この亀で竜宮城に行くのは嫌だ
街を出てすぐに俺は馬車の快適さに違和感を覚えていた。
そうだ、この馬車ほとんど揺れていない。
「アキ、どうしたの?」
「え、いや、案外揺れないもんなんだなと」
「アキ田舎者、揺れない馬車がないのは田舎くらい」
マジか、この世界は意外と文明が進んでいるのか?
いや待てよ?タイヤは普通に木だったし、揺れを軽減させる機械もなかったような…。
「ネル、なんで揺れないか知っているか?」
「知らない、アキは変なこと聞く、知る必要ある?」
ぶっちゃけない、車の作り方を教えてと言われたら説明できるかって話だ。
それにしても、揺れないのはいい事だ。
それと今一瞬だけど、ネルの顔がチラッと見えた。 普通に可愛くて、俺にとってはそっちの方が知りたい情報だ。
馬車が揺れないとはいえ、木の上に座るのは普通に尻が痛いので、クッションは敷くことにしよう。
半分に折ったらちょうどいいか。
「アキずるい、私も座らして」
猫のように四つん這いで近づいてくるネルに、俺は断れるわけもなく。
なんですか皆さん? 流石に二人以上座れないので、こちらを見るのを止めて下さい。
というかザガンさんは、へたったクッション敷いてるじゃないか。
やめろ!俺をそんな目で視るな!
馬車に揺られながら空を見上げると、あいにく空は曇っていた。
Cランクになったら旅をする予定だし、馬車の操作もしっかり学ばないといけない。
そして今回はそこそこの遠出、どんなモンスターに出くわすか分からないから、注意して頑張ろう。
そう意気込むが特にやる事は無い、景色は前と後ろしか見えないし、見えたとしても道か森だ、ぶっちゃけ暇。
そうだ、GMで遊ぼう。
このGMは一体どれほどの事ができるか未だに底が知れない。
自由度が高すぎて検証する事も多すぎる。
まずは適当に入力する。
『近くにいるEランクのモンスターが馬車の行手を阻む』
結構曖昧に書いてみたが、来てくれるだろうか?
そう思って数分もたたないうちに馬車が止まった。
「みんな、丁度いいのが道を塞いでいるわ。 見ているから討伐してきなさい」
サーリアさんがそう言って俺たちを馬車から外に出す。
早速何かが現れたようだ。
道を塞いでいたのは亀だった。 大きさが1mはあり、背中の甲羅は剣山のように凸凹と尖っている。
「Eランクの首長亀よ、注意点は無策に近づかない事、甲羅は高値で売れるから出来るだけ傷つけないように、無理なら割っても構わないわ」
まずはどうしたものか、名前からして首が長いのだろうが、どれだけ長いのか分からないので、正面から突っ込んでいくのは愚策だろう。
様子見がてら、亀の周りをぐるっと一周してみる。
目線からして、真横までしか視界は無いようだ。
甲羅以外の見えている部位は頭、足、尻尾。 尻尾はトゲトゲしていて、頭よりはマシかもしれないがこちらも無策に近づくのは怪我をしそうだ。
ここまで観察して襲ってこないって事はカウンタータイプか足が遅いかだと思うが、どうしたものか…。
俺が悩んでいると、弟が痺れを切らし突っ込んでいった。
すると亀の首が一瞬で伸び、弟の腹に命中する。
「無策に近づいたらダメと言ったはずよ、今のが噛みつきだったら体持って行かれてたわよ、気をつけなさい」
怖…噛む威力も強いようだ。 首は2mほど一気に伸び、一瞬にして戻って行った。
来るのが分かっていたら、見切れないほどでは無いので、首が伸びたところを避けて、首を切れば倒せない事は無いだろうが、問題はこの刃先が欠けたナイフで切れるかどうかだ。
ひとまず避けれるかどうかを判断するため、俺は少しずつにじり寄る。
首が伸びてきた所で首の真横に避けて、軽く蹴りを喰らわしてみると、グニョンとした感触とともに反発する。 硬さからしてゴムのような性質じゃ無いかと仮説を立てる。
多分この亀は首を伸ばしたままにはできないのでは無いだろうか。
「ネル、あいつの首を切る事ができる武器持っているか?」
「ん、余裕」
ネルはそう言うと、真っ黒な刃の少し長いダガーを2本腰から出だし両手に構える。
「じゃあ、頭捕まえるからよろしく」
先程の様に少しずつ近づくが、さっき首が伸びた場所に来ても攻撃をしてこなかった。 蹴った事で警戒されたかもしれない。
だからといって伸ばさないと、ただやられるだけとわかっているのか、亀は痺れを切らして首を伸ばしてくる。
口が空いていることから見て噛み付く気の様だ。
まあ、避けるんですけど。
俺はそのまま首を腕で抱えると、ネルが首を切る。 頭のない首が伸び切ったゴムが切れる様に血を撒き散らしながら本体に戻って行った。
俺はその血に当たらない様に全力で避けて難を逃れたが、ネルはどうしようもないくらい全身が真っ赤に染まっていた。
「よ、良くやったわね2人とも、その…、倒し方が分からずに助けを求めて来ると思っていたのだけど、倒しちゃったわね」
「アキ、許さない…」
「それじゃあ、解体方法と安全な倒し方を教えるから、ネルちゃんはまず着替えていらっしゃい」
ネルは馬車内で着かえ終わると、亀の方には行かずに俺に近づいてきた。
「弁償して」
「ネルちゃん、甲羅は傷ついてないから売ればフードの一つくらい余裕で買えるわ」
「ならいい」
この亀の倒し方は、横から近づいてひっくり返す。 そのまま心臓を刺して終わりだそうだ。
なるほど、力があれば一人で倒せそうだ。
俺たちはその亀を近くの川まで運び、解体方法を教わる。
肉は今晩のメインにするみたいだ。 寄生虫とかは大丈夫なのだろうか。
いや、解体時に見なかったな、もしかして寄生虫はいない? そんな馬鹿な。
甲羅は今回のMVPであるネルが受け取った。 服の弁償もあるし、仕方ない。
ちなみに値段は銀貨5枚〜7枚と普通にいい金額だ。




