13話 宣戦布告
(なにか…視線を感じるな…)
普段通り登校していた叡智に何やら視線が集まっている感覚を覚える。そして、すぐに原因に気づいた。
「そういえば神谷君って家では眼鏡付けないよね?なんで学校のときだけ付けてるの?」
「あ?伊達だからな」と横の葵の質問に素っ気なく返す。
どうやら原因は葵であるようだ。葵は天使と巷では呼ばれていたレベルの美少女であり、外見はそんじょそこらのモデルよりも整っている…らしい。
これは叡智の考えではなく、葵の友人、浪華の考えである。
「なぁ…いい加減別々に行こうぜ、もう三週間は経ったぞ」と叡智は嫌そうな顔で言うが、
「むり!絶対に学校にたどり着けない自信があるから!」と自分の壊滅的な方向音痴を棚に上げ言う。
「んな自信満々に言うなよそんなこと…」と言う言葉を飲み込んだ。
そのとき、叡智は何らかの視線を感じる。
(また尾行か?いや…この感じは…)と少し見えていた学校の方を見る。その視線の先、ルビーのような瞳を持つ少女が同じく神谷叡智を見ていた。
「神谷叡智…。あなたが何者なのか…吐いてもらうとしましょう…」そう言って窓から離れていった。
ホームルームが終わり、叡智は自分のカバンの中を探る。その中から丁寧に未開封を示すシールが張られている手紙を取り出した。それは、今朝叡智が下駄箱に来たとき、自分の下駄箱の中に入っていた手紙である。
(ご丁寧に裏面には名前まで書いてあるし、特に怪しい匂いや質感はない…)
その手紙を少し鼻で嗅ぎ、紙の材質もそこまで違和感がないことを確認し、手紙を周りに隠れて開ける。
『拝啓 神谷叡智殿
貴殿の先の試験における栄光なる成果を拝見いたしました。人並みならぬ努力の成果であると見受けられます。そのため、二週間後に控えております中間テストにおいて、私との勝負を受けていただけないでしょうか。ご返事は本日昼休みに中央広場に来ていただき、私に直接お伝え下さい。』
手紙の内容を確認した叡智は丁寧に折って、元に戻した。
(だれがこんなのに乗ると思ってるんだ…。)その内容に心の中で苦言を呈した。
(しかし…差出人の名前が書いていないとは…焦っていて忘れていたのか…それとも…)
「全員座れ。出席とるぞ。」
手紙の差出人について考えていると、教室の扉が開き、平井先生が出欠簿をもって入ってきた。
(どちらにしろ、行くしかないか…)
叡智は窓の外にある中央広場を見て、ため息をついた。
昼休み、約束通りに、叡智は中央広場に来ていた。しかし、叡智は朝から今に至るまでにある違和感を感じていた。
(いくらなんでも自分に視線が集まりすぎている)
と叡智が周りを見渡していると、ある女子生徒が話しかけてきた。
「神谷叡智さんで間違いないですか?」
「あ…はい、そうですね。僕です。」
普段とは異なり、弱々しさをかもしだし、返事をする。
(こいつが差出人か?)と考えているとすぐに答えが分かった。それも、最悪の形で…。
「これ?あなたが書いたものですよね?」
その女子生徒が見せたのは果たし状と書かれ、差出人には神谷叡智と書かれていた。
その瞬間、叡智は完全に状況を理解した。
「『お前の秘密を俺は知っている。バラされたくなくば、次のテストで勝負しろ』。これは…私が日野和泉と知ってのことですか?」
そういう少女、和泉の目は赤く輝き、叡智を見下していた。
日野和泉。神谷家と同じく貴族の頂点に立つ五摂家の一家、関東を中心に勢力圏を持ち、政治の中枢を担う人材を多く抱えている家系である日野家のご令嬢である。
(やはり、罠だったか…。この状況、この視線の正体は…)
叡智が周りを見渡すと、ありとあらゆるところから視線を向けられていた。
(おそらくマスメディア部に情報を流したのか。それによって、学校全体の生徒の注目を集め、この勝負を受けざるを得ない状況を作り出した。しかも、俺から勝負を仕掛けたようにすることで、完全に俺の選択肢を一つに絞らせ、俺がここで罠だと言っても、ここの生徒はこいつの言うことを信じるだろうな。自分の立場をしっかりと理解した作戦…。現代の天才軍師にも勝りかねない計算能力、これは完全にはめられたな。)
叡智は顔を少し引きつらせ、その少女、日野和泉を睨み付ける。
「この紙には、勝った方が負けた方に何でも命令をすることができると書いてあります。普段の私ならこんななんの利益もない勝負には乗りませんが、あなたのそののびきった鼻を折る良い機会ですので、この勝負、仕方がないですが乗ってあげましょう。」
淡々と話す彼女の周りでは「流石和泉様。その無礼者の誘いにわざと乗り、勝つチャンスを与えてあげるなんて、なんと懐の深い。」「感謝しなさい。日野家のご令嬢であられる和泉様に勝負に乗ってもらえるのですよ。」と戯れ言を言っていたが、叡智はそんなことはまったく気にしていなかった。
叡智は目の前の和泉から感じられる怒り、本気の気迫を目の当たりにしていた。
日野和泉は天才である。中等部までは定期テストにおいて、二位と圧倒的な差をつけ、一位へと君臨していた勉学の天才であり、規格外の思考能力、記憶能力を持ち、勉学以外にも実力を発揮している。
その自分のプライドをズタズタに引き裂いた叡智に対する本当の宣戦布告と言うべき気迫を叡智は受け止めていた。
「分かりました」そういう叡智の姿は日茜学園生徒の神谷叡智ではなく、叡智の賢者と言われる姿を見せ、いう。
「あなたが本気で…不正なしで来るのなら、僕…いや俺も本気で相手をしよう。日野和泉」
「ええ、誓って。不正を働くことはしません。では、中間テストで」
ここに叡智と和泉という天才同士の因縁がまた一つ作られた。
この出来事はあっという間に学校全体に広がり、『外部進学生、神谷叡智。日野和泉へ宣戦布告』という大見出しで掲示板へと張られ、エンタメとして消費され始めた。
「こんなことしてよかったの?目立つなって言ってたの自分なのに」
下校途中、昼休みの自分の行動について葵が問いただしてきていた。
「あのな、別に俺から喧嘩売った訳でもないし、あの場で俺の意見なんて封殺されるに決まってる。これは、受けるしかなかった勝負なんだよ。」
葵の意見に対し、しっかりと反論して、自分の正当性を訴える。
「やつの狙いは、おそらく俺についての情報を探ることだろうな」
「やつって、あの綺麗な女の子のこと?」
「そうだ。ここしばらく俺に尾行がついていた。そのたびに撒いていたが、ここに来て、大将が正面から攻めてくるとは思わなかったな」
「え?尾行?ちょ…尾行ってなに?何のこと?!」
さらっと言われた衝撃発言に葵は反応して周りを大慌てで見始めた。
「じゃあ、俺は寄るところがあるから。気をつけて帰れよ」
「ちょっと!おいてかないでよ!あと不吉なこと言わないで!」
住宅街であることを忘れ、さけぶ葵からどんどんと叡智は離れていった。
(勝った方が負けた方に何でも命令できる、か)
日野和泉が言っていたことを思い出し、叡智は笑みを浮かべる。
決して、淫らな行為をするような妄想をしてはいない。それよりも、大事なことがあるのである。
(限定パフェに、クレープ、ケーキ、ドーナツなんかもいいな~)
そう、決して淫らな妄想はしていない。
その叡智の姿は昼の叡智の賢者の姿なんてみじんもなく、らんらんで探偵事務所へと行く姿を使用人の一人に目撃されていた。
来週は諸事情によりありません。
申し訳ありませんが、再来週の更新(予定)をお待ちください




