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12話 仇

ある満月の夜、星の光をもかき消すほどの眩い光を放つ大都市、東京。

あるものは日頃の疲れを取るために同僚と酒を交わし、またあるものは小遣い稼ぎのために不健全なバイトを行い、またあるものはビルの光を支えるため、未だ仕事から帰れずにいる。

そういった光と闇が同時に存在するのが夜である。そして、闇を暴く人間が活動するのも夜である。

地上では何人もの人が歩いている。その上空、ビルとビルを飛ぶようにして渡っていく人影が一つあった。その人影はあるビルの上で止まる。

闇夜に溶け込むためか、その服装はほとんど黒であり、頭には大きなゴーグルをつけ、地上を見下ろしていた。

すると、隣のビルに飛び移り、今度は体を逆さまにして、そのビルをワイヤーで降りていく。そして、またあるところで止まり、そのビルの中を覗く。

少しすると素早くビルの上まで上がった。

その人影がつけていたゴーグルを上にスライドして、ゴーグルを頭に固定していた部分ごと頭から外す。

その人影ば頭を少し振り、そのすぐそばにあったスーツケースにしまう。

その人影にさきほとまで雲で隠れていた満月の月光が差し込む。その髪は白く輝き、その目は夜でも分かるようなエメラルドを模した瞳を持っていた。

その人影とは、神谷叡智であった。


「どうぞ、こちらが彼氏さんの一週間の行動記録です。」と叡智は自分の持ったファイルを机を挟んで向かいにいる女性に渡す。

「ありがとうございます。これであのクズ男から離れられます。なんとお礼を言って良いか…」「そんな、大丈夫ですよ、これが仕事なので」と叡智は謙遜するようにいった。

その後、ある封筒を貰って、その女性を見送った。

ここは東京某所、“神谷探偵事務所”である。

神谷叡智は副業で探偵を行っている。

探偵といっても、難事件を解決するような某天才小学生のような仕事ではない。

叡智が受けているのは浮気調査など人間関係等のトラブルに関する調査である。

何故こんなことをやっているのかと言えば、他人に恩を売っておいて損はないから、という理由もある。

だが、何よりもお金を稼ぐためである。

叡智は先程貰った封筒の中を見る。その中には10万円ほど入っていた。

何故お金を稼いでいるのかと言えば、ある事情でよく叡智はお金を大量に使用するからである。それに加え、別邸の設備費が馬鹿にならないため、家賃、その他諸々は神谷聡一が払っているが、叡智への仕送りのほとんどは別邸の設備費に消えている。

そのため、叡智はお金を稼がざる終えないのである。

「さて…そろそろ帰るか…」と壁にかけたコートを羽織り、事務所を出る。

事務所から神谷別邸までの距離はそこまでなく、およそ10分程度で着く、だが、今回はそうは行かないらしい。

住宅街を歩く叡智の後ろには一人サラリーマンらしき人影があった。

(…尾行されてるな)叡智は後ろを振り返ることなくその存在に気づく。

(およそ7メートル、ここからなら全然走って逃げるのは可能。だが、一人とは限らないからな…挟み撃ちの危険性も考慮するとこれは愚策。同じくここで「不審者です!」と叫んでも良いが、難儀だな…。よし、ここは…)と叡智は住宅街からでて、ビル街へと回り道する。

そして、叡智は走り出し、ビル街の裏路地へと逃げ込んだ。

それを見たサラリーマンらしき男が叡智を追いかけるため走り、逃げ込んだ路地を覗くと、既に叡智はいなかった。

この狭く長い路地をこんなにすぐに行けるものなのか、とその男が考えていると急に首に布で包んだ柔らかいものがキュッと首を絞めた。その男が上をチラリと見ると、体を逆さまに足をビルとビルの間にかけ、自分の首を絞める化け物(叡智)がいた。そして、その男は気絶してしまい、仲間が来るまで意識は戻らなかった。


「ただいま…」「お帰りなさいませ、叡智様」

叡智は何事もなかったように別邸に戻った。館に入る前にも尾行されていないかを念入りに調べていたため、いつもより帰るのが遅くなってしまった。

「おかえり~、遅かったね、どっか寄り道?」と大広間に通じる扉から顔を出したのは、先日、テスト結果が悪すぎて、長時間叡智に拘束され、課題をこなさせられていた葵である。

「ちょっとな。いろいろ立て込んでたんだよ」といい、葵を見ると同時に叡智は固まった。

葵のその手に握っていたのは瓶に入っているプリンであった。

「お前…それって…」「あぁこれ?おいしいよね~!調理室にちょっとお邪魔したときに冷蔵庫にあったから貰ったんだ~」そういう葵に対して、叡智は俯いていた。

「お前…」とボソッという叡智に対して、「え?なに?」と葵が聞き返すと、顔を鬼も形相に変え、その手にはどこから出してきたのか分からない刀を抱え、叫ぶ。

「お前…よくも俺のプリンをぉぉ!許すまじ…この刀の錆にしてくれるわぁ!」と葵に斬りかかりそうになる叡智を使用人たちが総動員して止めに入る。 

叡智は美食家であり、食に関しては人一倍こだわりなどが強い傾向にある。特に甘いものに目がなく、俗に言う甘党というやつである。そのため、自分のものを他人に食べられると逆鱗に触れたようにキレる。

すなわち、叡智が大量にお金を使用する用途とはこう言ったスイーツ類などであり、これは叡智が買ってきたプリンであったのである。

「離せ!プリンの敵なんや!」

ちなみに叡智は元大阪府民、理性を失うとつい関西弁が出てしまうのである。


同時刻、ルビーのような瞳を持つ少女は調査した結果を読んでいた。

「名前は神谷叡智。階級は庶民。高校からの外部進学生…か。住所は…未特定…ですか…仕方ないですね。」

とその少女は横にあった二枚の紙を自分の前へと置き、万年筆を持つ。

「私自ら…叩きましょう。埃は…叩けば出るものですしね」と言い、万年筆を動かした。

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