GMってチートすぎない?
GMという略称を知っているだろうか。
ゲームマスターの略で、いわゆるゲームの中では神のような存在だ。
携帯ゲームなんかは運営と呼ばれているらしいが、TRPGなどは当たり前のように使われている。
ところで、異世界転移で貰った称号がGMなのはチートすぎやしませんか?
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現在俺達は、いわゆるクラス転移というものに巻き込まれ、城の中に召喚されたばかりである。
目の前には王冠を被った真っ赤なマントの老人と、その隣に俺たちと同じくらいの年齢の白髪の美女がいた。
「鎮まれ皆の者、いきなりで混乱するのもわかるが、まずは話を聞いてはくれまいか」
老人がそう発言すると、ざわついていたクラスのみんながシンっと鎮まり老人の方を向く。
王の風格と言うのだろうか、この人の発言を聞かなくてはならない。
そんな風に思ってしまう自分がいる。
王様の話は一時間ほどの時間を要したが、かいつまむと三つの事を言いたいようだ。
1、魔王を倒して欲しい。
2、この国を豊かにして欲しい。
3、水晶に手を当てステータスを見させて欲しい。
王様の話が終わると俺の少し後ろから
「異世界キター!!!!」
と、騒いでる奴が出る。
俺もそっち側の人間だから叫びたい気持ちはわかるが、流石に騒ぐのはどうなのだ?
ここで我先にとステータスを見に行こうとする者が出るが、特に干渉せず、俺は傍観しておく。
こういう時頼りになる奴がいるからだ。
「皆! 今の状況はよく分からないが、まずはあの水晶に触れる事にしよう! 出席番号順に二列に並んでくれ!」
クラス委員長の沢村…なんだっけか…。
みんな委員長と言っているから忘れてしまった。
声がでかい、七三ぽい髪型、メガネ、という理由から、クラス満場一致で委員長になった男だ。
以降あだ名は委員長。
本人も気に入っているようだし問題はないと思う。
数分もしないうちにクラスのみんなが二列に並び、1番の相沢君が水晶の前に出る。
「では、相澤くん! まずは君からだ、よろしく頼む」
「お、おう! 任せてくれ!」
オタク達なら躊躇いなく触りそうだが、よく分からん水晶に触ったらステータスが見れるとか言われても、戸惑うだろうよ。
台の上に置かれた水晶に相澤くんが恐る恐る触れると、音もせず空中に透明の板が浮かび上がる。
学校の窓くらいの大きさだろう、クラス全員がそれを見た。
【相澤 護人】
Revel 001/100
HP 100/100
MP 500/500
STR 30
POW 100
DEX 50
スキル
品種改良
植物鑑定
成長促進(植物)
称号
異世界人
おぉ、本当に出た。
最初の一人だから強いのか弱いのか分からないから、ちょっとゲームっぽいなと思ったくらいだ。
さて、王様の様子は…
凄い驚いてる。 椅子から身を乗り出し、目が飛び出すのではないかってほどだ。
「お、王様、このステータスはどうなのでしょうか?」
相澤くんがそう発言すると、王様は我に帰り相澤くんの質問に答える。
「そうじゃな、数値自体は魔法使いとしてのFランク冒険者ほどであろう。 Revelが1ゆえ、これからに期待じゃな。 しかし、スキルが前代未聞じゃ。 普通は一人一つ、ごく稀に二つを持っておる。 異常としか言えぬ」
その言葉を聞きクラスが騒つく。
「皆静粛に! さっき王様が説明してくれただろう! 召喚された者は特別な力を持つと! 多分これの事に違いない! みんなも騒がず順番にステータスを見ていこう!」
委員長の言葉に少し騒ぎが収まると、出席番号順2番の人がワクワクした様子で水晶に触れる、2番の人もスキルが3つあり、委員長の言った通りの可能性が高くなっていく。
そして、少し騒ぎになるステータスを出した人が二人現れた。 出席番号17番の首藤さんと37番の弥代くんだ。
須藤さんは副委員長のクール系女子。
なんかいつも難しそうな本を読んでいる人だ。
弥代くんは、いわゆるクラスカーストの上位で、いつも女子が何人か近くにいて、その内の一人と付き合っているらしい。 よく知らないけど。
ちなみに須藤さんのスキルはこんな感じ。
氷結世界
氷像生物
絶対記憶
MP軽減
弱点看破
スキルが5つだった事で少しざわついたのだ。
しかし、クール系だからって氷系は安直すぎないか?
まあ、スキル的に魔王を倒せる候補の一人だろう事だけはわかる。
弥代くんはも同じくスキルが5つあり。
聖剣召喚
正義執行
危機察知
限界突破
血消強化
黄色い悲鳴と歓声が響き渡る。
そしてついに、俺の番がやってきた。 俺の名前は今まで最後じゃなかった事がない苗字だ。
もちろん今回も最後なわけで、いまだに歓声がおさまらないまま、俺は水晶に触れた。
【渡辺 明彦】
Revel 001/100
HP 100/100
MP 100/100
STR 50
POW 50
DEX 100
スキル
称号
異世界人
GM
…は? スキルがないのだが?
先ほどとは違いシンっと静まった空間に、デカデカと浮き上がるステータス。 王様もどう反応したらいいか困っている様子だ。
唯一違うとしたら称号のGMの文字。
だけど、俺以外にも異世界人以外の称号持ちは何人かいて、あまり気にしてない様子。 いや、それ以上にスキル無しに驚いてるだけか。
とりあえず俺の称号がGMなのはなんとなくわかる。 オンラインセッションのTRPGでよくGMをする事が多いからだ。
少し放心していると、目の前にiPadほどのステータス画面とは違う透明な板が浮かび上がった。
何も書いてはいないが、左上に一本線が点滅している。 まるでパソコンの入力場所のように。
なんだこれ?
『なんだこれ』
あ、入力された。
思った事そのまま書き込まれるようだ。
つまり、そういう事だよな?
『なんだこれ』の文字を消して、違う言葉を書き記す。
『委員長が転ぶ 1d3のダメージ』
ダメージ判定は要らなかったかもしれないが、癖だから仕方ない。
すると背後から委員長の声が聞こえた。
「渡辺くん、大丈夫かっ!?」
俺に駆け寄ろうとした委員長は、足がもつれて壮大にすっころび、顔面から地面に叩きつけられる。
仮説は正しかったようだ。
委員長の転倒で沈黙がさらに伸びる事になるが、俺の所為だし助けてあげよう。
「大丈夫委員長? ほら、手貸して」
「あ、ありがとう」
「お礼を言われることでもないよ」
いや、本当に。
さて、最近のラノベでは『王様が無能め!追放する!みたいな流れになる』と思うのだが、この王様はどうだろうか…。
あ、入力されてる。
恐る恐る王様の様子を見ると、不安そうな顔が一変、誰もが見ても分かる怒りの表情を浮かべて。
「スキルがないじゃと! 無能め! お前のような奴は追放じゃ! 兵よ、此奴を城から追い出せ!!」
「お、お父様!? 何を仰っているのですか!?」
王様の隣にいた白髪の美女が止めに入るが、言う事に聞く耳を持つ様子はない。
そして俺は困惑している兵士さんに連れて行かれるのだった。