会話に違和感を覚える。

「叡智くん今…葵っていった?」

「言ったが…駄目だったか?」

「いや…いつも“お前”、とか“おい”、とかで呼ぶから…あなた本当に神谷叡智?」

自身のイメージとことなりすぎて、本当に神谷叡智なのかが分からなくなってきてしまった。

「よし分かった。お前は俺のことをそう認識していたんだな」

「よかったいつも通りの叡智くんだったよ」

叡智の反応を見て、葵はいつもの叡智であることを確認し、少し安心した。

そして、安心した自分におかしくなり、少しくすくすと笑ってしまった。

それが叡智を煽っているように取られたのか少し不機嫌そうにするのを見て、さらに笑いがこみ上げてきて、少し叡智ともめた。


「っっ…と…ところで…山城とかいう野郎と叡智くんが言ってた…と…特務機関って…なんなの…」

「おい!ツボりながら質問するんじゃねぇ!」

未だ笑うのを我慢しようとするが、肩をふるわせ続ける葵にいい加減怒りが爆発しかけていた。

「山城とかいう野郎って言ってるあたり、お前の中であいつの印象は最悪っぽいな」

「そりゃね!日野さんにあんなこと言ってたんだよ!それに私にまで攻撃してきたしさ!」

そう言った葵はぷんぷんと怒り、冷めている牛肉を食べる。

「そう言っているところ悪いが…あいつも日野や俺たちと同じ五摂家の人間…いや元か」

「えぇ…あんなのが五摂家の貴族なの?」

「あれが貴族の一般例だよ。基本的に平民だったり、貴族であることに変に誇りを持っているとかばかりだ。日茜学園にいる貴族はほとんどがそんな感じだろ?お前が出会ってきた俺みたいなのはレアケースなんだ」

「へぇ、あんなクズみたいなのがまだたくさんいるってこと?」

「あんなのは露骨だからあいつもレアケース」

両者山城辰八に嫌悪感を示しているのでぼろくそに言いうことができるため、日頃のストレスが少し解消された気がしている。

「で?結局特務機関ってなんなの?」

「特務機関ってのは…」

「明治時代に政府によって作られた諜報機関であり、現在では対外国の諜報活動や国内のスパイの確保、そして、国家治安の維持を主に活動内容としている、だろ?」

叡智が喋るのを遮って答えたのは今し方到着した神谷聡一であった。

「よ、早かったな」

「予約取ってんなら言ってくれてもええんちゃうん?」

「うるせぇな、一人で来るつもりだったんだよ。だけど、こいつが応戦しやがって捕まったから救出のついでに寄ったんだ。あんたを呼んだのは気分」

「場合によっちゃ呼ばれへんかったんやな、それは幸運」

「ポジティブだな、そういうとこ尊敬するよ」

二人の会話に混ざることが出来ず、不満げに叡智を睨んでいるとそれに気付いたのか叡智がこちらを見る。

「我々はもう食べきったから俺たちもう帰るわ。じゃ、会計よろしくー」

「ちょっと待て!」

帰るための荷物を持つ叡智を食い気味に止める。

「まさかお前…このために…俺を呼んだんじゃないだろうな」

そう言われた叡智は満面の笑みで答える。

「当たり前じゃん。じゃ!ごちになります」

「聡一さんご馳走様でした」

叡智の後ろを申し訳ないように会釈をした葵は店を出て行き、その場には先程来たばかりの聡一ただ一人であった。

「10万円…」

伝票に書かれていた金額を見て絶句し、その後残された聡一はたらふくすき焼きを食べた。


パシンッという甲高い音が室内に響く。

日野和泉の目線の先には先程自分の頬を引っ叩いた男がいた。

彼の名は日野 大和やまと、日野和泉の実の兄であり、現日茜学園高等部生徒会長である。

「和泉、貴様がしたことは日野家への冒涜ともなり得る愚行だ。何故賊なぞに掴まるようなへまをした?その気になれば、撃退することだって出来たはずだ。それに、友人と帰宅するということも俺はまったく聞かされていない、これは貴様の怠慢が生んだことであるということ自負しろ、お父様からも強く言っておくよう言われているが、今日は時間も遅い。この程度で済ませるが、次はないと思え」

「…はい、申し訳ありません、兄様」

日野大和が自室へ戻っていったのを見て、和泉は自己反省を永遠と繰り返していた。

(…またやってしまった。兄様の期待に添えない自分が憎い。藤原さんを傷つけてしまった自分が憎い)

そういった思考が永遠と繰り返されている中、一つ気がかりなことがあった。

(あの…鬼の面を被った男は…)

日野和泉は鬼の面を被った男の正体が神谷叡智であることを知らない。

先程の話にも鬼の面を被った男という情報が全く出ず、正体不明の男が葵を連れていったことを不安に思っていた。

叡智はあの後、葵を抱え、窓から脱出したことにより、その直後来た特務機関の諜報員と鉢合わせせずにすんでいるため、特務機関も到着したときの状況から何者の仕業なのかを知ることは出来なかった。

(藤原さん…大丈夫かしら)

部屋に戻った和泉はスマホを取り出して、葵に電話を掛ける。

数回コール音が聞こえた後、聞き覚えのある声が聞こえた。

『もしもし?日野さん?どうかした?』

「藤原さん、無事…ですか?」

『え?あ…あぁー!大丈夫ー!あの後、私逃げたから今はもう東京にいるよ~』

「そ、そうなのね。よかった…」

完全な棒読みで言う葵の言葉を和泉は何故か信用して、なんなら安心している。

「ご…ごめんなさい。私のせいで危険な目に会わせてしまって」

『いやいや、悪いのはあの山城ですから、日野さんが気に病む必要はないですよ!』

「そ…そうですか…」

葵が遠慮がちに言うが、内心は(いや~叡智くんが暴れただけだから本当に気に病む必要ないんだけどな…)と思っていた。

「でも、謝罪だけというのは少し私が気にしてしまいますので、明日洋菓子かなにか持っていきます」

『いやいや、ほんとに大丈夫だから!?』

電話越しに本気で遠慮する葵だが和泉は引かない。

「いえいえ、そう言わずに」

『いやいや大丈夫だから!?』

「いえいえ」

『いやいや!?』

「いえいえ」

『いやいや!?』

『なにやってんだよ、こんな夜遅くに…』

そう問答していると和泉のスピーカーから葵とはまた異なる男の声が聞こえた。

『廊下まで聞こえてたぞ、明日も学校なんだから早く自室に戻って寝ろ…よくもまぁあんな事があったのに寝れねぇな?』

『ちょ!?電話中なんだって!?』

それも…聞き覚えのある声の…。

『は?誰と?』

『日野さんだよ!?』

『…え?』

電話越しにもその声の主が冷や汗を垂らしていることが分かる。

「神谷…くん…ですよね?」

『…誰のことですか?僕は葵の兄ですよ』

今更ながら誤魔化そうとするがそんなのは通じない。

「神谷叡智くんでしょう?私に契約を持ちかけてきたあの」

『…そうだな』

誤魔化しきれないと判断した叡智は白状する、…がまだ和泉の気がかりなことは残っている。

「何故?あなたが藤原さんと…一緒にいるんですか?」

『『これは…その…』』

二人ともどう言い訳しようか脳を働かせ、思考を凝らすが、これはもう無理だと同時に判断し、叡智が先に口を開く。

『明日、約束の場所で待ってろ。このことは明日話す。勿論、こいつも連れてな』

『なんで私も?!』

そう言われた和泉は決心した。

契約をどうするべきなのかを話すときが来たと悟る。

「分かりました。ですが、このことを秘密にしておく代わりに…一つ、条件があります」

そう言った和泉の様子は一部、叡智と重なる笑みを浮かべていた。

どうも神薙です

今回で21話まで言ったということでそろそろこのキャラクターの情報がこんがらがってきたかと思われます。(誠に申し訳ないです)

なので、キャラクターの設定など様々な番外編を少しづつ更新していきたいと思います。

出来れば感想等もしていただけると幸いです。

今回もご愛読ありがとうございました、これからもよろしくお願いします。

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